『 オーケストラは未来をつくる マイケル・ティルソン・トーマスとサンフランシスコ交響楽団の挑戦 』Google や Apple の街で、クラシックに革命を起こしたオーケストラ。 

オーケストラは未来をつくる
潮 博恵・著 アルテスパブリッシング ¥1900(税別) 
 
― 音楽が終わったあとで残るもの ―
 
どうやら巷は学芸会シーズンらしい。
小学校の記憶でかろうじて残っているのがこの学芸会のこと。
あの日常と非日常へ変わる、わくわく感をよく覚えている。
 
劇『ベニスの商人』やグレンミラーの合奏をやった年もあった。
見慣れない明かりの点いた夜の校舎に、遅くまで残って何かをみんなで作り上げる過程が好きだった。
 
最近知人が言っていたのは、大人になって好きでやっていることは子供の頃好きだったことと同じだったりするという話。
ほんとにそうだなあと思う。スケールや内容の違いさえあれ。
考えてみると仕事で今やっていることもそれに近い。
そんなことを考えているときに出会ったのがこの本。
 
クラッシック音楽の世界がまるっきり分からない人にも面白く読める本書。
独自の活動が他と一線を画すサンフランシスコ交響楽団の30年の道のりを、感銘を受けた日本人著者がウェブサイトで紹介したところからこの本も世に出ることになったそう。
 
サンフランシスコといえば、グーグル、アップルを生んだベイエリア。
その自由な空気に満ちた場所で、街や人々を巻き込んでマイケル・ティルソン・トーマスという人物を中心にオーケストラはドラマティックに成長していく。
 
この本、いろんな角度から楽しめる。オーケストラを率いる孤高のイノベーター、ティルソン・トーマスの人となりだけでも充分魅力的な上に、オーケストラ(特にアメリカ)のしくみから歴史や経営、運営、
楽しみ方まで初心者にもよく分かるように紹介されていて読みやすい。
 
音楽教育にも大きく貢献し、その場所を活かしてのインターネットを駆使した演出やコミュニティ・ハブの役割としても街の人々に愛される現代のオーケストラの存在はとても刺激的だ。
 
天性のパフォーマー、ティルソン・トーマスの、既成概念にとらわれない発想とそれを具現化しようとする周りの演奏家、スタッフ、ボランティアたちの試みは読む人に元気を与える。
 
そこにはいろいろな要素が絡まりあってオーケストラはまるで進化し続ける生き物のよう。
その生き物の糧は関わる人々や応援する一人一人の情熱。
オーケストラはただ単に古典音楽を再現するものではないんだなと、読みながらつくづくとそう思った。今に生きる私たちが楽しめる音楽を追求し、最高の時間を提供しようとするその姿勢に胸を打たれるはず。
 
ティルソン・トーマスいわく
 
―もっとも関心があるのは音楽が終ったあとで心に残るもの―
 
聴いた人の一年後、十年後、その先に何が残り、どんな変化が起きるのか。
 
この本が生まれたのもその答えの一つ。
読み終わる頃はきっと遠かったクラッシック音楽が身近に感じられる一冊です。
 

OMAR BOOKS 川端明美




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