「何をデザインと呼ぶかということを考えると、沖縄でいえばシーサーもデザインだと思うんです。東京にいるときにはそんなこと考えもしなかったのですが、沖縄に実際に来て、沖縄の人々の生活にその存在が想像以上に密接に関わっているのを目の当たりにして、これはやはりデザインだろうと」
良いものを長く大切に使う「ロングライフデザイン」という独自の観点から商品をセレクト、販売する「D&DEPARTMENT(ディアンドデパートメント)」。
その経営方針も、47都道府県においてそれぞれ現地のショップをパートナーとし、協力しあって拠点作りを進めるという独特のスタイル。
1号店となった東京に続き、大阪、北海道、静岡、鹿児島に次いで6店舗目となる沖縄店がオープンした。
商品はいずれもデザイン性を備えているとうだけでなく、地域の「らしさ」がしっかり表現されているものばかり。
沖縄の沖縄らしさとは? そしてデザインとは?
D&DEPARTMENT代表のナガオカケンメイさんにお話を伺った。
– – – D&DEPARTMENT PROJECT TOKYO のオープンに始まり、目で見てわかるデザインから体験のデザインまで、様々な場所にデザインを見出していらっしゃいますが、ナガオカさんの考えるデザインという概念の範囲はどのくらい広いのでしょうか?
そこからきましたか(笑)
実は、僕自身そこに一番興味があるんですよ。
僕はいわゆるデザイナーで、いわゆるデザイン業界というものも存在します。最初のうちはデザイン業界の中で見たり聞いたりするものがデザインだと思っていたんです。18歳から35歳くらいまでは。
でも、そこにあるものはデザインじゃなくて、そこ以外にあるものがデザインじゃないかなと今は思っていて。普通はデザインと呼ばないようなものと言うか…。
簡単に言うと、デザイナーの名前がスっと出てくるようなものはデザインと呼ばない方がいいんじゃないかなと思うんです。
例えば、この椅子(「カリモク60」)はD&DEPARTMENTで復刻させたもので、こういうのがデザインだと僕は思うのですが、普通の人が見たら誰がデザインしたかなんてわからない椅子だし、ブランド名が有名だったわけでもなくて。
僕が今デザインと呼びたいものは東京以外の場所に多くあるのは確かなのですが、じゃあその領域はどこまでに到るのか、今まさにそれをテーマにして活動してるんです。
– – – だからこそ全国を回られて、デザインと呼ぶべきものを発掘しているということなのでしょうか?
そうですね。今やっているのは「これはデザインと呼ばれているけどデザインじゃないよ」とか、「これはデザインなんて呼ばれたことないと思うけど、デザインだよ」という領域を決める作業ですね。
その選別は、それぞれの土地に実際に行かないとできないんですよ。
– – – 全国共通の条件のようなものがあるわけではないんですね。
ないんです。あると思っていたんですよ、最初は。
でも、それはあくまでも東京から見たその土地のイメージに過ぎなくて。訪れる前に「これはデザインだよね」という話もするけれど、実際にその土地に赴くと、もしくは住んでみると新たに見えてくるものがあるんです。「こういうのをデザインと呼ばないといけないんじゃないか」と、その土地に来て初めて感じるデザインもあるわけです。
– – – 逆に「これはデザインではないと最初は思っていたけれど、沖縄に来てみるとやっぱりこれはデザインだな」というものもありますか?
あります。例えば、シーサーなんて完全にデザインですよね。東京にいるときはいわゆる沖縄の観光要素の一つだとしか思っていなかったのですが、沖縄に来てみると正統派もあればキャラクター系もあって、これだけ多種多様なシーサーを沖縄中の人たちが日常的に使っている。となると、あれはやはりデザインですよね。
デザインってわかりやすい言葉に無理矢理置きかえたら、「コミュニケーションの手段」だと思うんです。沖縄の人たちはシーサーを門に置いたらこういう意味があるという風に、第三者に対して意味を発信しているわけですから。
それを応用して名刺にイラストをつけたり、本の表紙にイラストとして描いたりして、それを見た人にこう感じてほしいと思う…..つまりそれがコミュニケーションをとっているということになるんじゃないでしょうか。
そういう意味でもシーサーはデザインなんだろうなと思います。
自分が30年住んだ東京に目を向けると、同じようなものがあるかな?と考えてしまうんですよね。
それに比べると、沖縄はデザイン的なものがとても多い地域だと思います。
米軍ハウスだってそう。あれもデザインじゃないですか。
看板のないコンクリート打ちっぱなしの建物も、沖縄の建築デザインの特長の一つですよね。それに、看板すらなく、何も貼り付けられていない建物が多いと感じました。東京なんて強風が吹いたら吹っとびそうなものばかりが建築物についてるけど、沖縄の街の風景にはそういうものが殆どない。
そういうその土地ならではの風景もデザインだと思うんです。
– – – 沖縄らしいデザインとは何だと思われますか?
そういうことを、まさに沖縄に住んでいる方々に見つけてほしいんです。ですからこちらから提案することはあまりしないんですね。
沖縄では「OKINAWA STANDARD(オキナワスタンダード)」というチームと組んでいるので、そちらのスタッフに見つけてもらい、僕らにも教えてほしいなと。
他都道府県のショップも同じです。それぞれの土地のチームと「ロングライフデザイン」と言うキーワードだけを共有して、例えば、北海道に住んでいる方々にとってロングライフデザインと呼べるものやことはなんだろう?と北海道のスタッフに模索してもらい、それを僕らにぶつけてもらう。その上で「確かに!」と納得して決定する場合と「そっ…それは微妙…」という場合があって(笑)。
東京本部主導で、型にはめてやっていくように見られがちなのですがそうではなくて、僕らがやっているのは、その土地で長く愛用されているものの中からその土地の本質を見つけ出そう、そのためにみんなが集まる場所を作ろうという発信。こういう意識や行動の拠点を一緒にやりませんか? と。
一見、家具や食器を売っているショップにしか見えないのですが、イベントをやったり、同じ意識を共有するネットワークと繋がったり、果たしている役割は商品の売買にとどまらないんです。
地元のひとが僕らと関わることによって気づくことがあったり、逆に僕らもそれによって沖縄ってこうなんだなって気づいたり。また、地元の方の品物の選び方に変化が生まれたりも。
目標やテーマはありますが、何をセレクトするのかが具体的に決まっているわけじゃありません。
例えば僕が一定期間沖縄を見た上で「これよろしく〜」とセレクトするんじゃなく、「また◯ヶ月後に来ますので、沖縄らしいものを集めてくださいね」という感じ。それで再度訪れた際に商品を見せてもらって「へ〜、なるほど! こういうものがあるのか」と。それをまた僕が東京に持ち帰って、「沖縄ってこうらしいよ」とみんなにも伝えて。
そういうネットワークの繋がり方なんです。
– – – 選定から外れる商品はどういったものなのでしょうか?
僕が最終的に「これはちょっと…」という感じで(笑)。
例えばお土産屋でお土産風に売られているけれど、でも実は沖縄の人でも使ったことないでしょ? というものだったり。
「沖縄らしいもの」というテーマで探すと、ついそういう沖縄らしく作られたものを思い浮かべがちなのですが、そうではなくて沖縄の人の生活に普通に根ざしている、沖縄の人が気づきもしないものにぴったりの商品があったりするんです。
身近すぎて「えっ? これ?!」みたいなものが(笑)。
– – – 沖縄のスタッフと意見が合致しないこともやはりあるのでしょうか?
あります。地元の人しかわからないものを優先しないとダメだとは思いますが、デザイン性という基準は外せません。
というのも、僕らの活動のターゲットは20〜40代、つまり日常でデザインを取り入れている世代に定めているからです。
そういう人たちのことを考えた時に、「このパッケージが沖縄でどれだけ歴史があっても、興味を持ってもらうことはできなんじゃないかな?」という理由で選定から外すことはあります。他の店舗では商品のパッケージを取り去り、透明にして販売したこともありますね。中身は良いのにパッケージがこんなに昔のまんまだと…とか。昔のまんまでもかわいなーと思えるのであればもちろん問題ないのですが。
ダサイというよりも、さきほどの話に戻りますが、コミュニケーションを放棄しているようなパッケージがたまにあるんですよ。それは50〜60代の方にとっては良かったりするので、そういうパッケージが悪いというわけではなく、僕らがコミュニケーションをとりたいターゲットには合わないんじゃないかな? と。
その部分は僕らが判断しますが、それ以外のジャッジは沖縄の人にしかできないのでおまかせしています。
洋服と一緒だと思うんです。どれだけオーガニックで肌に良いといっても、ダサくて着られない服ってあるじゃないですか。それと一緒で中身は食品としてのクオリティが高くても、パッケージのデザインがイマイチだと手が出ない。
デザインも含めて盛り上がってもらいたいという気持ちがあります。
– – – 各店舗のスタッフが候補として挙げる商品には変化は生まれるのですか?
もちろん! でも、デザイン(=美しさ)は選定項目のひとつに過ぎなくて、大きなくくりとして「ロングライフデザイン」と言う基準があり、それを満たすために次の項目を設定しています。
①修理をして使い続けられる体制や方法があること
②作り手の経済状況を生み続ける適正な価格であること
③売り場に作り手の想いを伝える強い意志があること
④作り手に「ものづくりへの」愛があること
⑤使いやすいこと、機能的であること
⑥危険な要素がないこと、安全であること
⑦計画された生産数であること
⑧使う側が、その商品にまつわる商品以外の関心が継続する仕組みがあること
⑨いつの時代の環境にも配慮があること
⑩美しいこと
デザインに関する項目は⑩のみ。このジャッジだけは僕が行いますが、それ以外の9項目はいずれも現地のスタッフが判断するんです。
自分で使っても壊れないとか、修理体勢がしっかりしてるとか交換できるとか、そういう条件をすべて満たした上で、最後の最後に「これってイケてる?」と。
デザイン性だけで選んでいるわけではないんですよ。
10番目の項目も現地スタッフが判断できるようになるのが目標で、すでに完全にお任せしている店舗もあります。
– – – すでに選定されている商品に見られる沖縄らしさとはなんでしょうか?
やはりアメリカの血が入っていますよね。それはとても強く感じます。
特に食に関するデザインは顕著で、飲み物のパッケージなどアメリカ的な要素がよく見られます。他国の要素がこれだけ色濃く表れている都道府県はほかにないですね。東京みたいにミーハーで色んな国の要素を取り込んで…というような生半可なストーリーじゃなくて歴史があるし、アメリカの人も沢山住んでるし。
昨日、コザのとあるレストランに連れて行ってもらったんだけど、一歩中に入ると完全に……よくわかんないスタイルで(笑)。基地のレストランの厨房にいたひとが独立してやっているお店らしいんだけど。カツレツ、オムライス、スパゲッティがワンプレートに盛られていて、「食べきれんわー!」って(笑)。ボリュームがあってアメリカ人好み。だけど客はほとんど日本人。でも完全に日本じゃないっていう、沖縄らしい良さのある店でしたね。
– – – 「d design travel」など観光におけるデザインにも注目なさっていますが、観光立県である沖縄の観光には、何か問題点があると思われますか?
あるあるある!(笑)
沖縄観光というと大きなネタが10個もなくて、しかもずーっと変わってないじゃないですか?それを無理矢理進化させられても困っちゃうし、東京みたいにスカイツリー作られても困っちゃう。
何もしなくても新しい角度から沖縄らしい観光を見つける必要があると思っていて、僕らはそのことにとても興味があるんです。
もしくは、ものすごく沖縄っぽい要素を使ってめちゃくちゃ新しいものを作っちゃうか。
この2つはこれからの課題。
例えば米軍基地だったところを買い上げてモールをつくるんじゃなくて、買い上げてそのまんまにしちゃうとか。おもしろくないですか? 普通は入れないところに入れるっていうだけで観光になるんじゃないかと思うんです。
そういうのはすごく沖縄らしくて沖縄にしかできないこと。
例えば、沖縄のデザイナーが東京からやってきたデザイナー30名を引き連れて沖縄を案内しようとすると、きっと一般的な沖縄の観光地じゃないところにも行くと思うんですよ。そういう場所をもっとアピールしていく必要がありますよね。
昨日もまさにそんな感じで、沖縄のインテリアデザイナーが例のレストランに連れて行ってくれたんです、「おもしろいところがあるよ」って言って(笑)。
でも確かにああいうとこ連れて行かれちゃうと「なにこれ〜!!」ってびっくりもするし、楽しいですよね。東京にはああいう店はないし、おいしいとかおいしくないとか以前の問題で、文化なんですよね。僕らにとっては異文化。沖縄らしい文化のどまんなかに投げ込まれるから、すごい刺激的ですよね。
実際に出される料理はまあ、ハムカツランチみたいな感じで「これは…沖縄らしいかなぁ?」とか思いながら(笑)。
でも、そういうのをひっくるめた環境が異質だから、沖縄に来たぞー!っていう実感もできますよね。
– – – 旅行ってそういうことですよね。普段の生活ではありえないことを体験できる。
そうそう。城址に行って歴史を感じるのもいいんだけれど…
あ、でも、城址の中に沖縄で活躍している建築家がおしゃれなカフェをつくったりするのもいいかもしれないですね。
なんの接点もないのに新たな観光要素を作ってしまうことだけは反対ですが、まだまだ発掘できる要素があるんじゃないかと思います。
今の沖縄の観光は、大規模な建物で大人数を動かすものが中心になっちゃってますよね。何万人も動員しなくても沖縄らしさを伝えるものは他にもっといっぱいあると思うんです。
やちむんの里に宿泊施設を作ったらいいのにな〜とも思いますね。滞在しながらやちむんを焼けたり。
今の若い人たちが求めている観光地は、月間何万人動員した、ということが話題になるような場所じゃないと思うんです。
D&DEPARTMENT沖縄店は、宿泊施設を完成させるという段階がまだ控えているんですよ。
今は第一段階。MIX-life styleさんと一緒にD&DEPARTMENTをやること。
第二段階は20〜30部屋の客室をもったD&DEPARTMENTのホテルをつくること。
だから、まだまだこれからなんです、沖縄は。楽しみですね。
私たちにとっての「当たり前」の中にもデザインがある。
シーサー、ジュースの瓶、アメリカ風なワンプレート大盛りご飯、外人住宅…
話題性だけを狙った観光スポットを新たに生み出すのではなく、いつも目にしている当たり前の風景の中にひそむヒントに気づき、掘り起こしてみよう。
私たちにとっての日常こそが沖縄らしさ。
「うちなーんちゅにとっての当たり前」に、もっと誇りを持ったっていい。
写真・インタビュー 中井雅代
D&DEPARTMENT
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