『 もうひとつの景色 』まるで私の物語? 普通であることを肯定してくれる魅力的な慎ましさと慈愛に満ちたストーリー


ロザムンド・ピルチャー著  青山出版社 ¥1,700 (税別)/OMAR BOOKS
 
― ごく普通であること ―
  
3月も半ば過ぎのこの時期と言えば、送別会シーズン。
連日おいしいものばかり食べている人も多いのでは?
いくら豪華な、凝ったディナーも何度もとなると食傷気味になることも。
そんなとき体が求めるのはあっさりとしたもの。
 
本でも同じようなことが言えて、
難解な哲学書やらモチベーションの上がる啓発本やら
刺激の多い(殺人事件やロマンスが盛り沢山の)ものばかり続くと、
いくら本が好きでも何も読みたくない気分になることがある。
そんなときにソファに寝転んで深く考えず、気負いなく読める本として
イギリスの作家・ロザムンド・ピルチャーの小説をおすすめします。
 
ピルチャーの物語の主人公は大抵ごく普通の平凡な女性。
彼女たちは特別な才能や美貌があるわけでもなく、
現実の世界に根を下ろして日々を慎ましく、誠実に生きている。
その生活の中で家族との関係や仕事で悩んだり、
恋に落ちたり、ささやかな夢を思い描いたりする。
今回取り上げる『もうひとつの景色』もまたそんな作品の一つ。
 
ストーリーは幼い頃に別れた画家の父親ともう一度やり直して一緒に暮らそうと、イギリスのポースケリスという海辺の町へ主人公のエマが戻ってきたところから動き始める。
初春の人気のない海岸。シーズンオフの海には静かにカモメが飛び交う。
話の核は身勝手な人間とそれに振り回される善良な人たち。
期待し、裏切られ、それでもまたお互いを理解しようと関係を修復しようとするのだけれど・・・(続きは本で)。
 
この小説(ピルチャーの他の作品も含め)、
特に斬新でもなく変わったことも起こらない。
誤解を恐れずに言えば予定通りの展開。
登場人物たちもどちらかというと生活感にあふれた勤勉な人たちに光があてられる。
その魅力は? と聞かれるとしたらその物語の中に流れる「安心感」だろうか。
全然違うけれど「サザエさん」みたいな。
読んでいると、平凡であること、ごく普通であることを肯定しているような、
著者の優しいまなざしを感じるから。
  
朝起きて出勤して、家事に追われ、日が暮れたら家路に着く。
その一見単調に見える日々の中に
嬉しいことや悲しいことがたくさん詰まっている。
そんな私たちの姿を重ねて読むことの出来る慈愛に満ちた一冊です。

OMAR BOOKS 川端明美




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