天然酵母専門ベーカリー BELL TREE(ベルツリー) 九州産小麦と酒種酵母の健康パン、完全無添加への挑戦

 

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「ほら、胡麻すごいでしょ?この『紫式部』というパンは1kgにつき、黒胡麻をたっぷり10%いれてるんです。だからね、焼きすぎるとバリバリの胡麻せんべいになっちゃうくらい。でも身体にいいから、これでもかってくらい入れるんです。うちは、美味しいだけじゃなくて、健康になれるパンづくりを目指してるから」

 

ちぎっても、香っても、頬張っても随所に胡麻を感じる。そして胡麻と同じくらい存在感があるのは、生地に練りこまれた黒米だ。粘りけのある黒米のモチモチ感。パンなのにご飯の甘みがして、食べすすめるごとに親しみが湧く。胡麻、黒米などの、いわずもがな現代人が摂りたい食品をパンに込めるのはベルツリーのパン職人鈴木健次さんだ。

 

「紫式部の材料は極めてシンプルで、胡麻、黒米、九州産小麦、天然酵母、三温糖そして天然塩しかいれてません。添加物の出番はなし。お子さんにもおすすめです。外の皮を剥がして、中のやわらかい部分をポッポポッポと離乳食のようにして食べる赤ちゃんだっているくらいですからね。あるお客さんからは『紫式部とお菓子を並べてでかけると、うちの子は紫式部だけをたべて、お菓子はのこしてるんです』って聞いたときはうれしかったなー」

 

その言葉からは、健康なパンづくりへのひた向きな思いを受け入れられた喜びを感じずにはいられない。

 

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石窯時代からの一品、フルーティーハーモニー。通常はサワー種を用いるため、酸味が強くて万人には好まれない。しかし酒種酵母の力で、ライ麦28%配合ながら親しみやすいパンになった。クルミやオレンジピールなどとの混成が華をそえる。

 

「人の身体って食べたものから作られるんですよ。いいものを食べたらそれに応えてくれるし、悪いものを食べたら体調は悪くなる。身体はおどろくほど正直。だからうちのパンを食べてくれる人には元気になってほしい!という一心です。体にいいものだけ使って、添加物はゼロってぐらい最小限にして。食べ続けたら健康になれるようなパンを作りたい。その想いで日々店を開けてるんです。僕も家族も、うちのパンを食べ続けてるんだけど、年中調子がいいんです。朝早いし不規則な生活なのにね。僕なんか、肌ツヤもいいんですよ」

 

鈴木さんが先ずこだわったのは小麦選びだ。厳選に厳選を重ね、お客さんに届けたい小麦を求めて奔走した。

 

「うちのパンは全て、熊本産の小麦『南のめぐみ』を使ってます。理由は安全で美味しいから。外国産小麦だと、何カ月もかけて船で運ばれてくるわけで、その間、船の中は蒸し風呂状態。もう防虫剤や防カビ剤だらけですよね。一応、検査はしますけど、すみずみのデータを取るわけではないから数値には出ない部分もあって。ポストハーベスト農薬は、収穫前に散布する農薬の数十倍とも言われています。知らず知らずに摂ってしまって内臓に蓄積されるから残留農薬って怖いんですよ。だから、初め小麦は、運ぶ距離が短い国産という前提で、北海道産がいいんじゃないかと思ったんです。寒冷地で虫の心配がないと、防虫剤が少なめで済むから。でも、やっぱり震災以降は北のものってだけで気になるという声が多くて…。なので、九州産の小麦で、使ってる酵母との相性を片っ端から試しましたよ。そしてやっと膨らんだ時の香りとか食感、奥行きのある味のバランスが一番良い小麦を見つけ出したんです」

 

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妥協のない材料選びは、鈴木さん自身の経験が元になっている。

 

「昔、おなかが減って考えなしに菓子パンを5、6個食べたんですよ。すごく量を食べたのにお腹はいっぱいにはならなかった。それどころか、胸やけに襲われてたんです。パンしか食べてないのにおかしいなと思って調べてみると、それは添加物のせいなんじゃないかという考えに行き着いたんです。」

 

鈴木さんが言葉を選ぶようにして続ける。

 

「大手だけでなく、個人のパン屋でも添加物は使うんですよ。保存性とか作業性、見た目をよくするために。それにパンだけじゃない、何にでも入ってますよ。スーパーのお総菜に使う醤油だって、裏の表示を見れば醤油としか書かれていませんが、あれは表示義務がないだけで決して無添加ではないんですよね。だけどね、添加物ゼロだったら流通も物流もめちゃくちゃになります。保存がきかなくなったり、量産できなくなったりして物々交換の時代に逆戻りですよ。かと言って、添加物を正当化するのは違う。添加物たっぷりなもの食べて体調崩しても、お客さんの自己責任です、というスタンスには同調できない。だから自分たちのできる範囲で、手が届くことだけでもやれることをやろうと決めたんです。」

 

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そして安全にこだわり、味にも妥協を許さない鈴木さんに欠かせないもの、それは酒種酵母の力だ。小麦の粒ひとつぶひとつぶが弾けるような香ばしい香りだけではない、鼻をくすぐるほのかな甘いかおりはベルツリーのパンの特徴であり、それこそ酒種の証でもある。

 

「酒種は、お米と日本酒を作る時の麹、水だけでできているんですよ。日本人だったらだれでも好きなような香りかな。どこか懐かしいような感じになると思いますよ。一般的な天然酵母はレーズンや林檎由来が多いんですけど、それでパンをつくると酸っぱく仕上がってしまいます。一方穀物類の中ではじゃがいも、人参などから起こしたものなんかは、どうしても癖がでてしまうから難しいですね。その点うちは、酒種なので口に入れた時の香りがまず違うんですよ。人工的に培養されたイースト菌とはちがい、米の甘みを感じるんですね。だからうちのパンは和食にもあいますしね」

 

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ベルツリーでは、具材も手作りに徹する。カレーパンも小一時間かけけて玉ねぎをきつね色になるまで炒める。

 

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奥様の勢子さんオリジナルブレンドのハーブソルト。

 

食べる人の身体への心配りが隅々まで感じられる。これだけ、熱い思いでパンをつくっている鈴木さんだが、意外にもそのスタートはパン職人ではなかったという。

 

「もともとは福島の雪深いところで、ハーブに纏わる仕事をしていました。ハーブを120種類ぐらいかな、栽培しながら喫茶店をやったりしてたんですね。『このハーブをお茶にするとよく寝付けますよ』『元気を出したいときには、ローズマリーがぴったりです』といった具合にハーブの知識をお客さんに伝えていました。ウェディングでは、ハーブで香りのブーケをつくったり、庭の仕事、ガーデンセッティングなんかもやりました。ハーブに関わること沢山やったんですね。その頃たまたまなんですが、カモミールとカボチャのパンを作ってみたところ、『美味しい!!もっと焼いてくれ』と頼まれたんです。当時はまだ家庭用のパン焼き機ですから一斤つくるのに4時間も5時間もかかりました。それを5斤とか注文いただいて、寝ずに焼いた記憶があります。だけど、わざわざお客様がよろこんでくれるのなら生半可なものではなく、得意なハーブをつかうのはもちろん、お客さんの身体をさらに健康にする安全なパンをつくりたいと思って。それで国産小麦、天然酵母、焼き方にも凝ったパンをやろうと思ったんですね」

 

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やるとなったらとことん追求するのが鈴木さん。天然酵母とハーブ、そしてパンを焼くのも石窯ときめ、突き進んでいった。

 

「窯から手作りしましたよ。当時はまだインターネットなんて普及してませんでしたから、軽井沢の有名なパン屋さんに窯を見に行って、頼み込んで一部を見せてもって。もう見よう見まねで耐火煉瓦を積み上げてつくって。7回も失敗して、一酸化中毒でぶっ倒れて運ばれたこともあってね。8回目でようやくうまくいって、旨いパンが焼けるようになったんです、やっとね。石窯で焼くと皆さん喜んでくれて、県内だけじゃなくて関東からもはるばる買いに来てくれる人が増えて、忙しい毎日でしたね」

 

山の中のパン屋さんは、福島で人気のパン屋さんになっていった。しかし東日本大震災が起こってしまい、沖縄へ移り住むことを決めた。

 

「いったんはパンから離れたけど、僕にはやっぱりパンづくりしかないんですね。そう思ってパン職人に戻ってはみたものの、気候の感覚をつかむまでは、何回も何回も失敗したんです。雪国福島と南国沖縄。その差は歴然で、発酵のスピードがまったく違う。真逆の環境ですよね。初めての夏なんか、正念場だったんです。以前は温度を上げるのに時間をかけていたのに、ここはあっという間。なかなかうまくいかなくて何度もパン生地を処分することになって。うちは、酵母をしっかり活動させるために、焦らず12時間以上発酵させて、酒種に小麦のうまみをぐっと引き出してもらうんですけど。でも晩に仕込んで朝きてみると無残なまでにカビが発生なんてこともありました。」

 

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また、福島と沖縄で土地が違えば、お客の好みも違うと鈴木さんは言う。

 

「開店当初は、『アンパンある?甘いものが食べたいのよ』とか、ハーブの解説を見て『もっと普通のちょうだいよ』とか言われることもあったんです。だから、沖縄のお客さんにはどんなものが喜んでもらえるだろうと、模索しました。結果、ベルツリーらしさを沖縄流にアレンジしてできたのが、アンパンであればラベンダー餡にしたり、ミントを効かせたミントメロンパンなどです。ハーブパンでいえば、ハーブの束をどさっと入れたパンドプロバンスってパンも、ハーブの種類を減らしてスッキリしたシンプルな味に変えたりね。他のパンもお客さんのアイデアでサツマイモから紅イモに変えたりとかもしました。沖縄の方の意見を取り入れて、どんどん新しいパンが生まれつつあるんですよ」

 

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どこであっても、お客さんのために美味しい健康なパンを生み出していく鈴木さんが描いているのは進化する次のベルツリーだ。

 

「色んな提案ができたらいいなと思います。パンを温めなおすとき、案外魚焼きグリルをつかって焼いても美味しいんですよとか、ハード系は食事、例えばビーフシチューなんかにも合うんだけど、言葉の説明だけじゃ伝わらないと思うんです。だから店でビーフシチューまで作っちゃってパンの隣にドーンとおいてパンと合わせて試食して、相性がいいのをお客様に実感してもらえたら最高だなぁと思ってるんですよ。」

 

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これからのイメージがパンのごとく膨らむ様子は、新たなパンの魅力を確実に伝えてくれる予感と自負に溢れている。そして鈴木さんの言葉は続く。

 

「『これじゃなきゃ、うちの孫は食わねぇんだよ』といって毎日同じパンを買い求めてくれるおじいさんや、『ここのパンだったら安心して食べさせられるわ』とお母さんが買いに来てくれるんです。責任も感じるけど、そんな風にうちのパンを信頼してくれているお客様のためにこれからもがんばっていきたいと思います」

 

パンを口にする人にとって何が大切かを常に考えているからこそ、そのパン作りから伝わってくるものは優しさと強さだ。潔いまでの誠実さで選んだ材料で、遠回りをしても、不要なものは入れない。100%の無添加を目指してお客さんを健康にできるパンを目指すベルツリー。鈴木さんが手塩にかけたパンには、人々に健康と笑顔をチャージする力があふれている。

 

文/松本 京

写真/金城 夕奈

 

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天然酵母専門ベーカリー Bell Tree
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