現在休業中
※2015年7月現在、1種500円、3種、1200円、5種1750円に変更
手描きのチーズのイラスト。それぞれの特徴を捉えた実直な線から、ここのチーズがよく観察され、慈しまれているのだと分かる。描いたソセアミの店主、香田奈津子さんは言う。
「ナチュラルチーズは、味がどんどん変化していくもの。ちゃんとピークを見計って出して、少しでもピークを過ぎてしまったらもう出しません。よく『ブルーチーズだけは苦手…』と言う方が、うちのブルーチーズなら食べられたり、チーズ通の方からも『今までのロックフォールはロックフォールじゃなかったかも!美味しい!』と言って頂けたりするのですが、それはチーズのコンディションによるところが大きいのかなと思います」
それぞれのチーズの食べごろを見極め、口に載せる時には最良の状態であるように。香田さんが何より心を砕くのはそこだ。
「ヤギのチーズは仕入れてから、ここで熟成させることが多いですね。初めは酸味が強くてヨーグルトっぽい味わいですが、だんだん他の菌が繁殖して酸味が和らいだり、味に厚みが出てくるんです。ナッツとかドライハーブみたいな香りもしてきて良い感じになったところで『さぁどうぞ!』って。逆にブルーチーズは、もうお店に届いた瞬間からどんどん出していかなきゃいけないんです。切った時からホエイ(乳清)が抜け始めて乾燥して、ミルクの甘みや滑らかな口当たりがなくなっていってしまうので。だから小さめのサイズで何度もちょこちょこ入荷して、できる限り切りたてを出せるようにと。こんな工夫もしています」
満を持するチーズが、ソセアミにはおよそ15種類も並ぶ。チーズとワインの相性の良さはあまねく知れ渡っているからチーズを置くお店はそう珍しくないが、この数は、ちょっとない。
「チーズいっぱいのお店にしたいと思いまして。20種類ほどのストックから、15種類ぐらい出します。多い方だと思います。やはりチーズは管理が大変ですから、たくさん置くのはなかなか難しいのかもしれません。お客さんはチーズのメニュー見ると、『名前聞いたことないものばっかり!』と言われるんですが、チーズは本当に種類たくさんですよね。ヤギ、白カビ、ウォッシュ、ハード系…。さらにフレッシュなものか熟成が進んでいるかでまた細かく分かれますし。うちはいつも、チーズが非常に可愛がられてることが伝わる専門店と相談しながら仕入れてます。どのチーズを入れるか毎回長々と悩みますが、どちらかと言えば、熟成しきったチーズよりは、ある程度ミルク感が残ってて、熟成させる振り幅があるチーズ、そしてワインに寄り添うようなチーズが多いですね」
香田さんはチーズの食べごろだけでなく、食べ合わせにも気を配っている。
「珍しいチーズが多いというのは、お客さんがここで初めて出会うチーズが多いということ。第一印象が大切ですから、ぜひ楽しんで頂けるように食べ方も工夫してます。たとえばイチジクやコンフィチュール、ハチミツを添えたりですね。チーズは、合わせるものによってまた何倍も楽しめるのも魅力なんですよ。最近は、ウォッシュチーズにシナモン入りのカラメルクッキーを合わせたものをよく紹介してます。まるでチーズケーキみたいで、『デザート感覚でイケる!』と喜ばれますよ」
さらに、チーズとワインの組み合わせを楽しむにあたっては、こんな裏技もある。
「ヤギのフレッシュなチーズは、スパークリングワインや白ワインには合うんですけど、赤ワインとはちょっと難しいんです。口の中でケンカしてしまうというか…。でも赤ワインとヤギの酸味あるチーズをご所望される方もいますよね。そういう場合はチーズにクランベリー、ブルーベリーなど赤ワインを連想させるドライフルーツを添えて出すと、ドライフルーツが仲介してくれて、チーズとワインがだいぶ仲良くなるんですよ」
美味しいチーズを、美味しく味わってほしい。それは香田さん自身も無類のチーズ好きだからこそ、生まれる想いだ。
「私もチーズ大好きで、自身の結婚式でもケーキ入刀じゃなく、チーズ入刀をしたぐらいなんです(笑)。美味しいし、奥深さがいいですよね。まるでホワイトマッシュルームとたくあんの香りが混ざったような・・・と表現したいような、複雑な香りのカマンベールがあったり、塩キャラメルのような味わいの羊乳のチーズがあったりと、本当に面白いんですよ。いつも試食するたびに新しい発見があります。ちゃんとチーズを勉強したくて、沖縄で初のフランスチーズ鑑評騎士・シェバリエの國場百合子先生のチーズ教室にも通い、4年間みっちり学びました」
フランスワインを中心に、70~80本が揃う。全て香田さん自身が試飲し、美味しいと思ったものだけが集まる
ソセアミはチーズとワインだけではない。手間を惜しまない料理もまた魅力だ。
「國場先生のチーズ教室では、いつもワインや軽い食事と一緒にチーズを楽しむんです。その相性の良さを味わうのと同時に、チーズにはビタミンCと食物繊維が含まれていないので、サラダなどで足りない栄養を補うという意味もあるんです。このお店でも、そういうバランスとれた食卓をやりたいなと思って、料理も一生懸命作ります」
ノルウェー産塩ダラのブランダード。塩漬けと乾燥を交互に行なった塩ダラを1日半かけて塩抜き。ハーブやニンニクと茹でたジャガイモを練って作る、人気メニュー
その料理もなかなかどうして本格的なものばかりがメニューに並ぶ。
「フランスの家庭料理をお手本に作っているものが多いです。煮込みとか塩漬けとか、ちゃんと手間をしっかりかけたら、あとは時間が解決してくれる、待っていればひとりでに美味しくなってくれるような料理が好きですね。炭水化物もやろう!と思い、パンも作り始めました。ひとりでやっているお店の割にはメニュー多いと思います。もう毎日バタバタしてしまうではあるんですけど、お客さんが私の進化を楽しみに見守ってくださっているので、ここは頑張りたいところです」
チーズにワイン、お料理。お店で提供するもの全てに、ちゃんと手をかけて。香田さんは昔からこういう場所を作りたかったのだという。
「酒場をやりたかったんです。私は趣味が料理とワインしかないんですけど、自分が飲むのももちろん、他人が飲んでる姿を見るのも大好きなんです。お酒の力でちょっと饒舌になったり、距離が縮まって仲良くなれたりするのがいい。気軽に来て、楽しんでもらえる酒場を作りたいなと、10年ほど前から思っていて」
それは、香田さんが学生時代に出会った1本の赤ワインが始まりだった。
「大学生の頃、開いたパーティで、友達が赤ワインを1本、持参で来たんです。私はその時に初めてワインを飲んだんですけど、美味しくて美味しくて、それに楽しくて、ワインとはなんて良い飲み物なんだ!と。その時に長い付き合いになりそうだという予感がしたんです。通ってたのは福岡にある人文系の大学で、飲食業とはもう全く無関係だったんですが、自然とそのままフランス料理のお店に就職を決めました。厨房から入って、ホールの仕事も勉強させてもらいつつ、ソムリエの資格も取得して。いろいろ経験してみて、料理するのも大好きですし、お客様にワインや料理を出すのも大好き、両方やりたいなと。今、このお店では全部できるから嬉しいですね」
また、ソセアミは、この類のお店には珍しく午後3時半からオープンする。慌ただしくなる前にと、ここでひと息つく主婦や早々に仕事を終えて一杯を楽しむ人々でにぎわう。それはどこかヨーロッパの午後を想わせる光景だ。
「自分が行きたいお店が、ほとんど夜からしか開かなくて残念だと思うことが多くてですね。夜飲むお酒ももちろん美味しいですけど、明るい時間から飲むお酒って、さらに特別な気がします。それに、お店の場所を探していた時にここを見つけて、入口から射しこむ光が非常に良くて、すぐに『ここで、早い時間から開くお店にしよう』と決めました。最近はオープン直後にもお客さんがたくさんいらっしゃるんですよ。柔らかい太陽光の中でグラスを傾けるお客さんを見ると、間違ってなかったなって」
ソセアミという店名は、香田さんの両親の名前、ソウセイとミエコからとった
チーズとワイン、それから料理からも。実直な人柄がうかがい知れるバー。香田さんは少し口ごもるように、こう付け加える。
「チーズとワイン、それからお料理をただ、楽しんでほしいです。いつもは自分、そんなに語らないんですよ。1人でやってるお店なので、バタバタしてるのもありますけど、堅苦しいのは好きじゃなくって。チーズも、相談された時以外は長々と説明しません。お客さんも難しいこと抜きで、ひたすら楽しく食べて飲んでしてると思います。それで良いんです。蘊蓄とか抜きで、パッと来て楽しめる酒場を私はちゃんと、やりたかったから」
香田さんの口からは「ちゃんと」という言葉が何度となく出てくる。言葉通り、ちゃんと最良の状態に整えられたチーズと、それに合うワイン。ちゃんと時間と手間をかけた料理。繰り返される「ちゃんと」に、確かなひとときを約束されるのだ。
文/石黒万祐子(編集部)
写真/金城夕奈(編集部)
現在休業中
Sose a mi(ソセアミ)
那覇市牧志2-19-2うるま住宅101
098-868-3880
OPEN 15:30 ~ 23:00(※22:00オーダーストップ)
定休日 毎週水曜・木曜
http://soseami.exblog.jp