zazou(ザズー)贈りたくなるパン。パリテイストをコザで貫き20年以上、ハード系パンのさきがけ的ベーカリー。

zazou

 

「20年前には、ハード系のパンなんて沖縄のどこにも売ってませんでした。
お客様に受け容れていただけるのかどうかわからない。
でも店を開くときに決めていたんです、どこまでもパリテイストを貫こうって」

 

1989年にオープン、今年で23年目を迎えた zazou は、沖縄でハード系のパンに着目したさきがけとも言えるベーカリーだ。
沖縄市コザゲート通りという場所柄もあり、アメリカ文化の影響を強く受けて育ったコザんちゅには特に、ふんわりとやわらかいものこそがパンという価値観が強く根付いており、噛み応えのあるフランスパンのようなパンには馴染みがなかった。

 

「オープン当初から苦労の連続でした。そもそも、パンが堅いという時点で受けいれてもらえない。
フランスパンを初めて見たご年配の女性が、パンをコンコンと叩いて
『このパン、固くなっているよ』と。
そういうものなのだとご説明するとご購入くださったのですが、後日店頭にいらっしゃって
『口の中、血ー出たよ』と。
当時はパンと言えばやわらかいテーブルロールのようなもの。ベーグルの理解にも10年かかりました」

 

zazou

 

 

 

オーナーの安村さんとともに zazou を支え続けている店長の「ふうこさん」こと房子さんは大学の同級生でもある。当時を振り返って顔を見合わせる。

 

「私たち、どうしてあんなに頑張れたんだろうね?」

 

「目の前にあることをやらないと気が済まない性分なのよね、お互い。学生時代から!(笑)」

 

「確かに。山があったら何がなんでも登る! それは今も変わらないよね」

 

シンプルな素材を用い、発酵に時間をかけて作るハード系のパンや自家製酵母のパンは、今でこそ広く認知され人気を博しているが、当時はそいういうパンの存在自体がほとんど知られていなかった。

 

「売れるようになるまでは何年もかかりましたが、あきらめようと思ったことは一度もありませんでした。
絶対にこのパンを店に置いておかなければならない、そうしないと私たちが目指すパン屋になれないと思っていたからです。
一生懸命作ったものが売れないというのは本当につらいこと。だけど、苦労を上回る喜びもありました」

 


 

zazou
店内のカウンター席はイートインスペース

 

ヨーロッパでは古くから食されているハード系のパンは、外国に長く暮らしていた人や米軍基地に到着する旅客機のクルーなどの間で評判となり、次第に口コミで人気が広がっていった。次のフライトに間に合うようにと、走って店に入ってくるアメリカ人もいたと言う。

 

「私たちはアルバイトスタッフも含め、全員で新商品を開発します。試作にもすごく時間をかける。
だから良いパンができたらまずスタッフみんな大喜びします。
そして店頭に出したときのお客様の反応にまた喜び、
さらに、買って帰られた方やそのご家族が召し上がって喜んでくれる、そしてまた買いにきてくださる。
つまり、作って楽しい、買ったひとも嬉しい、家で食べたひとも満足という喜びの輪が生まれる、こんな幸せなことってありません。だから途中でくじけることなく続けてこられたのだと思います。
それに、つらいことほど後になっていい思い出に変わるものなんですよ」

 

 

 

 

表面はかりっと香ばしく焼かれ、なかはもっちりと歯応えのあるハード系のパンだけでなく、さくっとした食感にさっぱりとした甘みのクリームが好相性のデニッシュもおいしい。
ボリュームのあるジューシーなパテと分厚いトマトが嬉しいハンバーガーや、県産豚肉にカレーソースを合わせた夏カレードッグのようなお食事系パンも豊富。

 

パンの種類がバラエティに富んでいるように、店に訪れるひとびとの顔ぶれもさまざま。

 

白ひげをたくわえた外国人男性がセットを注文したかと思えば、若い女性客がデニッシュを箱買い。次は親子連れが入って来て・・・と、幅広い世代に愛されている。

 

 

 

 

熱心に店に通う常連客の存在にも支えられたと語る。

 

「アメリカ人のお客様の中には、ギリシャ系、ドイツ系、イタリア系とさまざまな人種の方がいらっしゃるのですが、『わたしの故郷にはこういうパンがある、是非作って欲しい』というようなリクエストをいただくことが多いんです」

 

ここでも、安村さんたちの「山があったら登る」の精神が発揮される。

 

「それが聞いたことのないようなパンであっても、私たちは必ず『YES! トライしてみます』と答えるんです」

 

ドイツのロールパン「ブロッチェン」は、ドイツに長く住んでいた人に「あの味が忘れられないから作って」と言われて作ったのがきっかけ。

 

アメリカ人の旅行者に「沖縄に3週間いるからその間に食べたい」と言われてガーリッククーぺを製作。
「試行錯誤を経てやっと完成させたのですが、その前日に彼は帰国してしまって! 」

 

ポーションタイプのクリームチーズとベーグルを必ず購入するインド系の男性がある日、「ベーグルにクリームチーズぬるのが面倒だから、クリームチーズ入りのベーグルを作って!」と。早速、クリームチーズベーグルを作った。

 

いずれも、今や看板商品となっているパンばかりだ。

 

「うちのパンにはどれも必ずと言っていいほどエピソードがあるんです。
お客様からの意見やアイディアはどんなささいなことでも必ずスタッフ全員で検討します。
私たちにご期待くださるお客様のおかげでここまでバリエーションが増えました。お客様に育てられた店なんです」

 


左:ガーリッククーペ 右:クランベリーブロッチェン

 

 


パン以外のお惣菜も。「リピーターも多い隠れ人気商品なんです」

 


食材に対して誠実であれば、ジャンルを問わずおいしいものができるのだと痛感する味わい

 


以前はホテルのパン職人だったシェフ。「彼はちょっとシャイで無口な人。きっとパンで会話してるのね」

 

zazou

 

「zazou」とは、第二次世界大戦中にジャズに熱狂していた若者たちの総称だという。

 

一つの分野に熱中するという点において、zazou のスタッフにも同じ熱意を感じる。
世界が戦争の渦中にあったころ、zazou 達が戦いには目もくれずジャズに熱を上げていたように、やわらかいパンが主流だった沖縄で、ハード系のパンを作り続けてきた安村さんたち。

 

 

zazou では、パンを入れる箱が準備されている。

 

「これもお客様からのご要望を元に始めたサービスです。
お祝いや行事ごとなど、人が集まる席に沢山もっていきたいと言っていただくことが多くて。お盆に持って行ったら他の親戚とかぶっちゃいましたという嬉しいエピソードも伺いました」

 

安村さんたちのひたむきな努力は、大きな実を結んだ。
ハード系のパンは今やマイノリティではないし、zazou のパンを食べるために、遠くから足繁く通うファンも多い。
しかし、zazou のゴールはきっとここではない。新たな山を見つけ、そしてまたのぼり続けるのだろう。

 

「もっと席数を増やして、カフェもやりたいと思っています。
テーブル席を作ってほしいというお声も頂いているので」

 

いつだって「YES!」と答える。
zazou はこれからもリクエストに応え続け、そして前進し続ける。

 

写真・文 中井 雅代

 


zazou(ザズー)
沖縄市中央2-15-1
駐車場あり
098-934-2380
open 10:00〜19:00
close 火

 

ブログ http://zazou1989.ti-da.net