モーリス・センダック さく じんぐうてるお やく 冨山房 ¥1,300/OMAR BOOKS
瓶(ビン)に入ったミルクが飲みたい。それもごくごくと。この絵本を読み終えてページを閉じても、大きな牛乳ビンが頭の端にちらついたまま。
それに甘いケーキの焼き上がる匂いまで漂ってきそうだ。
今回は現代を代表する絵本作家、モーリス・センダック(Maurice Sendak)の『まよなかのだいどころ』をご紹介。
センダックと言えば、映画化もされた「かいじゅうたちのいるところ」でも有名だ。
画面いっぱいに迫ってくる絵の力強さは、この『まよなかのだいどころ』でも最初から最後まで溢れている。
ストーリーは、真夜中にベッドの中で目を覚ましたミッキーが、「明日の朝のケーキ」を焼くパン屋3人組の台所へ迷い込むところから始まる。ミッキーだけにミルクと間違えられて、パンの「たね」に一緒にされてしまう。
でっぷりと太った父ちゃん坊やのような3人が、ミッキーの入ったパンの生地をこねる様はちょっと怖い。ミッキーの抗議もおかまいなく、オーブンに入れて焼こうとする。
とはいえ、恐ろしい話ではなく、セリフはあっけらかんとして、皆どことなく滑稽だ。
オーブンから抜け出したミッキーは、ミルクを探しに”台所″の夜空へと飛び立つ。
読んでいて楽しいのは、台所の食料品が、出てくる登場人物の身長と同じ大きさで描かれていること。お茶の缶や、ボトル、調味料の類に貼られたラベルが目に入ってくる。
この視点は子どもたちの見る世界だ。身体が小さい分、彼らを取り囲む周りの物は、大人が見るよりもずっと大きく見える未知のものだ。
子どもの頃、病弱だったセンダックの遊び場だったという台所。
そんな彼のバックグラウンドが窺い知れる。
大きなビンの中のミルクの海で泳ぐミッキーが羨ましい。そういえば、何年も前に牛乳風呂なるものに憧れたことを思い出した。確か肌がきれいになるというのである時期、流行ったことがあった。残念ながら牛乳風呂に入ることは叶わなかったけれど。
センダックの絵本を読んでいていつも感じるのは、物語から伝わってくる「たくましさ」。どのページにも、どーんとした力がみなぎっている。私たちに今足りないのはこのたくましさなのでは、と最近思う。
そしてそのたくましさを支えているのは彼の豊かな想像力。それは現実をも圧倒しそうな力に満ち満ちている。
大人になった今、せめて夢の中で、「まよなかのだいどころ」に迷い込んでみたいと思うのでした。
OMAR BOOKS 川端明美
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