「クローゼットの中の自由」

 

写真・文 桑田さやか

 

わたしの好きな短編小説で、安部公房の「鞄」という話がある。
とある青年が不思議な鞄を手にして、どこに向かっているのかわからず鞄に導かれながらただただ歩き続ける。
なんともつかみどころのない話に聞こえてしまうけれど、自由について描かれた話だ。

 

最後の一節がとても印象的だった。

 

「べつに不安は感じなかった。ちゃんと鞄が私を導いてくれている。私は、ためらうことなく、何処までもただ歩きつづけていればよかった。選ぶ道がなければ、迷うこともない。私は嫌になるほど自由だった。」

 

解釈にはいろんな方向があるけれど、わたしはこの鞄は日常のようなものだと感じている。
心が踊る日も、気分のさえない時だって、今日がおわると明日が迷いなくやってきて生活という営みは続いていく。
生活の中にある限られた時間にこそ、楽しみをみいだす自由があるように思えて仕方ないのです。

 

服を選ぶとき、わたしはこの自由について考えてみたりする。
好きなもの、似合うもの、いま買えるもの。
長く愛せるものを選ぶときには、これというひとつを選ぶ。
いろんな条件の中で、最良のひとつを選ぶという楽しみには大きな自由がつまっているように感じるのです。

 

そしてクローゼットの中にも。
ひとつひとつわたしに縁があったもののなかで、今日着る一枚を選んでいく。
今日はどんな気分だろう、やっと涼しくなったからこれだろうか。
いつもと同じ服だって、組み合わせで真新しい自分を表現できることもあったりして。

 

Shoka:は大きなクローゼットのような場所かもしれない。
ご縁のある一枚がみつかったときに、心踊って明日への喜びになるような自由と楽しみがつまっている大きなクローゼット。

 

そんな中から、とっておきの服たちをご紹介させてくださいね。

 

 

 

 

このスモーキーな色味の、紳士の香りがするジャケット。
リネンの質感は、どこか懐かしさがあってクラシック。
よく見ると黄色や深い緑、単色ではない色味で作り出された味わいのある緑。

 

コンパクトに見えるけれど窮屈ではなく、着ていく度に体に馴染んでいくような感覚になるのはやっぱり素材の良さだろう。
メンズサイズのすこし大きめのコットンリネンのシャツと合わせてみると、いい具合に着くずれてジャケットがしっくりと身近に感じる。

 

 

 

 

懐かしい雰囲気とともに、samuloのネックレスをつけてみるとループタイのようになってさらに懐かしさが深まる。

 

 

 

 

古めかしく、どこか文学的で紳士な雰囲気を女性が纏うというのは、色っぽいことだと思う。

 

 

 

 

すこし雰囲気を変えて、私物のアンティークのスカートに合わせて。
1930年代のヨーロッパの町娘のような気分になって、気に入っている。

 

もしかするといつもとはすこし違う一枚かもしれないけれど、目があったらぜひ羽織ってみてほしいジャケットです。

 

 

 

 

ふわふわと着心地も軽やかなhumoresque(ユーモレスク)のモヘヤニット。
明るめのえんじ色とチェックのパンツの色合わせが、紳士の普段着のよう。
耳にはさりげなく踊り揺れる、muskaのピアス。

 

 

 

 

色味は紳士、着たときのラインが淑女。
華奢なゴールドのジュエリーとの相性もよく、muskaの滴り落ちた水が水面を弾く姿をイメージした指輪もとてもエレガントにひきたててくれる。

 

 

 

 

こちらは細い糸で編まれたカシミヤのニット。
なめらかで、あたたかくて、やわらかで。

 

わたしは、humoresqueのニットがとても好きだ。
好きすぎてすこし涼しくなったとなると隙あらば着たくなってしまう。
(なので、汗だくで着ていることもしばしば)

 

個人的に汗だくの時期もあるけれど、沖縄の冬はニットが主役になれるいい季候だと思っている。
いや、むしろ沖縄こそニットだ!カシミヤだ!と、声を大にして言いたいのです。
温度調整もしやすく、軽くてあたたかい。
ニットと大きなストールがあれば、あたたかく冬を過ごせる。

 

 

 

 

Vネックの深さも、より鎖骨を美しく見せてくれる。
華奢なネックレスをつけても綺麗だろうし、つけずに潔くmuskaのサンストーンのピアスと組み合わせるとリラックスした雰囲気になる。
ヌードな色合いは、大人の印象です。

 

 

 

 

このリブの長さも魅力的。

 

極上の肌触りのカシミヤニットを、何気なく日常で纏う。
女性にとって、こんな贅沢はないだろうと感じています。

 

 

 

 

 

コットンシルクの軽やかな開襟ドレス。
これもまた、紳士と淑女の香りが混じり合う一枚。

 

 

 

 

素材違いの艶の美しい密度のあるコットン素材のものも。
切り替えの絶妙な位置やタックがつくりだすラインの美しさは、いろんな女性を受け入れてくれるおおらかさがある。

 

インナーにかっちりしたシャツをいれてかっこよく、レースのブラウスをいれてエレガントに、タートルニットでカジュアルにも。
開襟のもつしなやかさと懐かしさは、古い映画をみているときのような愛おしい気持ちになるのです。

 

 

 

 

ヴィンテージのボタンの色味や、ポケット、袖の長さ。
みればみるほど服のもつ細やかな心遣いや遊びに、キュンと胸が鳴ります。

 

 

 

 

スーツ地のようなウールで仕立てられたドレス。
パッとみるとかっちりとした印象だけれど、うすくやわらかでギャザーのつくりだす陰影がとても美しい一枚。

 

きちんとしたお出かけの時や特別な一日にも着たいし、小さな巾着バッグとハイカットのスニーカーでわんぱくに着ても可愛いだろうな~なんて想像も広がります。

 

 

 

 

胸元と袖口のニット部分はカシミヤとシルクのニットで、このコントラストもいいのです。

 

 

 

 

先日humoresqueから届いたばかりの、こちらも薄手のウールで仕立てられた隠しプリーツの美しい一枚。

 

箱を開いた時に、まるで瞬間湯沸かし器のようにみんなで「素敵ーーー!」とときめきが沸騰。
着た時の心の輝きは、晴れやかな笑顔に変わってみているこちらも幸せな気持ちになるのです。

 

 

 

 

歩くたびにちらりと見えるプリーツがたまらないほどに愛らしく、より美しく見えるようにと女性らしい所作に意識がぐっと向きます。

 

 

 

 

こっくりと秋の香りが佇むformeのBalmoral Ankle Boots、この一足で全身がぐっと引き締まってまとまるような存在感。
クラシックな装いにも、はたまたデニムにシャツやニットなどのリラックスした装いにも合う頼もしい靴です。

 

日常と特別の間にあるようなお洋服。
そこには、どちらにもしっくりと馴染んでくれるというおおらかさがある。

 

いつもと違う一枚も、思いがけず似合うことも多くて、着てみて初めてわかることも少なくありません。
えいやっと飛び込む小さな勇気が、きっと楽しみと自由に変わりますよ。
ぜひ、気になるあの子やこの子を試着してみてくださいね。

 

手にとったときのときめきが特別に変わって、その特別が時間をかけて一枚一枚増えていくと、またクローゼットの中の自由が豊かなものになっていくような気がします。

 

そしてそして!
来週からは、わたしたちもみんなで楽しみにしているmon sakata展が始まります。
日常にしっくりと寄り添ってくれる一枚も、すこし特別な一枚も、男性も女性も、たくさん楽しんでいただける空間になっていることと思います。
とっておきの一枚と、ご縁がつながりますように。

 

ぜひ、比屋根の丘の上へ遊びにいらしてくださいね。

 

みなさまにお会いできることをとても楽しみにしております!

 

 

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11月16日(金)~25日(日)12:30~18:00(会期中無休)

 

mon Sakata展 vol V はじめての秋と冬

 

 

 

 

シンプルだけどシャレていて、日常着として着心地抜群のmon Sakataのお洋服。今までの企画展は4回とも春夏の服で開催してきました。南国だもの、その方がニーズに合うんじゃない?ということだったけれど、素材を生かすmon Sakataの秋冬物もぜひ見てみたい。
ということで、沖縄ではじめての秋冬物のmon SakataをShoka:にお迎えいたします。以前坂田さんに、好きな服はなんですか?と聞いてみたら、「ジーンズってすごいなって思うのよ。だって、ほら何にでも合うのよねぇ。カシミアの上質なニットにでも、どんなTシャツにも合うでしょ?素材もそうだけどどんな色にも合うのよ」という答えが返ってきて、なるほど、と。当然と見過ごす中に新鮮な気づき。mon Sakataの原点のような気がします。
mon Sakataの秋の服にはコットン・リネン・ウールやそれらの混紡など、くたくたになるまで楽しめる素材がたくさん。そして、今回天然酵母のパン 宗像どうでパンの発酵の時に使う布を、坂田敏子さんが服の中にとりいれたシリーズもやってきます。10年かけて育った布の表情はなんとも言えない味わい。そして私が敏子さんと出会って10年。その間に発酵した大人の遊び心が反映されているような気がしてとても楽しみなのです。

 

 

 

 

 

暮らしを楽しむものとこと
Shoka:
http://shoka-wind.com