『 移動祝祭日 』文豪のイメージが変わる。意外とナイーブな作家・ヘミングウェイ

 


ヘミングウェイ・著 新潮社 ¥590(税別)/OMAR BOOKS

 

イメージというものは、一度付いてしまうとなかなか拭えない。『老人と海』や『日はまた昇る』などでよく知られる文豪・ヘミングウェイ。その知名度の割に、彼の作品を通しで読んだことがある人というのは少ない、というのが私の実感。かくいう私も、以前は硬派でマッチョなアメリカ人作家、というイメージを持っていた。あるいはヒゲをを生やしたノーベル文学賞・受賞作家、というような。

 

学生の頃にそんなイメージを抱いて以来、なかなかそれは消えなかった。それが大人になって、ヘミングウェイの短編作品や今回ご紹介するこの『移動祝祭日』を何度も読み返したりしているうちに、いつのまにか彼は誠実で、生真面目で、ナイーブな人という印象に変わっていった。

 

この『移動祝祭日』という作品は、ヘミングウェイがまだ文豪と呼ばれるようになるずっと前、パリで文章修業をしていた頃を綴ったもの。
彼の作品の中でもはちょっと変わった存在の本。

 

1920年代のパリで過ごした若き日のヘミングウェイと妻のハドリーの慎ましい生活やそこで出会った個性的な友人・知人たちとの交流などが生き生きと書かれている。
カフェで仕事をし、一杯のカフェ・クレーム(コーヒーに泡立てたミルクを入れたもの)だけでねばるまだ売れない作家がそこにいる。

 

意外だったのは、ヘミングウェイがとても人間関係に気を使っていたという部分。彼が付き合う人たちは作家以外に画家、詩人、批評家など皆、「飛んでいる」人たちばかりで、その中でヘミングウェイはまともな常識人のように見える。

 

才能ある友人たちの世話を焼きながら、自らは質素な生活で喜びを見出し、淡々と書き続ける青年。周りの人たちとの関係に悩み、ぶつかり、和解するなど、まだ人として未熟な若者。
でもだからこそ、これから伸びようとする可能性にあふれたヘミングウェイの様子を読むと、きっと励まされる人も多いんじゃないかと思う。
あの強面の彼のイメージも変わるはず。
また、ちょっと堅そうと、ヘミングウェイの作品を避けてきた人に特におすすめしたい一冊です。

OMAR BOOKS 川端明美




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