『 三四郎 』今読んでも面白い。誰もがあの頃の「私」に出会える普遍的な青春小説。


夏目漱石・著 集英社¥350(税別)/OMAR BOOKS  

 

大きな台風が去って、空が日に日に高く見えるようになった。ようやくそこかしこに秋が感じられ、読書欲も湧いてきた、という皆さんにぜひ名作と呼ばれる作品も手に取ってほしいと、今回は夏目漱石の『三四郎』をご紹介します。

 

まずは小説の冒頭の場面から。
―「熊本より東京は広い。東京より日本は広い。日本より・・・・・・」。
さて・・・・・・には何が入るでしょう?
主人公・三四郎は大学入学を控え九月(漱石の時代、新学期は秋から始まった)に田舎の熊本から上京する汽車である飄々とした男性に出会う。
後の広田先生として登場する彼のこの台詞はとても有名。この広田先生の言葉を聞いて、三四郎は初めてここで小さな世界から外の世界へ踏み出したことを実感する。

 

「もうちょっとしっかりしなさい」と言いたくなるような、どこか朴訥とした三四郎。その人の良さから、いつも駆け回っているような賑やかな友人・与次郎に振り回されつつ、研究肌の先輩・野々宮や広田先生の生き方に新鮮な驚きを覚え、自由気ままな初めて見るタイプの女性・美禰子に秘かに惹かれていく、というような群像劇。これはもう青春ドラマの原型だ。

 

読んでいてああ、懐かしいなあという郷愁が胸を覆う。まだ何にも染まっていなかったあの頃の「私」。未来も遠すぎて、自身の人生の輪郭もまだ見えず、ただ自由だけがある。

 

秋の近づく構内で、これから始まる新生活に不安と期待を覚えながら立ち尽くす三四郎の姿に読者は既視感を覚えるかもしれない。友情も恋も、世間についてもまして自身の人生についてもまだ何も知らないいつかの「わたし」だと。

 

美禰子のつぶやいた「ストレイシープ(迷える子)」の真意を計り兼ねて、その場で咄嗟に気の利いたことを言えない三四郎。後になってああ言えば良かった、こう言えば良かったと考えるような彼に、いや漱石先生に、現代の私たちもまたいつまでたっても「迷子」だと言いたい。だからこそ今読んでもしっくりくる。

 

教科書で『こころ』を読んで以来、そのイメージのまま漱石の他作品に触れずにきてしまった人にぜひ読んでほしい。登場人物たちと同じ年代の頃に読むよりも、「あの頃」と少し距離が出来てから読む方が深く響くものがあるような小説。
この深まりつつある秋に再読をおすすめします。

OMAR BOOKS 川端明美




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