角田光代・著 文藝春秋 ¥457(税別)/OMAR BOOKS
― 秋の夜長、ラジオを聴きながら ―
あまりに夏が暑いせいか、毎年秋が来るとこんなに過ごしやすかったっけ?と思う。
季節の谷間のようなこの短い時期、ついつい夜更かしが過ぎて困る。
夜更かしというと周りはみんな何をしているのか気になるところ。
今回紹介するこの本を読んで、以前はよく夜中にラジオを聴いていたことを思い出した。
この『それもまたちいさな光』は、あるラジオ番組を軸に進んでいく。
妙齢の主人公・仁絵とその友人、知人の恋愛とそれぞれの人生の選択に揺れ動く姿を描いた大人のための恋愛小説、といったもの。
複雑な女性たちの心理がよく描かれていて、分かる分かると共感しながら読める女性が多いと思う。
他人のことについては冷静に判断できるのに、自分のこととなるとからっきしだめ。それも歳をとればとるほど、自分の弱さや危うさを知っているだけに臆病になる。
主人公もまたそんな女性で、幼馴染との宙ぶらりんな関係を棚上げしたまま、友人の恋愛のピンチを知り助けになろうと奔走する。
小説の良さの一つは、客観視できるところ。
読む人は登場人物の中にいつか見たことのある自分の姿を見つける。
「あのとき、私はこうした、でもああしていたら?」
「あのとき周りに私はこう見えていたんだろうな」とか。
隣人のことなら冷静に分かることも当事者になると簡単に見えなくなる。
そんなときに小説は自分を映す鏡になってくれる。
もう一つ。この本の裏テーマはラジオ。
登場人物たちはそれぞれ自分の職場や部屋、タクシーの中などで同じ番組を聞いている。
調子のいいとき、最悪なときも変わらずそこに流れている。
そのどんなときもつながっているような安心感はラジオの大きな魅力。
ずいぶん前に風邪を拗らせて肺炎になり、入院した病室で流れていたラジオを思い出す。
6人部屋で慣れない入院生活(といってもたった5日間だけの)を送ったとき。相部屋になった年配の女性がずっと小さな携帯ラジオを点けていた。
消灯時間が過ぎまわりが寝静まった深夜も、その女性がかけていたラジオの音はずっと響いていた。それはたぶんその部屋にいた患者たちの心をいくらか安心させてくれていた。
秋の夜長に久しぶりにラジオを聞いてみてはどうでしょう?
もちろんこの本も一緒に。
OMAR BOOKS 川端明美
OMAR BOOKS(オマーブックス)
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