「muska jewelry展 に寄せて – 暮らしの中の同志たち」

 

写真・文 田原あゆみ

 

 

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ここ数年の間私はずっと、自分にしっくり来るジュエリーを探していた。

 

muskaに出会ったのは2016年の年末。東京の青山のあるギャラリーで開催されていたジュエリー展でのこと。ある目利きによって選び抜かれたデザイナーたちのジュエリー展で、私の目を引いたのがクリスタルクオーツの原石が揺れるシンプルなピアス。

 

クリスタルの自然美をより洗練されたデザインに落とし込んでいる。このデザイナーはなんてバランス感覚のいい人なのだろうのだろう、と購入を決めブランド名を店舗スタッフから教えてもらった。

 

原石を生かすのはとても難しいと私は思っている。そこには完璧な自然美が宿っているのだから。その美しさを損なわないようにデザインするのはエゴを超えた美に触れた人でないと難しいだろうと感じる。下手をすると、重たい印象の泥臭いデザインになってしまう可能性だってあるのだ。素材と加工技術、石と金属の材料の相性や、色のバランス、金属の仕上げやリングや紐の細さ・・・気が遠くなるような無限の可能性の中からその作り手が、最善のところを探る作業。

 

作り手と使い手、それぞれの好みももちろんある。

 

私はその美しいと思う天然石をより洗練されたものに仕上げることのできる人の仕事の方に心が動くタイプだ。

 

原石のままでももちろん美しいが、ピアスやリングになることで、より洗練され美しくなっていることが感じられるものに出会うのはこの上もなく喜ばしいことだ。
原石のまま小箱に入れて時々眺めるのも楽しいが、やはり身につけることができるのは特別だ。

 

 

私が選んだピアスと同じものは以下の写真のやや中央のドロップ型のもの。クオーツの原石が身につけた時に揺れるようにデザインされている。アフガニスタン産のクオーツは中に水やインクルージョンが閉じ込められていて、自然に織りなす表情がとても美しいのが特徴だ。とてもシンプルなのでどんな装いをしていてもしっくりと馴染み、品よく仕上がるので気に入っている。

 

天然石は全く同じものは存在しないので、それこそ唯一無二。同じデザインのものでも石の色や形が微妙に違っていて選ぶのも楽しい。

 

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一体ジュエリーを身につけるというのはどういうことなのだろう?

 

自分をより魅力的に見せるための装身具として身につける。誰かから受け継いだり、プレゼントされたものはその思い出も一緒に身につけることができる。
私なりに今までの体験を探ってみると、きっといいジュエリーを身につけるということはこういうことだと思う。

 

つけていない時よりも、つけている時のほうがより自分らしく感じる。
身につけることで今日の自分が仕上がる感覚になる。
何か自分の内側と外見が身につけるジュエリーによってしっかりと結ばれて、輪郭がくっきりとする。

 

もしかしたら誰もが感じたことがあるのかもしれない。身につけていない時には心もとないような感覚があるのに、あるジュエリーやアクセサリーをつけた途端に自分の輪郭がはっきりする、そんな感覚がある。

 

 

 

外出する前の日常儀式。
クローゼットの中の服を見回して、今日の自分の気持ちにしっくりとくる服を探す。どうにか納得するところにこぎつけて、最後の仕上げにジュエリーを選ぶ。
今日はシンプルに小さなピアスで仕上げようか?それとも、何か特別な感じに仕上げたいのか?

 

女性は何かしら理由をつけて服やジュエリーに投資する。あえて投資という言葉を使いたいのは、自分の好きなものや、持っていたいもの、美しいと思うものを身につけることによって、ずっと気分が良くなることを知っているからだ。自分に捧げる朝の何十分かでその日1日の気分が変わることを多くの失敗と成功の経験を経て私たちは知っている。朝、自分の気持ちに応えることができた時その1日は違うということを。

 

 

 

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2016年の年末にmuskaのジュエリーと出会い、翌年の夏にメッセージを出した。muskaはしばらく活動を休止するとHPに記載があったので再開したらぜひ連絡を下さいとメッセージを送り、私はmuskaのデザイナー田中佑香さんの仕事が再開するのを心待ちに待っていた。

 

 

2018年の1月半ば、彼女から返信が届いた。お休みが終わって活動を再開したことと、彼女の仕事に対する姿勢が感じられる短文が書き添えられていた。それを読んで私はやはり彼女の仕事の質の良さを再確認した。

 

 

『 仕事を再開しました。私はその人にとっての小さな同志のような、心が優しくなるようなジュエリーを作っていきたいと考え、デザインをしています。muska デザイナー田中佑香』

 

 

ジュエリーのことを「小さな同志」と表現した彼女の言葉。
同志というのは、志を同じくする仲間、という意味。その言葉をデザインするジュエリーに使う彼女がどういう志を持ってこの仕事をしているのだろうと聞いてみたいと思った。

 

翌月、さっそく機会を作って東京蔵前のアトリエを訪れた。

 

 

 

muskaはトルコ語で「おまもり」という意味。田中佑香さんが同国を旅する中で受けた感銘をきっかけにこのブランドは生まれたという。

 

 

 

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2011年の震災のあと、これからどういうジュエリーを作っていきたいのだろう?と模索している時期に訪れたトルコ。佑香さんは忘れられない体験をしたという。

 

早朝と夕暮れにモスクから流れるコーランの祈りの声の荘厳な響き。人々が祈る姿を目の当たりにした時、老若男女を問わずに日々の営みの中で人々が信仰でつながっていることの力強さを肌で感じて心震えたという。そして、都市も、田舎も全てが大自然の中にあることを改めて実感したのだそう。

 

カッパドキアを訪れ、気球の上から広大な大地を見下ろした時、大地の全てのものが一つの絵になって見えた。人々の営みと祈り、動物も人間も植物も、大地の全てのものが天に向かって生命を放ち、それらが一つになって共存しているのをそこで感じたのだという。

 

とても臨場感ある印象深い体験だったのだろう。聞いていて私もその景色を一緒に見たような気持ちになった。

 

 

 

 

 

その体験の中で muska というブランドの名前が生まれた。同時に自然を作るエレメント(要素)を身につけるジュエリーにしようと閃いた。その閃きは、無花果を見て女性性や生命を感じ「incir(無花果)」というリング、美しい天然石を生かしたリング「doga(自然)」、水を思わせるパールをあしらった「su(水)」のシリーズなどがほぼ同時に生まれたという。

 

 

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<muska HPより>

                      

 

 

これはmuskaのHPで使われているイラストの一枚。2016年に制作されたもの。女性の生命力や力強さ、自然と一体となる楽しさを感じる。

 

 

 

 

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<photo by muska>

 

incir(無花果)のリングたち。
なるほど見ていると無花果の実の形をしている。18kのリングを指にはめた時の表部分には佑香さんが中世の占いにインスパイヤされたという象徴的な紋様が彫られているのだそうだ。その上に強度の強い糸を巻いて仕上げられている。muskaのジュエリーはどこかお守りのような要素を確かに感じる。リングは肌に触れて摩擦をうける機会が多いため糸の強度にはこだわっているが、その糸がいつかほころびた時にその下にある紋様に触れることができるという。約束された言葉のような、糸が解けた時に新しい世界が生まれるようなそんな二つの物語が感じられるリング。

 

 

私たちが身につけるものは大きなジャンルで言葉にすると、装身具だろう。装身具の中には、日常的に身を飾るものとしてのアクセサリーがあり、材料が宝石やゴールド・プラチナという宝飾品を使って作られるものたちをジュエリーと呼ぶ。

 

彼女はアクセサリーとジュエリーの隙間を手がけているという感覚があるという。
ジュエリーとして丁寧に制作されているが、特別な機会だけに身を飾るということではなく、日々自分自身のために身につけられるものであって欲しい。そうした願いを持ち、日常の中で美しいものや自然とつながり、その中に生きていることに立ち戻るきっかけとなりうるジュエリーをデザインしているのだ。

 

 

 

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<photo by muska>

 

 

「kum(砂)」のシリーズのネックレスは砂粒のように小さな芥子パールに糸を通してできている。手に取ると軽く、けれど何か力強い感覚が目覚めるような気がする。

 

作業があまりに細くて時間がかかるため、大量に生産するのが難しいと聞いた。確かにこれは根気の要る仕事だが、手仕事には何かが込もるのだということを感じずにはいられなかった。

 

muskaという言葉がおまもりという意味であることを実感する。洗練されていて、現代の私たちの暮らしの中に溶け込み、かつ美しいということがまた嬉しい。

 

 

 

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<photo by muska>

 

天然石の持つ魅力。自然の神秘・深み・美・猛々しさ・生命力、様々な要素を感じるリングたち。天然のままの石はこの世に唯一無二のもの。今回佑香さんがコレクションの一部を準備してくださるそうなので興味のある方は2日(土)の午前中にその石を見る機会を設けたいと思っている。
写真のようにすでに作られたもの以外はオーダー制となっている。

 

 

私も惹きつけられ魅せられた石と出会った時に是非ジュエリーに仕上げてもらって、身につけたいと思っている。

 

 

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このリングはトラピッチェサファイア。トラピッチェというのは、この石の表面に現れている歯車のような模様のことをいう。模様がはっきりと現れていて、かつ色合いの美しいものは一般のサファイアに比べてとても希少で手に入りにくいとのこと。

 

サファイアは深い青だと思い込んでいたのだが、あれはサファイアは原石に加熱を施した後の色なのだそう。

 

非加熱のサファイアはピンクがかったもの、紫から青にグラデーションがかかっているものなど、様々な景色を持つものがあるらしい。
その一部を見せてもらって、自然から生まれるものの多様性と美しさに感嘆とため息の連続となった。

 

 

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非加熱のサファイアをあしらったリング。クリアな薄灰青の石の中に美しいグラデーションが息づいている。

 

 

 

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su(水)のシリーズのリング。佑香さんもつけていて、見ているとなんとも優しい気持ちになる。この可憐さと、たおやかさを身につけることでいそがしさの中で忘れがちな潤いを思い出し、生活の中に補えるような気がする。
私に必要な要素、と感じながらもdogaの石たちのような力強さ、天然美にも魅了される。

 

そのどちらもいいのだと思う。結局、私たちが身につけるものたちは、それを身につけることで得ることができる空気感や力があり、私たちは潜在的、意識的に関わらず選ぶ自由があるのだから。

 

自分が惹かれ、身に付けたいと思うものこそが今必要なものなのだと思う。

 

 

自分自身が手にし、選び、生活の営みの中に持ち帰ったものの中には時を超えて大切にしたいものが現れる。選んだもの全てがそうなるとは限らないけれど、家の中の宝箱を覗いたら思い出があふれ出すようなものがある。常に身につけるものもあるし、特別な時にはこれだと手に取り身につけると、自分のいつもと違う輪郭が出来上がるというものもある。

 

なぜだかこればっかりつけてしまうものもあるだろうし、それは今必要としている何かを私たちに与えてくれているか、思い出させてくれるものなのだろう。

 

 

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そんな私の営みを共に呼吸し、自然という大きな現象の中で私たちが生きているということに視線を戻すきっかけになるような「同志」に出会えることを願い、muska jewelry展 -Our memory is the world’s memory」を開催する運びとなりました。

 

jewelry好きの人も、今までピンとくるものになかなか出会えなかった方も、是非手にしてほしいと願っています。
デザイナーの佑香さんは自分自身は黒子でいいと思っているそう。あくまでもそのジュエリーを選び身につけるのは、その人であって、選ぶ理由も、それから何かを得る体験もその人自身のものであってほしいと願う。

 

田中佑香さんは普段はあまり人前に出る人ではありませんが、企画展2日目の6月2日(土)の午前11時から天然石のコレクションを見せてもらいながらお話を聞く会を開きます。詳細は以下からどうぞ。

 

muska HP
http://muska.jp/

 

 

 

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*6/2(Sat)「石の中の私的宇宙」開催
午前11時スタート(1時間半から2時間くらい)
event@shoka-wind.comへ以下の情報を書き込んでメールにてお申し込みください。

 

 

1.参加者名(全員のお名前を書いてください)

 

2.連絡先(ご住所・携帯電話番号・メールアドレス・車の台数)

 

3.メールのタイトルに「トークイベント参加希望」と必ず書いてください。 申し込み先 Shoka:スタッフ 平家
*以下の点にご注意下さい。

 

◯必ずメールにてお申し込みください。
◯Shoka:の展示期間中はお子様連れも大歓迎ですが、お話に集中していただきたいことから大人のみの参加とさせていただきます。ご理解のほどよろしくお願い申し上げます。
◯駐車スペースが限られていますため、車でいらっしゃる方はできるだけ乗り合せのご協力をお願いします。

 

 

 

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muska jewelry 展
 - Our memory is the world’s memory –
6/1(Fri)- 6/17(Sun)12:30-18:00(会期中火曜日定休)
デザイナー 田中 佑香 在廊日 6/1(Fri)6/2(Sat)

 

 

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『しなやかで壮大な自然に抱かれ、人々は、祈りとともに生活をいとなむ -
トルコで旅するなかでデザイナーが受けた感銘をきっかけにmuskaは生まれました。
同国のことばで「おまもり」を意味するブランド名には
「持ち主にとって、ジュエリーが小さな同志のようであれ」という想いがこめられています。
自然や種々の文化をモチーフとして、muskaのジュエリーはつくられます。
その意匠が紡ぎだす情景が、あなたに出会い、ともにうつくしい時を重ねてゆけますように。
muskaがあなたの日々に寄り添うことを祈って。』

muskaデザイナー田中佑香

                   

 

       

 

 

 

 

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暮らしを楽しむものとこと
Shoka:
http://shoka-wind.com
大人読本
http://otonadokuhon.jp 
 

 

沖縄市比屋根6-13-6
098-932-0791(火曜定休)
営業時間 12:30~18:00
info@shoka-wind.com