『 わたしの脇役人生 』「おまけ」でもいいじゃない。「脇役」でいることの楽しみを綴った名エッセイ。


沢村貞子・著  新潮社  ¥420/OMAR BOOKS

 

数日前、テレビをつけたらある女優さんが映っていた。彼女が好きだったお菓子の思い出をめぐる番組はもう終盤で、物足りなくてこの本を手に取った。
名脇役として知られた女優・沢村貞子さん。随筆家としても名高い。

 

この本を読んでいて、ふと小学生の頃のある一場面を思い出した。
だだっ広い運動場の中央に集められた同級生たちから離れて、遠くからその様子を眺める一人の少女。その頃、よく体育の授業を見学していた私は、このみんなから離れている自分の位置(ポジション)が好きだった。
「あ、あの子今躓いた」とか「あの子とあの子は仲がいいんだな」とか心の中でつぶやきながら、体調は悪いのに目の前の風景を楽しんで見ていた。

 

もしかしたら沢村さんのいう「脇役人生」というのは、あの状況に似ていなくもないのかな、と思った。女優として、また一人の女性として、中心から外れたご自身の世間における立ち位置、という意味で。

 

教師になる夢に破れ、なんとなく女優になってしまった沢村さん。
自分は主役の柄ではない、と若いうちから自ら脇役を望んで監督に怒られる始末。宙ぶらりんの気持ちのまま、でも与えられた仕事をきちんとこなし、分をわきまえ、日々の生活もおろそかにしない。この本にはそんな彼女の晩年の日々が丁寧に綴られている。

 

女優という響きに華やかなものを連想しがちな当時の一般の人々にとって(今の役者さんはプライベートを公表していることが多く、イメージと現実との距離は近くなっているけれど)実生活を伝える彼女の随筆はとても新鮮だったに違いない。それも「脇役」の視点から、というのが特に。

 

小さい頃から兄弟の「おまけ」として育った彼女が、大人になってからも「おまけ」であることに特別不満を抱くわけではなく、逆に楽しみを見出して生きていった様子がよく分かる。

 

職業を女優としながら、飄々と「ふつう」の感覚を持ち続けながら、主役を支える脇役として生きた素敵な女性。賑やかな場から少し離れたところに身を置き、時にはクールに、また時には面白がって、目の前を通り過ぎていく出来事をただ黙って見送る。そういうのもなんだかいいな、と思う。

 

誰もがそれぞれの人生の主役ではあるけれど、ときどきは脇役を楽しめる人になりたいと個人的には思う。その位置からしか見えないものもきっとあるはずだから。

 

今でも女性の生き方のお手本として読まれ続ける沢村さんのエッセイ。
今の時代だからこそ胸に響くものがある。他著『わたしの台所』も合わせて読むのをおすすめします。

OMAR BOOKS 川端明美




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