『 パンをめぐる旅 』モロッコ、ヨルダン、フランス、インド…奥深い各国のパン パン好きにはたまらないエピソード満載のエッセイ

 
スーザン・セリグソン 著 市川恵里・訳 河出書房新社 2,100円/OMAR BOOKS


― 迷宮のように深いパンの世界 ―
 

夏本番、ということでこれから夏休みを取る予定の人もきっと多いはず。
連休などで出来たまとまった時間に読んでもらいたいのが
今回ご紹介する『パンをめぐる旅』。
パン好きはもちろん、旅好きにもお薦めの、
なかなかヴォリュームのある一冊。


先に断わっておくと、この本はパンの作り方なるレシピ本を想像されるとちょっと違う。


ヨーロッパで生まれたパンのルーツに触れながら、
各地の伝統的なパンからその土地の歴史や文化にいたる面まで
深い考察を加えた力作。
だからといって小難しいわけではなく、
パンを作る人、食べるのが好きな人なら
こんな旅してみたいと思わせるパン尽くしの内容。


アメリカのジャーナリストである著者、スーザンのパンをめぐる旅は
まずモロッコのフェスという街から出発する。


メディナという街では、各家庭でこねた生地を家で焼くことはなく
それを街のパン屋(共同のパン窯)に持っていき焼いてもらう。
焼きあがった頃に受け取りにいくのだけれど、
その数の多さにパン屋はどの家のパンなのか間違えることはないのかとスーザンは疑問を抱く。
それで調べて分かるのがまた納得の答え。


また取り上げるパンの目の付けどころがマル。


アイルランドのソーダーブレッド、
中東ヨルダンのパン事情、
大手パンメーカーのパン工場、
米軍の長期保存パン、
インドのいろんな種類のチャパティ、
フランスのパン祭りなど、
読めば読むほどパンの世界って奥が深~いとため息が出る。


この本の中には最初から最後までパンに情熱をかける人たちがたくさん登場する。


パン屋は男の仕事だとする国、
毎日家族が朝食べるパンを焼き続ける女たち、
パンを焼く窯作りに命をかける男たち、
などなど。


その形は様々だけれど、今この時もどこかでパンを焼く人がいる。
そう考えるととても幸せな気持ちになるのはなぜだろう?
それは著者も言っているように、アラビア語でパンを表す言葉が「命」、生きることを意味していることに他ならないから。


時おりパンの話から脱線するのも著者のご愛嬌。


旅先でその土地の男性から求愛されたり、
レンタカーを借りたはいいけれど
ひどい運転で路駐車のサイドミラーを飛ばすことは一度ならず。


こういう女性だからこそ、
その土地の人々からパンの秘密を聞き出せたのかもしれない。


パン作りに必要なのは小麦粉と水だけ。


簡単に言ってしまえばそうだけれど、
だからこそ作る人の全てがそのまま表れてしまう。
だからごまかせない。なんとも厳しい世界。


読み終わってまずは、埃をかぶっているホームベーカリーを引っ張り出すことから始めようかな。
 

OMAR BOOKS 川端明美



 

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