イタリアンハウス 38年変わらない 味くーたーな家庭的イタリアン

イタリアンハウス

 

「沖縄でいう『味くーたー』てね、素材の味をしっかり味わえるということだと思うのよ。今の若い人は、化学調味料の味かなんかと勘違いしているみたいだけどね」

 

昭和51年オープンの老舗、イタリアンハウスのオーナーの玉城万敬さんの言葉からは、確固たる自信がうかがえる。

 

「素材の味をしっかり味わえる料理」

 

その言葉には、字面以上の意味があった。

 

イタリアンハウス

 

イタリアンハウスの料理は、出てきたらすぐにありつきたくなる。グツグツと音がしたり、チーズがとろ~りとろけだしていたり、ふわっと食欲をくすぐるにおいがしたり。まるでどの料理も「早く食べて~」と言っているかのようなのだ。

 

グラタンはホワイトソースがクツクツと踊った状態で出てきて、思わず「わあっ」と歓声をあげてしまう。フォークを入れると、ソースのきめ細やかさ滑らかさをまず感じる。さらりとしているが、ちゃんと具に絡みつく絶妙な濃度だ。具をフォークで持ち上げると、適度にソースが絡み、余分なソースは皿に滴り落ちる。

 

聞くとミルクとブイヨンの割合は半々なのだそう。そして2種類のチーズがソースにコクを与えている。具は、エビ、ホタテ、マッシュルーム、シメジ、玉ねぎ、マカロニがたっぷりと入っている。

 

「うちはボイルしたものは使わないよ。だからエビもホタテも生」

 

玉城さんの言葉にハッとした。ああ、そうか。ホワイトソースが美味しいのは、具材の出汁が入っているからなのだ。それに、具材自身にも、噛むとじゅわっとエキスが滲み出る本物の美味しさがある。

 

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ピザには、ポテっと分厚くチーズが乗っている。そのチーズのこってり味に負けない具材は、もちろん素材の味が生きているものを。ビーフミートは手作りだし、ハムなどの加工食品も、噛むほどに味が出てくる本物を選んでいるという。

 

メニューに多いのは食べ慣れている家庭的なものながら、家庭では決して真似できない味わいがある。それは、「素材の味をしっかり出す」という玉城さんの信念から生まれていた。

 

玉城さんは、素材を生で仕入れることに強くこだわる。茹でたものと比べてそんなに変わるものなのか。

 

「ボイルしたものは、安いしね、手間も少なくなるからねそれはいいかもしれん。でもね、ボイルした時点で、おいしい部分は、茹で汁に逃げ出して行ってしまうわけよ。で、そのゆで汁は、工場では捨てられて商品にはパックされないさーね。茹でられた半製品っていうのはね、ダシがらみたいなもんよ」

 

なるほど、生を使うことで素材の旨みを茹で汁にではなく、料理自体に染み出させているということだ。だからグラタンのエビは、旨みたっぷりで、ホワイトソースにも海鮮の味を感じることができたのだ。

 

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玉城さんの素材選びのこだわりは、海鮮だけにとどまらない。当然肉を選ぶ目も厳しい。

 

「ピカピカしている豚肉は、夏バテしている豚のだから固くておいしくないよ。もともと合挽きになっている肉も買わないね。何がどれだけ入っているか分からないからね。仕入れて肉質の悪いものは、納得するまで返品するよ」

 

すると横で聞いていた奥様の直子さんが、すかさず続ける。

 

「この人、業者さんには厳しいのよ。文句が言えるのは長年の付き合いで信頼があるからなんだけどね(笑)」

 

長年付き合いのある業者さんが相手でも、馴れ合いになることは決してない。

 

「だってお客さんの舌はごまかせないよ。お客さんも長年うちに通っているから、味が変わるとすぐにわかって指摘されちゃうからね。『今日の肉は固いね』って」

 

そういえば、肉にも旬があると聞いたことがある。肉の旬は冬なのだそうだ。「動物は、冬のほうが脂肪を溜めているから、いい質の脂でおいしい」のだそう。旬でない夏場でも年中変わらない味を提供するため、長年の経験で培った眼で、厳しく肉を選択する。

 

素材の味をしっかり出す料理の秘訣は、もちろん調理にも。

 

「ミートソースは、豚のだし骨からとった豚骨スープで伸ばしているよ。うちのミートソースは合挽きでなくて、牛のみ。牛肉から出る旨みに豚骨スープを加えることで、鍋の中で合挽き状態になるわけさ」

 

家庭では、炒めた牛肉と野菜からいいだしが出るから、水で伸ばすのが普通だろう。しかし玉城さんは、具の牛肉の旨みだけでなく豚骨の旨みもプラスして、より深い味わいを作り出す。

 

その豚骨スープの取り方にも玉城さんのこだわりがある。豚骨は1度オーブンで焼くというひと手間をかける。臭みを抜いておくのだ。その後おいしい旨みだけを引き出すよう、6,7時間かけてじっくり煮込む。

 

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玉城さんの実践する、素材の旨みを逃がさない調理法の原点は、直子さんのお母様の料理法にある。

 

「お義母さんが作る料理はいつもおいしいのに、僕が作ったのはね、なんか違うわけよ。なんで違うのかねーと考えていたら、かあちゃん(直子さん)が言うわけよ。『あんた、茹で汁捨ててるんじゃない?』って。それでピンときたわけさ。肉でも野菜でもだしがあるのに、ボイルしたら茹で汁を捨てちゃうでしょ。その汁がおいしいのに!ってね。お肉の脂とかアクを取るとか言って、2回も3回も茹で汁を捨てるのはね、あれはカッコつけてるだけ(笑)。残ったガラを食べてもおいしいはずないわけさ。臭みやなんかは、灰汁としてしっかりすくいとればいいの。三枚肉を茹でるとき、お義母さんは何時間も鍋の前に座って、丁寧に丁寧に灰汁をすくってたの。それがいいのよ」

 

玉城さんは、この一件があってから、素材の旨みを活かすことの大切さを考えるようになった。

 

プロの目で厳選した素材を使い、その素材の持つ旨みを逃がさず最大限に使いきる。料理の表に出てこないところに、玉城さんは最も手間暇をかけるのだ。

 

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玉城さんは高校卒業後、すぐ料理の道に入った。東京へも修業に行きイタリア料理を覚え、沖縄海洋博覧会を機に帰沖する。海洋博が終わった頃に念願だった店をオープンさせた。玉城さん26歳の時である。

 

「僕はね、ピザとスパゲッティは絶対売れると思って、ピザとスパゲッティのお店にしたの。でもその当時はやっぱりまだ珍しくて、皆食べ慣れてないものだったみたい。他に比べて値段が高かったのかねー。全然お客が入らなくてね……」

 

そう言って、少し遠い目をする玉城さんに対し、直子さんはその頃のことをにこやかに話す。

 

「結婚して間もなくて、長男がまだ1歳そこらだった。大変な時だったけど、店を持つのが主人の長年の夢と知っていたからね。主人はお店を持つ話しかしないのだもの。もし借金まみれになったら、東京へ出稼ぎに行こうと話してたのよ(笑)」

 

オープン当初の辛かったはずの経験も、今となっては笑い話とばかりに、次から次へと出てくる。

 

「売れるために何でもしたさー。月に1回『ピザの日』というのを作ってね、割引して大判振る舞いしたり。沖縄そばを出したりもしたよ。でもそばはやっぱりそば専門店じゃないとやりきれんさーと止めてみたり(笑)」

 

試行錯誤を繰り返す玉城さん夫婦の努力の甲斐あって、イタリアンハウスのピザとスパゲッティは徐々に人気を集めていく。オープンから約10年後には「豚生姜焼き定食」などの定食メニューが加わり、そして「かつ餃子」というオリジナルメニューが生まれ、と現在の洋食と定食の食堂スタイルに落ち着いた。今では、県外からもお客が訪れる人気の店だ。

 

「最近では、親子2代3代で来てくれるお客さんも増えてるねー。昔から来てくれるお客さんのためにも、あえて昔からの味を変えずに守ってやっているのは、それが嬉しいっていうのもあるね。やんばるからわざわざ食べにきてくれるお客さんがいたり、ガイドブックや誰かのブログを見て空港から直行してくれる観光客がいたり。近所のおじいちゃんが年金からお金を出して、孫がピザを持ち帰りしてくれることもよくあるよ」

 

イタリアンハウス

 

こんなに人気の店だが、息子さんに継がせたいという気持ちは特に強くはないという。

 

「息子らには、好きなことをしてもらえたらそれで満足さ。僕たちの仕事を小さい時から見て知っているから、大変すぎるって分かってるしね」

 

「大変すぎる」のは、玉城さんは何でも手作りしているから。

 

「最近はよく業者が、『これ、使って』と半分作ってあるようなソースを持ってくる。でもね、あんなの使っちゃだめだよ。防腐剤やら何やら色々入っているからね。味をよくするためには、手作りすること、これに限る」

 

例えばビーフミートピザ一つとってみても、ビーフミートは、ハンバーグから手作りしてそれを崩して乗せている。もちろん、ピザ生地も、ピザソースも、タバスコの代わりのタコスソースも手作りだ。

 

メニュー数が多いのに、ほとんどのものをきちんと手作りしているなんて、仕込みに費やす時間は、一体どれほどになるのだろう。そのことを考えると、息子さんたちへの気持ちも残念ながら、うなずけてしまう。

 

イタリアンハウス

 

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それにしても仲のいい夫婦だ。二人ともとびっきりの笑顔で、互いにツッコミを入れながら、楽しそうに色々な話をしてくれる。お店オープンから約37年、家でも仕事場でも一緒で、けんかになることはないのだろうか。

 

「そりゃ、ケンカするに決まってるさー。でもお互いに必要だから、仲良くするしかない」と羨ましくなるような玉城さんのお答え。

 

そして「必要ってほら、色々愚痴や文句を言えるのは、お母さんしかいないって意味よ」とすかさず照れ隠し。

 

けんかの理由は、やはり料理にあることが多いという。

 

「お客さんの要望にどこまで応えるかでいつもケンカよー。お客さんは、ピーマン抜いてくれとかケチャップくれとか言うさーね。お父さんは料理人だから、自分が決めた組み合わせが一番と思っていて、そういうの嫌がるわけさ。私はお客さんが好きなように食べてくれたらいいと言うんだけどね。それでいつもケンカ」

 

だが最近は少し変わってきた様子。

 

「昔は、他店との競争とか頭にあったけど、今はお客さんの『おいしい』が何よりの励み! だから、お客さんから『ピーマン抜いてもらえる?』と言われたら『いいよ』と快く応える。でもいつものクセでつい間違って入れちゃうことがあるけどね。その時は勘弁ね」

 

玉城さんは、素材の味を引き出して引き出して、しっかりとした旨みを作り出す。それが「おいしい」につながっている。素材の味をこんなに引き出せるのは、プロとしての長年の経験はもちろんのこと、お義母さんからのヒントがあったから。

 

イタリアンハウスが、37年という長きに渡りお客さんに愛され続けている理由。それは、玉城さんの作る料理に、プロが作った完璧さだけでなく、沖縄らしい「あんまーの温かさ」があるからに違いない。

 

文 田中えり

 

 

イタリアンハウス
イタリアンハウス
那覇市首里石嶺町2-115(JA首里石嶺店の向かい)
098-885-6401
Open 12:00〜23:00
不定休