やんばる森のおもちゃ美術館五感をフル稼働させる木のおもちゃ

やんばる木の美術館

 

やんばる木の美術館

 

やんばる木の美術館

 

その形が魂を思わせることから、“木の魂”という名のついたおもちゃがある。やんばる産の17種類の木を、丸く削り出して作られており、木の種類によって比重や肌触りが異なることを確かめることができる。一番重たい魂は、イスノキ。ギュッと詰まっているようで、ひんやりとする。一番軽い魂は、デイゴだ。硬めのスポンジのようで、表面がざらざらしている。

 

やんばる森のおもちゃ美術館には、木のおもちゃが30種類以上も並ぶ。そしてその全てが、触って遊んでいい展示品である。やんばる森のおもちゃ美術館は、鑑賞するのではなく、五感で感じることのできる美術館なのだ。

 

やんばる木の美術館

 

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一番人気があるのは、国頭村に生息する鳥、ヤンバルクイナのたまごをイメージした「たまごプール」だ。プールのそばには常に子どもたちがいて、他のおもちゃで遊びながら、次は自分の番かしらと周りの様子をうかがっている。中では、泳いでいるふうの子もいれば、寝そべっている子もいる。また、たまごを握りながら「ツボ押しにいいなぁ」と考えている大人もいる。

 

「このたまごは、木工職人が1人で作ったんです。5000個も! 3ヶ月ほどかかったそうで、もうたまごを見るのも嫌だなんて冗談言っていました(笑) けれど、たまごを気に入ってくださった方々から、うちにも欲しい! どこで買えますか?と声をかけていただくことが多いので、商品化しました。それに、県外の幼稚園からまとめて購入の問い合わせもあったりして、作ったかいがあったなぁと」

 

やんばる生まれのおもちゃについて嬉しそうに話すのは、やんばる森の美術館を担当する国頭村役場の大城靖さんだ。

 

 

やんばる木の美術館

 

館内でひときわ存在感を放っているのは、リュウキュウマツのオブジェである。跳び箱のように跳ぶ小学生や、よじ登る子ども、ハイハイでくぐる赤ちゃん、そして馬のようにまたがる大人の姿も。

 

「これ、いい形でしょう?自然にできた空洞を利用して作ったんですよ。このツヤもね、中から染み出てきた樹液や、人々が触ることによって出てきたものなんです」

 

やんばる木の美術館

 

やんばる木の美術館

 

大城さんたち国頭村の人々にとって、このオブジェには、ひときわ愛着があるという。それは、材料となったリュウキュウマツが国頭村で長年親しまれていた木だったから。

 

「これはね、樹齢250〜300年と言われる蔡温松で作られたんです。蔡温松というのは、琉球王朝時代の役人の名前からとったのです。彼は、特に造林や山林保護に力を入れていました。当時の経済は貿易で成り立っていて、貿易船を作るにも、木が大事でしたからね。その頃に蔡温が植えた松は蔡温松と呼ばれ長く親しまれていました。けれど、2012年の大型台風で倒れてしまったんです。この木をなんとか活かせないかと考えて、蔡温松はオブジェとして生まれ変わったんです」

 

やんばる木の美術館

ジャンボ体操パズル。身長21センチの人型だ。ふんばったようなポーズが、お茶目。積み方によっては、滑稽な組み体操になり、ふふっと笑いを誘う。

 

やんばる木の美術館

リュウキュウマツ、クノキ、センダン、ハマセンダン、ウラジノエノキ、そして、オキナワウラジロガシの6種の県産木でできているマグネット式六角積み木。

 

やんばる木の美術館

 

木のおもちゃの良さはそのシンプルさにあると大城さんは考えている。

 

「プラスチックのおもちゃと違って、ボタンを押すとピコピコ音が出て、ニョキッと何か出てきてみたいな複雑な仕掛けが、木のおもちゃにはないですよね。その複雑さがない分、子どもがいろんなイメージを膨らませられるんです。どう並べたらこの形になるだろう?どう積み重ねたら、高く積めるだろう?というふうに。自然に、『考える力』も身につきます。大人も一緒に積んだりして、自然と親子の会話が増えますよ」

 

また、木はおもちゃとしてだけではなく、教室や家など建物の床材や壁の材料としても優れているという実験結果を聞かせてくれた。

 

「埼玉大学の先生が、『コンクリートの教室にいる子』と『木の教室にいる子』では集中力や落ち着きにどう違いが出るかを比較実験したそうです。すると、木の教室にいる子の方が集中力があるというデータが出たのです」

 

壁や床材の色、温もり、そして、かすかな木の香り。これらは子どもたちをまるで自然の中にいるようにリラックスさせるのだろう。

 

やんばる木の美術館

 

木のおもちゃでは五感を刺激でき、木でできた教室では集中力が高まる。木のある生活は良いことばかり。けれど、1本の木が資源として使えるようになるまでには、相当な年月がかかる。

 

「30年以上かかるです。やんばるの森は、イタジイという木が60%を占めていて、この木は亜熱帯気候に合うんでしょうね、よく成長します。よくとは言っても早くて30年なんです。チャーギという木はもっと成長が遅く、40〜50年かかるんですよ」

 

しかも、じっくり成長した木は、切り倒したからといって、すぐに使えるわけではない。

 

「水に浮かべたり、泥の中に沈めたりして、中に入っている虫を出します。その後、しっかり乾燥させることも大事です。この過程に2〜3年かけるのが望ましいのです。でも、なかなかそうもいかず窯に入れて早く乾かしたりすることもありますが。乾かすのが充分でないと、歪んできてしまうんです」

 

切ってからもこんなに手間がかかっているとは。そんな話を聞くと、やっと育った木を切って使ってしまうのは、なんだかもったいないと思えてしまう。しかし、大城さんから返ってきた答えは逆だった。

 

「木は30年くらいすると年を取り、酸素を供給する量が減っていきます。そのままにしておくのではなく、切って材料として活かし、若い木を植林する。そうすることによって、また新しい木が成長し、森の酸素が増えるのです。こうして、森を循環させていくんです。『木づかい活動』は、自分の世代で終わりではないんですよね。子や孫に、どんなふうに使ってもらいたいか考えながら木を育てる、『気づかい活動』でもあるんですよね」

 

そう話す大城さんからは、木への愛情が伝わってくる。まるで、自分の子どもの話をするお父さんのよう。

 

やんばる木の美術館

 

昔から、林業が盛んだった国頭村は2013年、国頭村森林公園内に、やんばる森のおもちゃ美術館を設立した。地域の資源である木を活かし、「木育」をしていこうと、美術館外でも活動をしている。

 

まずは、美術館が誕生した記念として、村内に生まれる赤ちゃん約40人に、ヤンバルクイナが彫られた積み木が贈られた。これを「ウッドスタート」と言い、赤ちゃんの時から木に触れてもらおうという取り組みだ。

 

また、10年前からは、小学校に入学する子どもたち全員に、組み立て式木製机をプレゼントしている。親子で組み立てることで、より愛着のある机になるのだ。子どもたちは6年間大事に使うという。

 

さらに、「木育キャラバン」という名で、おもちゃ美術館の出張も行なっている。保育園や老人施設など、普段、美術館へなかなか来ることができない人たちの元へ出向き、木のおもちゃに触れる機会を設けるためだ。 

 

やんばる木の美術館

 

やんばる木の美術館

 

やんばる木の美術館

 

国頭村がこのような活動をしているのは、「木育」を通して、国頭の木の良さを知ってもらいたいからである。そして、みんなで、やんばるの森を守り、活かしていきたいのだ。

 

森を守る?いったいどうやって?私にもできるの?

 

そう難しく考えなくたっていいのだ。美術館へ足を運び、木のおもちゃで遊ぶ。敷地内の森林公園を散歩しながら木々に触れ、木の良さを感じる。それだけでも充分、森のためになっているのだから。

 

「那覇の友達が言うんです。『東京には年に数回行くけど、ヤンバルには10年に一度行くかなー』って(笑)中南部の約75%の水道水は、やんばるの森から運ばれているのにね。彼の家の水道止めてしまおうかと思いましたよ(笑)まずは、気軽にやんばるを訪れてほしいですね。そして、美術館のおもちゃを通して、木の良さを知ったり、思い出したりしてもらいたいですね。美術館が、『木のある暮らしを広める場』になれればと思います」

 

やんばる木の美術館

 

国頭森林公園までの道のりは、那覇からは2時間、名護からでも1時間はかかる。けれど、ここまで来てよかったと思えるのは、美術館の木のおもちゃが想像以上に楽しく、興味深いものだから。

 

存分に木のおもちゃで遊んだ後は、公園内でピクニックしたり、樹上ハウスやバンガローに泊まったり、キャンプして楽しむのもいい。おもちゃになっていない、生きている木でだって遊ぶことができる。

 

やんばる木の美術館

 

五感は、身をもって感じることで研ぎ澄まされるもの。やんばる森のおもちゃ美術館では、肌で感じ、鼻を利かせ、耳を澄まし、目で楽しむことができる。赤ちゃんであれば舐めてみることもあるかもしれない。県内唯一の、五感を使って遊べる美術館なのである。

 

おもちゃを選ぶ時に、つい「静かにしてもらうために」と選んではいないだろうか? 確かに、大きな音、派手な色のおもちゃは、瞬間的には子どもの興味を引く。けれど、頭と五感を使いながら、集中して遊べるのは木のおもちゃなのだ。

 

心豊かな人になって欲しい。親たちのそんな願いは、木のおもちゃで遊ぶというシンプルなことで叶うのかもしれない。「長い目で見て、木のおもちゃがいいと感じてもらいたい」大城さんのその言葉が頭に残っている。

 

写真・文 青木舞子

 

やんばる木の美術館
やんばる森のおもちゃ美術館
沖縄県国頭村字辺土名1094 -1 国頭村森林公園内
TEL 0980-50-1022
休 火曜日
入館料 大人(中学生以上)/ 400円 子供(3歳〜12歳)/ 200円
OPEN 10:00~16:00(入館15:30まで)
http://www.kunigami-forest-park.org