» 食堂黒猫多国籍が溶け合うワンディッシュ。月ごとに繰り出される新メニューとスペシャリティコーヒーで遠きメルボルンを引き寄せ、愉しむ。

 

「ワンディッシュにいろんな国を載せて驚かせたいという気持ちがあるんです。味はもちろん、盛りつけや演出の仕方もお客様の想像の上をいきたい。それがメルボルンの料理だから」

 

食堂黒猫の越名サキさんが伝えたいのは、メルボルン流の食の楽しみ方。ただ、メルボルンがオーストラリアの都市で…ということは分かるのだが、メルボルンの料理と言われてもピンとこないのが正直なところ。名物、何があったっけ?と考えこんでしまう。

 

「ウェスタンやミドルイースト、アジアンの発想が溶けた斬新な料理というか…。メルボルンは移民が凄く多いところ。だからカフェやレストランでも、多国籍の人たちが一緒に働いてて、『ここ、こうする?』『私なら、このスパイス使うけど』と作っていくから、いろんな文化が混ざるんですね。イタリアンみたいにトマトを多用するとか、フレンチと言えばホワイトワインのソースやウサギだみたいにハッキリとした特徴が言えないけれど、逆にそれがメルボルンの料理の特徴です」

 

黒猫

 

メルボルンらしさ、それはスープからも窺い知ることができる。

 

『人参とジャガイモのほんのりジンジャーとスパイスを忍ばせたピューレスープに、モロッコスパイスでローストしたカボチャとレンズ豆のサラダが載ったベジタリアンスープ』と、ひたすら長い名だが、ひと目みただけでも、たくさんの食材が緻密に使われているのが分かり、息をのむ。

 

「まず見た目からハッとなってほしい。ただ美味しいだけじゃ私は我慢できなくて。このスープもいろいろ考えながら組み立てていったんです。具材を液体に潜らせるのか、上に載せるのかから始まって、載ってた方が見た感じ面白いな、でもただ載せただけじゃゴージャスじゃないしフレームも作ろう。それには日本じゃあまり馴染みのないカダイフで作ったらインパクトあるんじゃない?とか」

 

ひとさじ飲めば、ジャガイモの甘さを土台にしつつ、酸味や香ばしさが駆け抜ける瞬間がある。味わいもまた予想外だ。

 

「メニュー、十分長い説明書いてますけど、それでも書ききれないぐらい、たくさん食材を使っています。それに、この中で1つもケアしていない食材はないですね。小さく載せたニンジンだって、ただ生のニンジンをヒョイっと載せるんじゃなくピクルスにして、酸味をアクセントにするとか。パンプキンの種もフライパンでローストしてから入れることで歯応えつけて、ただまろやかな口当たりのスープでは終わらなくするとか。お客さんから、『スープ単品に、こんなにボリュームあるなんて!』と言われると、作りこんだ甲斐あったなって思うんです」

 

サキさんはどのメニューも、細かな部分まで自らの手で作りこむ。その徹底した姿勢にも驚かされる。

 

「メニューに添えるパンも自分で作ってます。カンパーニュなら2日かけますね。普通ならもっと短い時間でも作れるんですけど、メルボルンっぽいテクスチャを出したいから、イーストの量をギリギリまで下げて、ほとんど小麦の力で発酵させるので時間かかるんです。こんな感じでどれも作りこんでいるので、丸一日キッチンにいるような日もありますね」

 

黒猫

 

黒猫

 

さらに、驚きは続く。こんなにも手間をかけたメニューも時期がこれば、さようなら。飲むひとを虜にするスープも、およそ1ヶ月後には新しいメニューに取って代わるのだ。

 

「これもメルボルンのカフェの特徴ですけど、美味しいものはひとつだけじゃないって考え方で、創作メニューをどんどん出すんですよ。スペシャルメニューと固定メニューに分かれてて、スペシャルは3~4品ですが、それをもう2、3日で変える。固定メニューも年に4、5回は変えますね。しかも同じメニューは二度としないというのもあって。ここは私ひとりでやってますし、日本でそのペースはちょっと早過ぎるので、固定メニューの中から1つ、4週間に1回ぐらいのペースで新しいメニューに入れ替え、また4週間後に何かが一つ新しいモノに変わるというスタイルにしています。2014年8月にオープンしてから、もう13品ぐらいオンにしたかな。常連さんを飽きさせないようにって想いもありますし、シェフとして一番やりがいある部分でもありますね」

 

その想いは伝わり、お客さんは変化を楽しみにやってくる。サキさんの腕に全幅の信頼を置いているから、気に入ったメニューと別れる寂しさに新しいメニューへの期待感と好奇心が勝つのだ。

 

「『期間限定のスペシャルがあるんだって? それちょうだい』とメニューも見ずにオーダーしてくださる方もおられますし、月に1回女子会をここで開いて、2つのメニューをシェアする方々もいらっしゃいます。でもたまに、『メディアに掲載されたハンバーガーが食べたかったのに、もうないのか…』と残念そうに言われる方もいて…。うちはどのメニューも満遍なくご注文頂くため、看板メニューというものは特にないんです。でも、どのメニューも喜んで頂けるように極限まで作りこんでいるし、『次はどんな美味しいものに会えるんだろう』ってトライする気持ちで来てもらえたら、メルボルンらしくってうれしいです」 

 

変化し続けるメニュー。これは料理の引き出しが多くなければ不可能なこと。だが、サキさんのレシピは限りなく幅広い。

 

「アイデアはたくさん湧きます。このスパイス使いたいってスパイスから組み立てていくメニューもありますし、『紫色の可愛いブロッコリーが入ったけど、使ってみる?』から考えるメニューもあります。あ、ストーリーから広げるメニューもあります。もし、街で気のいいスペイン人のマンマに出会って、『ちょっとウチ寄って、ごはん食べていきなさいよ』と出してくれる料理があるなら、きっとこんな感じ…ビーフブリスケットをほろほろと煮込んでくれるんじゃない?とかイメージをふくらませて。そこから野菜ひとつ加えるのでも、ローストするのかゆがくのか、ピクルスにするか。メニューの見た目に合わせて縦から切るか、横から切るかと組み立てるので、どのメニューも1ヶ月はイメージを膨らませて考えるんですけど」

 

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もちろん想像したものを寸分違わず、実現する腕も要る。サキさんがメルボルンで8年間、さまざまなレストランやカフェで働いて来た経験が、それを可能にしている。

 

「メルボルンに渡ってから、まずフレンチベースの調理師専門学校に通いました。初めは 皿洗いで生計を立てながら。そのかたわら、他の高級モダン創作料理のレストランでタダ働きしながら一つずつ技術を 教わったんです。最初の5年は高級なレストランを含め、いろんな国籍の料理に触れました。モダン創作料理、伝統フレンチ料理、イタリアン、フージョン料理、高級フレンチ。子羊を一匹解体するところからやるようなところもありましたね。いつか小規模なカフェをしたいと言う夢のために、小さいお店でもユニークな料理を出しているカフェを渡り歩き、13軒ものお店で働き、いろんな料理に触れてきました」

 

多忙を極めた、メルボルンでの料理修業の日々。しかしそれはサキさん自身が新しい自分に出会うことや喜びを見つけることにもなったと言う。

 

「料理の世界は本当に甘くない世界で、最初は苦労しかない数年でした。しかしそんな中でも可愛がって教えて下さるキーパーソンに出会い、技術と経験を積むにつれ、現地のシェフと肩を並べて料理ができるようになっていきました。いろんな国の人々とアイデアをシェアし、料理を手がけることで身につく柔軟な考え方、枠にとらわれず自由に料理を表現することで、自身のクリエイティビティや個性を見つけ伸ばしていけたと感じています。今までに感じたことのない自由を料理に教わっていると思います」

 

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そしてサキさんは、今度はメルボルンの食を表現する場として沖縄を選んだ。それはオーストラリア人の夫、クリスさんのたっての願いでもあった。

 

「日本文化が好きなクリスが、以前から日本に移住したいと望んでいたんです。日本の中でも暖かく、そしてメルボルンのようにゆるやかな場所にとなって、『それなら沖縄じゃない?』って。私は大阪出身ですけど、大阪や東京では人々は忙しく、お客さんの数だけをこなすことに精一杯になって、メルボルンの料理の面白さを伝えきれると思えなかったし、お客さんも忙しくて聞く余裕がないかもと思って。だけど沖縄のひとには美味しいもののためなら辺鄙な場所でも、車を運転してでも来てくれる好奇心があるし、こちらも丁寧にメルボルンというものを伝えていけるかもと思ったんです」

 

夫妻の予想は的中。『メルボルンって?』と興味津々のひとがドアを叩く。

 

「オープン当初は、『メルボルン…どこですか?』と言う方々がほとんどだったんですが、今は『メルボルンからきたんだって〜』や『メルボルンってこういうとこなんですね』っていうふうに、少しづつ定着してきているように感じます。初めてメルボルンスタイルの料理を食されたお客様に『うまく言えないけど、なんとなくメルボルン…分かった気がする』って言われたことや、帰り際に『美味しかった~』だけじゃなく『楽しかった!』と言ってもらえるとグッときます。私は国籍は日本人だけど、料理国籍はメルボルンだから、メルボルンを伝えたい。特に、沖縄でメルボルン料理ってないので、私たちが初め。下手なことはできない、次に続くひとのためにも…という気負いもあります。メルボルンを曲げないで伝えたい。だから、それがちゃんと伝わっているんだなと言う手応えを感じられることは本当に嬉しいですね」

 

 

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メルボルンのスタイルを沖縄に伝えたい。その想いは大きなマシーンで淹れられるコーヒーにも表れる。日本移住を前に焙煎士の修業を積んだクリスさんが、注文を受けてから一杯ずつ抽出する自家焙煎したスペシャリティーコーヒーだ。

 

「メルボルンは信号の数よりカフェが多いと言われる都市です。その質の高いコーヒー文化が世界的に注目されています。たまに、『コーヒーは料理とセットではないんですか?』と聞かれることがありますが、うちのように高品質の豆を仕入れ、テストローストからはじまり、抽出までの全てに関わっているこだわりと言うスペシャリティーコーヒーは、料理と同様に貴重で一品としての扱いになり、ついでに付いてくると言う存在ではないんです。それはメルボルンでも日本の現代のスペシャリティーコーヒーでも同様の扱いです。私達の飲み慣れた、そして多くの方々に愛されているメルボルンスタイルのコーヒーの味わいは、日本ではなかなか見つけれないなと日本に来るたびに感じていて。それならその大好きなメルボルン流スペシャリティーコーヒーを沖縄で伝えていこうと思ったんです。このユニークな料理も独特なコーヒーもメルボルンで私達が愛して止まないモノ。それを伝えたくて食堂黒猫は沖縄で生まれました」

 

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サキさんは多忙な合間をぬって、料理教室も開いている。「私自身が料理から喜びやチャンスをもらってきたから、料理で人の役に立てれば、それが恩返しになるかと思って」

 

惜しみなく食材を使い、手間をかけた料理とスペシャリティコーヒー。サキさんの、「ドアを開けたら、メルボルンであるように」という想いは広がっている。繊細に作りこまれたワンディッシュに、行ったことのないメルボルンが映る。カフェやレストランでひしめく街並み、いろんな国の人々で活気溢れる厨房の様子までがありありと浮かぶのだ。

 

黒猫

 

食堂黒猫 Black Cat Cafe
那覇市首里赤平町2丁目40-1 3階
(駐車場2台有り)
ゆいレール儀保駅から徒歩10分

 

050-1070- 6774
9:00 ~ 17:00
定休日 月曜・木曜

 

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