『 花森安治の仕事 』広告を載せない雑誌の名物編集長、彼の人となりとは。

OMAR BOOKS
酒井寛・著   朝日新聞社  ¥1,682/OMAR BOOKS
 
― よく怒り、よく笑うひと ―
  
 昔ながらの丁寧な造本に箱入り。
手に取るとしっかりと重みがあり、襟を正したような風情がある。
 
女性なら誰もが一度は目にしたことのある、昭和23年の創刊から今なお女性たちに読まれ続けている雑誌「暮しの手帖」。今回ご紹介するのはその雑誌を立ち上げ、名物編集長だった花森安治の人となりを伝える良書です。
 
この花森安治さん。その強烈なキャラクターと完璧主義の仕事ぶりでよく知られている。
この本を読むとよく怒り、よく笑う人という印象が強く残った。一人の人間としてとても魅力的だ。彼にまつわるエピソードのひとつひとつが面白い。彼が怒って仕事をしなかったり、原稿を書きださず発売日が遅れることもしょっちゅうだった、という人間くささにも惹かれる。
彼は何よりも女性の役に立つ出版を目指していた。
 
そんな彼の徹底した美学が貫かれた「暮しの手帖」は広告収入のない雑誌としても有名だ。雑誌出版の常識からいえば考えられないことだ。載せない理由は商品の正しい批評や紹介ができないから。その根底には商品に良くなってほしい、女性の暮しが良くなってほしいという想いがある。
することと、しないことを花森さんははっきりさせていたという。
この雑誌から漂う潔さ、清潔さはそこにあるのか、と感心することしきり。
彼は女性たちとともに暮し(衣食住)の豊かさとは何か、一生を通じて考え続けた。
  
読み終わってこの言葉が思い浮かんだ。
 
「自分がカテドラル(聖堂)を建てる人間にならなければ、意味がない。できあがったカテドラルのなかに、ぬくぬくと自分の席を得ようとする人間になってはだめだ。」(サン=テグジュペリ)
 
既成概念にとらわれない、その仕事の方針や仕方は今の私たちの心にも訴えるものがある。
 
最後には当時の花森さんの仕事ぶりを伝える写真を併録(あの有名なスカート姿は残念ながら載っていませんが、ずっと使い続けていた机の佇まいがなんとも言えません)。
 
その人自身の哲学に裏打ちされたものは、時代が変わっても後世に残る。
今も本屋や図書館に並ぶ雑誌「暮しの手帖」がそれを示してくれる。
では久しぶりに本棚に眠っているバックナンバーでも開いてみましょうか。

OMAR BOOKS 川端明美




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