『 イリュージョン 』じめっとした気分を軽やかに変えてくれる、飛行機乗りの寓話


リチャード・バック著 集英社 ¥350/OMAR BOOKS

 

雨降りの毎日。緑は潤って気持ち良さそうに見えるけれど、こちらはこの時期、湿気との戦い。
気分までじめじめとしてくる前に、ぜひおすすめしたいのがこの『イリュージョン』。
代表作『かもめのジョナサン』で知られるリチャード・バックの寓話的小説。

 

この本が出たのはもうずいぶん前のこと。これまでにもう何度か繰り返し読んでいる。
どんなときに読んでいるかと考えてみると、普段の生活に少し窮屈さを感じたときや、ちょっと現実から離れて新鮮な空気を吸いたいときに手にしているように思う。

 

ストーリーは2人の飛行機乗りを主人公に、自由とは?夢とは?という疑問に思いを巡らす小さな旅のお話。
複葉機に客を乗せては曲芸飛行をして生計をたてている「僕」がいつものように旅をしてまわっていると、ドン・シモダ(通称ドン)という同じような飛行機乗りに出会うところから物語が始まる。
この最初の出会いの会話がまた素敵なのだ(こんな会話をしてみたい。出来ないけど)

 

不思議な雰囲気を持つドンは僕に一冊の本を手渡す。その本のタイトルは「救世主入門」。何やら妖しげ。僕は訝しく思いながらも何故か惹かれるものを感じてドンと行動を共にすることにする。渡された本のページを開いてみると、例えばこんなことが書かれている。

 

 
友人は、君について、君の知人が千年かかって知るよりはるかに多くのことを、出会いの一分間で知るだろう。 

 

ドンのペースに乗せられて、この入門書で救世主になる訓練を受けることになった僕は少しずつ、この世界が光と影が像を結んだイリュージョンにすぎないということを知っていく。
乾いた干し草の上で交わされる二人の会話はまるで、見晴らしのよい広い場所を、気持ちの良い風がさっと吹き抜けていくようだ。
缶詰のコンビーフやシロップ漬けの桃を食べながら、移動し続ける彼らの自由さに、きっと読者は強張っていた身体を解きほぐされるのを感じるはず。

 

 
収録されている村上龍さんの解説の中で、リチャード・バック本人の言葉が紹介されている。「自分の歌をうたい続ける」しかないのですね、と今回もまた勇気づけられた。

 

じめっとした空気をさっと軽やかに変えてくれるこの本。まだ読んだことのない人はぜひ。

OMAR BOOKS 川端明美




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