Detail full(ディテール フル)できるだけ花の邪魔をしない。等身大で楽しむ「花暮らし」

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「私、いわゆるフラワーアレンジメントはあまり好きじゃなくて…。
オアシス(吸水性スポンジ)やワイヤーもできるだけ使いたくないし。
一番好きなのは水生けなんです。
器選びや生け方次第で茎や葉の生え方をうまく利用すれば、ワイヤーを使わなくてもちゃんと固定できるんですよ」
 
Detail full の主宰であり、フラワースタイリストとして活躍する綾乃さんの意外な言葉に、ぐっと興味がわく。
 
「オアシスやワイヤーは最後はゴミになってしまうから、
もらった方が捨てるのも大変だし、できるだけゴミを出したくない。
それに、花や木にとって自然な状態で生けたいと思っているんです。
なるべく花の邪魔をしないように、まるでそこに咲いているかのように」
 
店内を見渡すと、枝ものは木の幹から伸びているかのように高い位置に飾られ、地面に根ざす観葉植物は低い場所に生けられている。
 
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月に一度、店で開く教室でレクチャーしているのも水生けが中心だ。
 
「花瓶に生けるのが難しいと感じる方が結構多いようなんです。
水生けの基本は生け花の教室で学びました。
生け花と言うと剣山に挿す方法を想像する方が多いのではないかと思いますが、『投げ入れ』といって花瓶にそのまま入れる生け方もあるんですよ」
 
それぞれの花が本来ある姿を大事にしているからこそ、その時々の季節の花を扱うことを常としている。

「季節の違う花どうしを合わせると、どうしても違和感を感じてしまうんです。
色合いが同じだからという理由だけで、例えば夏のひまわりと秋のコスモスを一つの花束の中に入れてしまうと、なんだかちぐはぐで不自然な気がして。
むりやり寄せ集めなくても、チューリップとアネモネのように同じ季節の花が1本ずつバケツに入っているだけですごく素敵に仕上がるし、たとえ同じ色でなくても季節感が合っていると自然でいいな、美しいなと感じるんです」
 
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綾乃さんが花に興味を持ったきっかけは、子どもの頃に家に飾られていた切り花だった。
綾乃さんの実家は那覇市内の密集地域にあったため、日当りが悪く、庭の草木も元気に生い茂るというわけにはいかなかったと言う。
 
「それで、買ってきた花を母が花瓶に生けていたのですが、切り花っていつの間にか花が開いてたり茎が垂れてきたりと日々変化がありますよね。それを観察するのがとても面白かったんです。
花についてもっと知りたくなり、高校生の頃には花屋めぐりをするようになりました。那覇市内をだいたい行き尽くすと、他市町村の花屋にまでバスに乗って行ってましたよ(笑)」
 
中でも、通学途中にあった「木の器」という店が気に入り、そこで行われるフラワーアレンジメント教室にも通い始めた。
  
「教室に通うことで、自分がどれだけ花が好きか試したいと思ったんです。
結局わかったのは、これから先どこかの会社に就職して、花を趣味としてだけやっていくのはいやだ! という強い思いでした」
 
花について学ぶ学校への進学を決め、様々な学校の資料を取り寄せたが、最も綾乃さんの興味をひいたのが東京のバンタンデザイン研究所 インテリア学科フラワーコーディネータコースだった。
 
「資格取得やコンテスト参加を奨励する学校ではなく、各分野のプロの方々から実際的な技術や知識を学べるというところにすごくひかれたんです。
でも、資格をとらなくても本当に大丈夫なのだろうか? と少し気になり『木の器』の先生に相談したところ、『確かに資格というのは重要だけれど、それはあなたのスタイルではないと思う』と言ってくださって。その言葉が後押しになり、バンタンへの進学を決めました」
 
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バンタン研究所の授業は日々変化に富み、またその教授方法も独特なものだったと言う。
 
「たとえば、撮影について学ぶ授業ではプロのカメラマンが講師。光量の調節やアングルなどについて教えて頂けるものと思っていたら、『そんなことは最初は考えなくていい。花が一番美しく見えるように、自分の思う通りに撮って来なさい』といきなり一眼レフを持たされて(笑)。最初は『え〜、具体的に色々教えて欲しいな』と不満に思ったこともありましたが、今になってみると当時学んだことが生かされていると感じることが多いんです。
花に当てる照明についてもインテリアとの合わせ方についても、バンタンの先生方がおっしゃっていたのは『デザインはつくるものではなく生まれるもの。必要とされることからデザインは生まれる』と。私自身、作りこまれたアーティスティックな花の見せ方よりも花の自然な姿が好きなので、授業のスタイルも自分に合っていたように思いますし、本質が学べたと感じています」
 
卒業後、沖縄に戻って勤めた花屋でご主人と出会い、結婚・出産を機に退職。
3年ほど子育てに専念していたが、その後「花・教室 ダウ」をオープンさせた。
 
「花に携わる仕事をやっぱりやりたかったんですが、子どもがまだ小さかったので教室主体でゆっくりとやっていました」

それから4年後、夫と共に「Detail full」をオープンさせた。
 
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天井が高く広々とした店内。天井に、テーブルに、床の上にと、様々な場所に花や木が飾られている。
植物のために店内の温度は低めに保たれ、窓や戸も閉められている。外の音が遮断された静謐な空間には、穏やかな音楽と花ばさみがカチカチとふれあう音だけが響く。ちょっとした異空間だ。
 
置かれているのは花だけではない。
店の奥には綾乃さんのお気に入りの品々も並んでいる。
 
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「花屋めぐりをしていた当時、花屋さんが勧めるものを使いたいなぁと思っていたんです。何を使えばいいか分からなかったし、花屋さんにあるものなら間違いない気がして(笑)。
だから自分の店にも、花仕事で使う道具だけではなく、自信を持って勧められる雑貨や衣類なども置いています」 
 
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上質なリネンを用いた「Vlas Blomme(ヴラスブラム)」の服もそろう
 
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衣類、リネン類、アクセサリー、雑貨と商品のジャンルは幅広く、そのテイストも和、洋、ナチュラル系、ジャンク系とさまざまだが、不思議な統一感がある。
 
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植物をモチーフにしたものも多い「CERASUS(ケラスス)」のジュエリー 
 
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編み物と彫金の組み合わせがマッチしてているピアスは「小山兼吉商店」のもの。「繊細な手仕事に見ほれてしまいます」
 
「共通しているのは手づくりのものであること、こだわりが感じられるもの。
たとえばリネンも、ちゃんとした素材を使って歴史のある工場で一枚一枚ていねいに作られている。そういうものにひかれます」
 
商品のセレクトに留まらず、昔からもの作りが好きな綾乃さんが目下夢中なのが編み物だという。
 
「凝りすぎちゃって、ついには糸を紡ぐ所から始めたくなって…(笑)。
糸紡ぎ機を購入し、仕事の合間をぬっては紡いでいます」
 
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ペダルを踏むたびに、綾乃さんの手元にあるリネンの束がしゅるしゅると紡がれていく
 
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「思った通りの太さに紡ぐのはなかなか難しいんです。太くなりすぎたり、細くしすぎて切れてしまったり。今はだいぶ慣れてスムーズに紡げるようになりました。あまりに楽しいので、皆でぐるっと輪になっておしゃべりしながら紡ぎたいくらい!(笑)」
 
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綾乃さんが紡いだ糸は店でも好評で、「手紡ぎのものが欲しい」と指名買いする人もいるという。
 
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「花が好き、手作りが好き。だから、いつか自分が紡いだ糸を編んだもので花を包みたいんです。ビニール製の味気ないひもで結わえたり、チラシで包んだりするのではなくて。上質なもの、大事にされるもので包みたい。
 
当店のテーマは “花暮らし” 。
季節を感じながら自然に、無理をせずに花との暮らしを楽しんでほしくて。
花は料理と一緒だと思うんです。無理をしないこと、自分自身が楽しめることが一番大事なんじゃないかなぁって」
 

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花はアートだと、潜在意識のどこかで思い込んでいたことに気づいてハッとした。
アーティスティックにつくりこむ花の世界も存在するし、素敵だとも感じる。
でも、それだけが花との関わり方ではない。
 
 
花屋に行って自分で花を選び、帰宅後、花瓶に生けてがっかりした経験が何度かある。一本一本は美しいのに、花瓶におさまった途端なんだかしっくりこない。花同士がよそよそしい雰囲気がある。
そのときは生け方が悪いのだと思っていた。技術が足りないのだと。
それも理由の一つには違いないのだろうが、綾乃さんの話を聞いて、季節感を無視していたことに思い当たった。
 
一方、適当に摘んだ野の花を、無造作に飾ったときの美しさといったらなかった。あれは、自然の美をそのまま花瓶の上で再現したからこそ得られた美しさだったのだ。
そのとき我が家で偶然に行われた自然の再現が、Detail full ではもっと雄大に、プロフェッショナルに行われている。綾乃さんの「そこに咲いているかのように」という言葉の通りに。
 
そして、こういう花との関わり方なら私にもできそうだなと思う。
季節によりそい、等身大で、自然のままに。
 

文・仲原綾子 写真・中井雅代

 
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Detail full(ディテール フル)
那覇市金城5-8-10
098-858-2828
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