「辻和美 + factory zoomer 形と空気」

 

写真・文 田原あゆみ

                    

 

*top 写真 factory zoomer

 

辻和美さんの作品を初めて見たときの印象が忘れられない。
沖縄市のcafe Roguiiで行われた「colors」というタイトルの展示で、オレンジ・黄・青・緑、それこそ様々な色のグラスたちが一箇所に並んでいた。

 

目から元気になるようなビタミンイエローはスカッと。
クールなピンク色は、小学生の時に集めていた紙石鹸の色のようにハイカラ。
インディゴブルーは私が探し求めていた色で、地中海の海のように深く透き通った青。
夜を匂わす紫色はしっとりとしたアダルト。暗くなった頃にロックでウイスキーをいただこうかしら?
様々な色がそれこそ全部垢抜けていて、スタンダードな形の中に納まっていた。

 

私はかっこいいものが大好きなので、その作品たちに胸が高鳴った。いい形、いい色。
そして、オシャレだわ。

 

展示について辻さんに話しを聞いてみたら、「一つのテーブルの上に様々な色をのせてみたかった」、という言葉が胸に響いた。

 

カリフォルニア美術工芸大学でガラスを学んだ辻さんは、文化背景や、肌の色の違う人々が一つの場を共有することのパワフルさを知っているのだ。どちらかというと単一民族で文化を継承し、長子制度が長かった日本では上下関係が自然と根づいていて肌の色は一緒でも、違う意見や好み、考えをえいやっと一つところで共有することはほとんど無いに等しい。

 

国籍、宗教、肌の色、アイデンティティなど、色に込めることができることはそれこそ様々だろう。それを色に例えて一つのテーブルの上に並べたときのパワフルさ。しかもグラスなので色がクリアで光っていて、軽やかだったのがとても気持ちよかった。

 

それぞれの色に感じることはまさに触れる人次第。楽しさ、繊細さ、あるいは力強さを感じたり、ある思い出を引き出す色だったり、と。
そして、様々な色があるからこそ個々の色が生きるのだということが机上の話としてではなく、体験として感じられたことがとてもよかった。それを生活の道具たちの展覧会で経験できたのだから今振り返ってもいい展示だったと思う。

 

そうした彼女の視点を展示のメッセージとして受け取ったことで、その光景はその時も、そして今も私の中で輝いている。

 

2012年のことだった。

 

 

 

 

そう、辻和美さんはセンスのいい人だ。伝統工芸が大切に継承されている金沢で歴史のあるいいものに触れて育ち、商業デザインを学んだ後、当時熱狂的に好きだったというアパレルのブランドに進もうとしていたというエピソードを聞いて、なるほどと思った。
洋服が好きということも着ている服や小物遣いでよくわかる。作るものたちと、持っているものがしっくりくるのは、自分の感覚でちゃんとものを選んでいるということなのだ。

 

作品を使っていて感じることは、丁度いい厚みと重さが、スタンダードな形の中に収まっているということ。無限の可能性がある中から、日本人の現代の暮らしの中に溶け込むちょうどいいところを探っているのだ。
追求しながら、削って削って探り当てたようなシンプルなライン。

 

なのにまるで最初からこの形で生まれてきたような軽やかさがまたいい。

 

 

写真の3つのグラスとサラダボウルは2012年の展示会の時に購入したもの。紙石鹸のようなクリアなピンクのグラスはある日ぱかっと割ってしまって、今は私の記憶の中で光っている。記憶の中でさえ心を明るくしてくれるような心が踊るピンク色だった。

 

右端のコバルトブルーのグラスは、いろいろあるグラスの中でもお気に入りで、このグラスで水を飲むと一層美味しく感じるのだ。手に持った時の大きさも、入る水の量も私にはちょうどいい。

 

黄色は娘のお気に入りで、この色を見たり使ったりしていると元気が出るのだそう。なのでビタミンイエローと私たちは呼んでいる。このグラスを使って水を飲む時に、普通の水の味しかしないことがすごく不思議な気持ちになる。だって、ちょっと酸っぱくなりそうな気がするのだ。
そんなことが楽しい。

 

中央のグラスの色は大人っぽい青紫色。購入するときには、夜のイメージだったのだけれど、家でロックでウイスキーや強目のお酒を飲む習慣がないので、選んだ理由に反して朝食やおやつタイムに使うことが多い。
このグラスに自家製豆乳ヨーグルトとナッツを入れ、その上に大好きなローハニー(非熱処理のハチミツ)を垂らしていただいている。そうすると、いつものヨーグルトが、特別なものになって美味しさもup、気持ちも豊かになった気がする。

 

 

あれから丸7年が経ち、Shoka:で 辻和美 + factory zoomer の企画展が開催されることは感慨深い。

 

 

                     

 

                        
工房では辻和美さんとスタッフの方達がそれぞれの作業をこなす。
左右のバランスを真剣に見つめるスタッフの一人。違和感のあるところに印をつけてバランスをとりながら磨きをかける人、仕上がったグラスの表面に器具で掘り目を入れる人、皆真剣な目で作業に没頭している。

 

工房に取材に行くのが大好きな私は、彼女たちの仕事ぶりに目が釘付け。

 

 

 

黒いマジックを引いている部分を少し磨くのだろうか?じっと皿の表面をみつめている。
こうして多くの人の手を経て、あの使いたくてウズウズするようなガラスの器たちが出来上がるのだ。

 

手の仕事が生み出すもののきらめきは、こうした職人たちの息がかかっているからに違いない、と思う。人の手から、呼吸から、ものにこもるものがあるのだと感じてしまう。
こんな風に生まれてくる現場に触れると、物にも命があることは当たり前のように思うのだ。
まるで工房全体が一つの生き物のように呼吸している用に見えた。

 

 

 

 

 

 

出来上がったガラス製品は水が固まったようなその質感から、涼やかなイメージがある。だが吹きガラスを作る工程は火の熱気に満ちている。
factory zoomerも炎の熱と辻さんのお気に入りの音楽で熱気がムンムン。
その中で熱せられ飴のように蕩けた物質が、成型されるにつれて次第に固まり、その姿を変えてゆく。

 

 

 

 

 

出来上がったものを見ても決して見えてこない細やかな作業。
蓋物のサイズ合わせは、技術の他に二人の息合わせがとても大切なのだ

 

ミクロを探る職人技に息をするのを忘れるほど。

 

 

工業製品の鋳型で作られるものと、手で一つ一つ作られるものの違いがすごくよく分かる。サイズを探りながらすこしずつ修正をかけてゆくが、時には失敗することも。

 

 

 

 

成形の過程で切り取られたり、失敗したガラスはこうして集められ、溜まったら再生ガラスとしてまた生まれ変わる。
様々な色のガラスの破片を集めてリサイクルのものづくりをすると、色は必ずブルーになるのだという。
ブルーを発色させるコバルトが強いからそうなるのだそう。けれどなんとも不思議。私はガラスの色で一番好きなのがブルーなのでいつか辻さんのリサイクルブルーの作品展も開催したい。

 

 

 

 

 

この写真は2018年に金沢に行った時に辻さんの工房 factory zoomer にて撮影したもの。関西のギャラリーさんでの展覧会用の作品たち。今はもう誰かのもとで日々楽しく使われていることだろう。

 

 

コンセプトは colores のときのものとは違うけれど、彼女の形や色に対するセンスは変わらない。

 

蓋物を見ていると、あの細やかな集中力を要する作業はまるでどこか違う世界のお話よ、と言わんばかりの美しく楽しく甘いお姿。
この軽やかさと、楽しさは辻和美さんならでは。

 

 

 

思わず口に入れたくなるようなこの質感と色!
この飲杯でお茶をいただくだけで、違うワールドにトリップできそう。
きっとその国の空気は春のピンク色。
建物は全部ガラスでできていて・・・写真を見ているだけで妄想が広がってゆく。

 

日常の中に、非日常を招くことのできる空気のようなものがこの茶器の中に入っている。そのことに心が躍る。

 

 

 

 

今回Shoka:で開催する企画展のタイトルは「urizom ウリズン」。

 

沖縄の2月から4月初め頃までの季節の「うりずん」からひらめきを得てこのタイトルとなった。
天の滋養が雨になって大地に降り注ぎ、潤った大地から一斉に植物たちが芽吹くその様を「降り-うり」「染む-そむ」=「うりずん」。

 

この季節の沖縄は、花や、緑が美しく開き、野菜たちもすごく美味しくて、一雨ごとに大地が目覚めてゆくのを感じる。春の偏西風も吹き始めて、空気も回るフレッシュな季節。

 

その沖縄のうりずんの季節の生活に寄り添う作品を作りたいと辻さん。
いつでもその土地の人々の生活の中に溶け込むものを提供したいのだそうだ。

 

同じ日本といっても沖縄と金沢では全く環境が違う。城下町で、日本海側の金沢で育った辻さんに亜熱帯に近い沖縄の植物の色や海の色を話しても、言葉だけでは伝わらない。それはもちろんお互いに。私が日本海側の微妙な季節の移り変わりや木の葉の色の変化がわからないように、生活の景色が違うことが逆に神秘的な印象や、憧れになる。その知らないけれど掴みたい、抽象の「うりずん」を辻さんがどのように表現するのかも大きな楽しみの一つ。

 

空想や想像をたどる表現が暮らしの中に入ってくることに、うるおいを感じる。
そう、最後に辻和美さんの仕事に触れて、こうして記事にしたり、DMの言葉をひねり出している時に感じたり見えてきたものを言葉にしたい。

 

 

日常の中には様々な側面がある。
ルーティンワークと呼ばれる、やらなければいけないことも多い。例えば生活費を得るために決められた時間に起きて働くこと、電車に乗ったり、車で通勤したり、掃除や炊事や家事諸々、銀行へ行ったり、子供の学校の送迎。はたまたこうした方がかっこいいとか、こうあるべきよね、という常識と呼ばれる暗黙のルールに対応したり、私たちの日常生活は気を許すと、あっという間に自分自身の感覚以外のものに捕まって、チクタクチクタク時間だけが流れ去ってゆく。
やらねばいけないことばかりを優先していると、生活に潤いがなくなって、くたびれちゃうことも。
あれ?私なんのために生きているんだっけ?と、気づけば自分のケアを忘れて家族や仕事を優先しっぱなし、ということも女性にありがちなことではないかしら?

 

 

そんな日常の中で、心にほんの少しの“遊び心”という隙間があると、そこになにかがぽーんと入ってくることがある。それは目に見えないけれど私たちの人生に色を与え、時に気づきとなって顔が緩み、さっきまで当たり前だと思っていた眼の前の景色を一瞬にして変えてしまう。

 

 

 

 

 

 

私にもその景色が変わる瞬間があった。

 

このガラスの花器を factry zoomer の片隅で見つけて一目惚れ。
「3」「5」「6」という3つの数字が透明なガラスの中に溶け込んでいる。モダンでシンプルで、他の定番の模様の中でも何か色が違って見えた365のシリーズ。

 

だいぶ大きな作品だが手にとっていいかと尋ね、これが欲しいと辻さんに伝えると、

 

「へ~、やっぱりちょっと変わっているのね、あゆみさん。これなんだと思う?この数字」
と、辻さん。

 

「3、5、6・・・9??なんだろう?」

 

「365日。1年365日、デイリーのこと」

 

このやり取りで、辻和美さんが作品に込めている形なきメッセージが私の中に流れ込んできたのだ。見た目に惹かれたのだけれど、その言葉を聞いて意味も見いだせた。

 

悲喜こもごもが溶け込んだ日常と非日常の365。

 

 

 

辻さんが取り組んでいるのは現代アートだと私は思っている。
私は現代アートは「ある視点」を様々な手法で表現し社会に投げかけて何かを問うものだと認識している。
辻さんは現代のスタンダードとしてのガラスの器たちに、彼女の視点を込めて投げかけているのだ。
それから受け取る意味は、触れた人がそれぞれに自分の好きな作品の中に見出したらいいと思う。

 

 

 

 

以下がその企画展の詳細です。
本州で展覧会があると、半日でsold outになることが殆どという、辻和美 + factory zoomerの展覧会を是非時間を作って見にいらしてください。
トークイベントもありますので、ものづくりに関わる方は老若男女を問わず是非。ものが好きな方、日常を楽しみたい方はどなたでもやはり老若男女を問わず是非是非ご参加くださいませ。

 

 

Shoka:オーナー 田原あゆみ

 

 

 

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辻和美+factory zoomer

 

「urizom」
2019/3/2 sat~17 sun (会期中火曜定休)

 

@Shoka: 12:30~18:00

 

*トークイベント*

 

「365DAYS」

 

日時: 3月2日(土)
開場: 17:00
開演: 17:30
場所: Shoka: 沖縄市比屋根6-13-6
参加費:無料
定員に達し次第受付を終了とさせていただきます。

 

○お申し込み方法

1.参加者名(全員のお名前を書いてください)

2.連絡先(ご住所・携帯電話番号・メールアドレス・車の台数)

3.メールのタイトルに「トークイベント参加希望」と必ず書いてください。

申し込み先 Shoka:スタッフ 桑田

お申し込みはこちらまでメールにてお申し込みくださいませ。

以下の点にご注意下さい。

◯必ずメールにてお申し込みください。

◯Shoka:の展示期間中はお子様連れも大歓迎ですが、お話に集中していただきたいことから大人のみ(13歳以上)の参加とさせていただきます。ご理解のほどよろしくお願い申し上げます。

◯駐車スペースが限られていますため、車でいらっしゃる方はできるだけ乗り合せのご協力をお願いします。

 

 

 

最近ピンクが大好きです♡

 

暮らしを楽しむものとこと
Shoka:
http://shoka-wind.com/
沖縄市比屋根6-13-6
098-932-0791(火曜定休)
営業時間 12:30~18:00