金城真次ユネスコ認定 無形文化遺産「組踊」肩肘張らず、純粋に楽しめる沖縄エンターテインメント


 
同じ組踊の演目でも、この人のこの芸が素晴らしいというのがあって。
それに近づきたいという目標があるから続けているのだと思います。
 
既に亡くなられた素晴らしい役者さんの演技と舞台は、自分が実際に見た記憶と映像の中にしか残っていないけど、自分もこうなりたいという強い想いはあります。
 

普段の姿だと、一般的な大学生といった雰囲気 
 
– – – 舞台を観た回数は誰にも負けません。 
 
踊りを始めたきっかけは特にないんですよね、気づいたらやっていたという感じ。
一歳くらいからテレビで放送していた琉球舞踊や沖縄芝居を真似て踊っていたそうです。
当時は週一くらいの頻度でテレビで沖縄芝居を放送していましたから。
今は月一くらいでしょうか、随分減ってしまいましたね。
 
舞台を観に行くようになったのは三歳くらいから。
上演中は泣かなくて、終わったら泣いていたらしいです。「もっとやれー!」って。(笑)
 
実は、小さい頃から自分でやるよりも観る方が好きでした。
だから、演じて上手にできるかというとそこまで強い自信はないんだけど、人よりも沢山観ているということに関してはすごく自信があります。
 
最初はみんな琉球舞踊から入るので、僕も姉と一緒に琉舞の教室に通って習っていました。
組踊も沖縄芝居も、琉球舞踊ができていないと演じられない。琉舞は沖縄伝統芸能の基礎なんです。
 

「衣装を自分で選ぶのも楽しいんですよ。」 
 

普段から着慣れているだけあって、あっという間に着付けてしまう。 
 
– – – 人間国宝の先生からも学べる研修生時代、すごくハードでした。 
 
中学、高校の時もずっと先生について習っていました。
玉城流扇寿会の谷田嘉子先生、金城美枝子先生です。
 
高校生の時に、「国立劇場おきなわ」が第一期研修生を募集していたので応募しました。
今、第3期生までいますが、試験内容は年によってちょっとずつ違うようです。
僕の時は実技が中心。先生が踊ったものを見て覚えてすぐその場でやるという「初見演技」もありました。
40名ほどの応募者の中から合格したのが10名、そのうち立方(たちかた=踊り手)は佐辺良和さん、川満香多さんと僕の3名でした。
 
当時自分は高校生だったので、受かった時は嬉しかったのと同時に、すごく驚いたのを覚えています。
 
研修は3年間あるのですが、最初は高校も行きながらだったので大変でした。
毎週月曜から木曜の週四回、18時半から21時45分までみっちりでしたから。
その間は自分が習っている先生のところへも練習に行けないし、大学受験の勉強もあったし。
しかも土日は何らかの舞台が入るので、金曜の夜はそのリハーサルで22時から稽古があったり、とにかくハードでしたね。
でも好きでやっているので楽しかったです。
 
研修生になると、人間国宝の先生や、第一線で活躍されてる方からじかに教えて頂けるので、すごく勉強になりましたね。
 

 
高校卒業後、沖縄県立芸術大学に入学しました。
以前は「音楽学部邦楽専攻」という名でしたが、今は「琉球芸能専攻」と変わっています。
2年生までは琉球舞踊と組踊を両方学び、3年次に専攻を決めます。
組踊は今でも「男性だけの世界」という考えがわりと残っているので、男子学生はだいたい組踊を専攻しますね。
でも、女性でも頑張っている方は沢山いらっしゃいます。
僕は現在、大学院で組踊を専攻しています。
 


近代的で美しい、国立劇場おきなわ
 

お手洗いのマークが可愛らしい 
 
– – – 何度観ても面白い、たとえオチがわかっていても。 
 
組踊の魅力は、まず話の筋が単純明快。
勧善懲悪だったり、敵討ちだったり、わかりやすいんです。
敵を討ちに行ったけど結局討てなかった〜なんて話はなくて、ほとんどがハッピーエンド。
話の内容だけみるとすごくシンプルだかあら、どう面白く見せるかが重要になってきます。
踊りの技術だけでは十分とは言えないんですよ。
 
立方(たちかた)は何にもせずに止まっているだけという状態の場面もあるんです。その間は音楽だけが流れている。
例えば、父親の敵討ちに向かう息子達が母親と別れるシーン。悲しい場面ですね。その時、立方に動きはなく、立ち尽くしているだけ。
でももちろん、ただつっ立っているだけではなく、表情では演じています。
 
そして、組踊は立方だけでなく、地方(じかた=歌三線・太鼓)がいないと成り立ちませんから、色々な役割の人々が一丸となって一つの舞台を作り上げる、という場の雰囲気も重要です。
 
また、組踊では「序破急(じょはきゅう=日本芸能における加速理念、『起承転結』のようなもの。)」がはっきりしているので、テンポがあって面白いんです。展開がはっきりしていて、いきなりぱっと場面が変わるので、単純明快、わかりやすいんです。
 
琉球王朝時代、約300年も前に作られた話ですが未だに色あせませんし、組踊の創始者である玉城朝薫が作った、古典のような作品が最も人気が高いんです。
話のオチもみんなわかっているけど、何度も観に来てくれる。
僕もそう、同じ演目を何度観たかわかりません。
演じる人が違えばもちろん全く違う舞台になりますが、同じ人が演じてもその時々によって「あ、今日は一段と素晴らしいな」という日もあります。
舞台を見続けていると、そういう違いもわかってくるという醍醐味もありますね。
 
やりたい演目や役は沢山ありますが、「◯◯さんと一緒に◯◯を演じたい」、という願望もあります。
または「あの人の歌でこの劇のこの場面をやりたい」とか。
演じる方にもみんなそれぞれ好みがありますから。
 
例えば、一緒に演じていてとても呼吸が合う方がいます。
話さなくても、合わそうと思わなくても合う。
この辺はきっと相性でしょうね。相性が合うから呼吸が合う。
 

「朝薫の五番」を一つの作品で表したレリーフ  
 
– – – ストレートだから面白い子ども達の反応 
 
国立劇場おきなわの組踊研修修了生で「子の会(しいのかい)」という会を編成し、県内外で組踊や古典舞踊の舞台を行うだけでなく、学校をまわったりもしています。
 
中でも小学校で演じるのは一番面白いですね。
普段の舞台ではまずありえないところで笑い起きたり(笑)
子どもってストレートなリアクションを返してくれるんですよね。
 
国立劇場でやると、お客さんは場の雰囲気を読んで、笑いたくても笑えない場面もあると思うんです。
観客はみなシーンとしてるし。でも小学生は違うんですよ。
例えば、「執心鐘入(しゅうしんかねいり)」を演じると、坊主が出て来ただけで爆笑、「あ、ハゲだ、ハゲ!」って(笑)。
そういう素直な反応が見られるのは、とても面白いです。  
 
でも、小学校でただ演じるだけでは僕たちがやる意味がない。
生徒達が話の流れをつかみやすいように、事前に必ず説明の時間をもうけます。
大まかな流れ、言葉の意味、登場人物の見分け方、そういうものを予習するんですね。すると、字幕が無くても大体の流れはわかりますから。
 
学校で演じる演目は「執心鐘入」や「二童敵討(にどうてぃちうち)」が多いです。内容がわかりやすいし、時間も短めで子ども向きなんです。
 
大人だけでなく、お子さんにも是非組踊を楽しんで頂きたいですね。
国立劇場おきなわでは、親子でご覧になる方向けに、組踊の演者が実演を交えて演目内容を解説し、実演もお楽しみ頂ける「親子のための組踊鑑賞教室」を定期的に行っています。
組踊を観た事がない方には特におすすめ。わかりやすく人気の高い演目が多いですし、お子さんも十分楽しめますよ。
 

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劇場内に設置された「朝薫の五番」のあらすじ。写真の中には金城さんの姿も。
 
幼い頃から金城さんにとっては組踊も沖縄芝居も、伝統芸能というよりは純粋に「娯楽」だった。
そして、それは今も変わらない。
休みの日は何をしているのか尋ねると、
 
「仲間たちと、自慢の組踊や沖縄芝居のビデオやDVDを持ち寄って鑑賞会したりしてます。
『この時の◯◯さんのこの部分、良いんだよね〜』『そうそう、わかる〜』
なんて感じで。すっごい盛り上がりますよ。
こんな昔の映像は僕しか持ってないだろうっていうようなお宝ビデオを自慢したり(笑)」
 
お笑いのDVDを観て盛り上がる大学生と変わらないノリだ。
 
組踊を最初から最後までしっかり観たことがなかった私は、取材に伺う前に「朝薫の五番」を始めとして、有名な演目のストーリーにざっと目を通した。
その歴史の深さからとっつきにくい古典的な物語だとばかり思い込んでいたが、
「執心鐘入」: “イケメンに一目惚れした女性ストーカーを撃退する話 ”、
「雪払い(ゆちばれー)」: “意地悪な継母の仕打ちに耐えるけなげな姉弟 ”というドロドロ昼ドラ系(いずれもあくまで個人的解釈)。
 
意外と現代人にもとっつきやすい?
時代は変わっても、人々が思い悩むことの本質は変わらないのかも。
そして、娯楽の本質も。
 
ユネスコが認定する無形文化遺産にも登録された組踊。
沖縄の伝統だから、自分たちが伝えて行かないといけないから・・・
そんな義務感からではなく、単純に
「面白いらしいから、観に行ってみようかな。」
そんな気持ちで良いのだろう。
琉球王朝時代の人々が、そうしてこぞって観に行ったように。
 

写真・文 中井 雅代

 
 
国立劇場おきなわ
浦添市勢理客4-14-1
TEL:098-871-3311
 
HP:http://www.nt-okinawa.or.jp