『 須賀敦子の手紙 1975-1997年友人への55通 』作家・須賀敦子さんが友人にあてた手紙55通。素直な言葉が綴られた美しい書簡集。


須賀敦子・著 つるとはな ¥2,850(税別)/OMAR BOOKS

 

雨が降ったり止んだりのこの季節、奮発して買った高めのチョコレートをちびりちびり食べるように、少しずつ読んでいるのは刊行されたばかりの『須賀敦子の手紙 1975-1997年友人への55通』。雑誌『つるとはな』に収録され好評の作家・須賀敦子さんが友人に向けて綴った手紙をまとめたこの書簡集。

 

青インクの手書き文字に、貼られた切手、便箋代わりの包装紙に、エアメイルの封筒にユーモアたっぷりの絵はがき。『ミラノ霧の風景』『ヴェネツィアの宿』などの静謐な彼女のエッセイとはまた違う、気を許した友人へのてらいのない、素直な言葉が続く。これまで彼女の文章を読んできた人は彼女への印象が少し変わるだろう。

 

長く暮らしたイタリアから帰国後、須賀さんはコーン夫妻と知り合う。
彼女の人生のある時期をともに過ごし外国に渡ったこの友人夫婦との手紙のやりとりが始まったのが1975年。それから22年に渡って(大学勤務の傍らその間にエッセイを書き始める)手紙が書かれた。

 

同封された魔法の豆、樹木の葉、植物の種にはしゃぎ、読んだ新聞記事に憮然とし、家で飼うメダカが増えすぎて困惑し、と様々な顔を持つ須賀さん。
心の内を語れる相手を得て、生き生きと、身近にあった面白いものならなんでも気負いなく書いている。学生の頃の授業中に交わす小さなやりとりのような微笑ましさが随所にあって、思っていた以上に自由で、いたずら心のある女性だったようだ。

 

インターネットが生活の中に当たり前になり、もっぱらやりとりはメールばかり。この本を読むと、たまには手紙もいいなと思う。また須賀さんの晩年に、私信を交わす友人との出会いがあったことを知る事が出来たのもなんだか嬉しい。何より彼女にとって、書くことが遊びになっていた、というのが発見だった。まるで踊るように自由奔放に書く楽しさが、筆跡のそこかしこから伝わってくる。ひとりの人が生きていた痕跡を留めた美しい書簡集。須賀ファン待望の一冊です。

 

OMAR BOOKS 川端明美

 


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