漆と再生の物語

文と写真 田原あゆみ

 
 
 

 
 
3月3日の企画展初日に行われた赤木さんのお話会は、50名を超える人が集まってShoka:は熱気で一杯。
赤木さんのトークは場を和ませる軽やかさがあり、お茶目な冗談にみんなどっと笑ったかと思うと、生きるという本質が語られた時にはしんとした感動が広がってゆく、そんなふくよかな時間を参加者全員で過ごしました。
 
 
 
 
赤木さんから聞いた数々の印象的な漆にまつわる話たち。
 
 
 
<職人たちの共作である>
大手の工場を別にすると、ギャラリーで展示される陶器や木工は一人の作家や職人が作ることがほとんど。
しかし多くの漆器は、何人かの職人の手を経て出来上がってゆく。
  
下地の木のうつわを作る木地職人
漆を塗る塗師
漆を塗る過程で乾いた漆を研ぐ研ぎ師
 
そうして出来上がった漆器に絵を入れる職人を蒔絵師
沈金をする職人など、様々な技術を持つ職人がそれぞれの仕事をして漆器は完成してゆくのだ。
 
 
 
弟子入りすると、師匠と弟子は実の親子より深い絆で結ばれるのだという。
弟子は時に滅私して師匠の仕事に自分を明け渡すことが要求される。
そこで学ぶことは、自分自身の独力で学んで得ることよりも、より深い気づきを得られることがあるのだと赤木さんは語る。
核家族化が進んだ現代の中で失われつつある、人と関わって絆を深めてゆく側面が、輪島の職人の世界には残っているのだ。
 
徒弟制度や漆器を共同で作り上げてゆくことの中にある、誰かとともに結果を探し求めるということの大変さと面白さ、相手の美意識と、こちらの美意識のちょうど真ん中に行き着いた時、思いがけない良いものが出来ることがあるという。聞いていると何だかとてもうらやましくなる。私たち人間は実はこのような人との深い交流を求めているのではないだろうかと感じた。 
 
 
 

(写真は、欅(ケヤキ)の木を向こう側が透けるほど薄くひいた木地に、漆で綿の布を貼付けてから、さらに漆を重ね塗りした大皿と椀。木地職人の技術の高さに驚くようなうつわ。驚くほど軽い。漆の肌はまるで真珠のような有機的な光を放つ。)
 
 
 
 
<自分の道を歩くということ>
赤木さんは編集の仕事をしていた時代に、角偉三郎氏の個展をみて衝撃を受け、それがきっかけとなって職人になることを決めた。
27歳の時のことだ。
10代から修業を始めるのが当たり前のような職人の世界で、遅いスタートを切りながらも、人よりたくさん塗ろうと決意し、輪島塗下地職人・岡本進師匠に弟子入りした4年間、お礼奉公1年を経て、32才で独立。
それまでの間に、様々な師と出会いいろんなことを学ぶことが出来たのだという。
お酒の飲み方から・漆というもの・職人の世界の決まり事 etc・・・
 
独立すると、自分が美しいと思うものを作ろうと決心するにいたり、和紙を使った独自の肌合いを持つ日常の中の漆器を作り始める。初個展で注目を浴び、ドイツ国立美術館「日本の現代塗り物 十二人」に選ばれ海外でも高評価を受ける。

 
 
何かに導かれるような、出会いにめぐまれている赤木さんの職人への道。
赤木さんは、自分の歩く道には、自分に必要なことが既に準備されているのだと言う。
 
 
 
「みんなそうなんです。それぞれの人の道に、その人に必要なこと、必要なものがちゃんとある。それに気づけるかどうか、ただそれだけなんです」
 
 
 
 
「なぜこのタイミングで、この人と出会ったのだろう」
 
「どうしてこんなことが起こっているんだろう」
 
そうやって出会いや起こっていることを味わうと、その出来事の自分なりの意味がわかってくるのだと。
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
<漆と再生の物語>
赤木さんの話の中で特に印象に残ったことがある。
それは、漆とは「再生と生命の可能性を秘めている」ということ。
 
 
赤木さんの椀を使っている人に聞くと、漆のお椀が時に楕円になったり、丸い形に戻ったりすることがあるという。
漆という物質はとても不思議な物質で、固まるとガラスと同じくらいの強度を持つ。
けれども、その下地の木地は呼吸をすることが出来て、形が変化する余裕があり、漆は固いにも関わらず木の動きにあわせてついてゆくことが出来るそうなのだ。
 
そして漆器は塗り直しをすることによって何度も蘇り、かなりの年月使うことが出来る。
私たち人間よりずっと長生きなのだ。
漆器の一番古いものは、日本の遺跡から発掘された物で、縄文時代の物だそう。
なんと9000年前の日本固有の漆を塗った物であることが分かっている。
 
私が使い、娘が使い、きっといつか娘の子どもやその子どもたちが使ってくれるかもしれない漆器。
 
欠けても割れても、漆の接着作用で修復出来、はげても塗り直すことで再生する。
消費する時代から、大切に受け継がれて行く時代、リサイクル=再生の時代に漆はとても合っているのだと思う。
 
 
 
東北の震災の後、去年の6月後半、赤木さんは以前から予定に入っていた仙台での個展を予定通り開催したそうです。
始める前には、様々なものを失った人達にとって今は漆どころではないだろうと、誰も来ないかもしれないことを覚悟していたといいます。
 
ふたを開けてみると、その個展にはたくさんの方が来られて、多くの方々が買って行かれたのだそうです。
それは、様々なものを失った人達が、本当にいいものをもう一度使ってみたい、以前生活の中で使うと元気の出たあのうつわをもう一度使ってみたい、と感じたからだそう。
 
 
訪れた方達は、
「ものをもう一度持つのならばずっと受け継がれてゆくものをもちたい」
「日常の中で漆を使ったり、眺めているともう一度生活を再生したいと、希望が持てるんです」
 
と、語られ、赤木さんもその言葉から漆という素材に可能性や希望を感じたのだそうです。
 
 
 
 

 
私が毎日の様に使っている楡のパスタ皿。
この日はアボカドを切って盛りつけてみました。
 
娘はこの黒い漆器を受け継ぎたい皿NO1に選んだ。
それは、漆のぬくもりと、人肌に近い感触についつい手が伸びてしまうから。
うちでは毎日の様にこの皿を使っています。
 
 
 
 

 
こちらは銀杏の木の大皿。
やはり家で二番目に活躍している漆器です。
 
よく使ったので、去年薄くなった漆を塗り直してもらいました。
宗像堂のパン、バナナコクルレを載せて。
 
 
 
4ヶ月の不在の間は、本当に寂しかったけれど、塗り直してもらって蘇ったうつわを手にした時には本当に感動しました。
赤木さんのところでは、無償で塗り直しや修理をしてくれます。
それは漆の再生する特質や、好きなものを大事に受け継いでゆくことを伝えたいから。
 
 
 
 
 
 
 

こちらも柔らかい肌合いの銀杏のお皿。
黒い器のしっとりとした肌合いと、白い柔らかな光がいくらをより生き生きと引き立てます。
ごっくん。
 
 
 
 
 
Shoka:では私たちが生活の中で、美しいと感じるもの、楽しさやよろこび、人生をより楽しく生きてゆくための知恵ージンブンー、笑い、笑顔、微笑みが広がってゆくきっかけになるものとことを、お伝えしてゆきます。
 
 
 
まるで生きているような漆の世界。
 
3月11日(日)まで。
 
 
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塗師 赤木明登「漆のうつわ」展
 
3月3日(土)~11(日)まで 12:30~19:00

Shoka:
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