『 男どき女どき 』「秘密」が隠し味。どこから読むのを始めてもいい、魅力溢れる向田作品集。


向田邦子・著 ¥432 新潮社/OMAR BOOKS

 

このお正月に帰省し、懐かしい顔に再会された方も多いのでは。1月は何かと家族について考える機会の多い季節。それもあって年の始まりはいつも向田(邦子)作品が読みたくなる。家族ドラマの脚本を多く手がけてきた彼女の作品を何か、ということで代表作『寺内貫太郎一家』など他にもたくさんある中で、今回ご紹介するのは『男どき女どき』。短編とエッセイが一緒に収められた一冊。

 

著者は「秘密」を書くことが上手いなあといつも読む度、唸らされる。それも家族内の話になると格段に面白い。一口に秘密と言っても、無邪気な明るいものからちょっと毒のある人に言えないものまで、いろんなシチューエーションで見せてくれる。

 

本書に収められた「鮒」始めとする著者最後の作品四編もまた「秘密」が隠し味のようにぴりっと利いていて、読む人の心の内を刺激する。同じ屋根の下に暮らしていても、分からないことの方が多い。全てを共有したり、理解したりするのは到底無理だ。それを互いに抱えながら黙って優しく尊重し合うのが「家族」というものなのだろう。

 

また上の小説の後に収められた、エッセイは色合い変わって、著者の実生活などについて書き綴られたもの。ときにはユーモアを交えながら、独自のものの見方が展開される。父親とのエピソードを端的に描いた「壊れたと壊したは違う」「無口な手紙」、また今で言えばワーカホリックだった著者の仕事についての考え方や出会った人たちの話(「わたしと職業」「花束」ほか)なども今読んでも新鮮だ。

 

ちなみに能の世阿弥の伝書『風姿花伝』に「時の間にも、男時・女時とてあるべし」という言葉があり、タイトルの「男どき女どき」とは何事も成功する時を男時、めぐり合わせの悪い時を女時という意味合いなのだそう。

 

著者最後の小説となる短編四編と、雑誌に連載されたエッセイを集めたこの文庫。
気楽にどこから読むのを始めてもいい、向田作品の魅力に触れて頂きたい一冊です。

OMAR BOOKS 川端明美




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