「絵を描く時、あんまり何にも考えてない。考えてたとしても、楽しいこととかピースなことばっかり考えてる」
ハッピーな世界を描く、BEBICHIN*ART。出身地の関西のイントネーションで穏やかに話すアーティストのベビチンさんは、何よりもケンカが嫌い。
「ケンカってすごいエネルギー使うから、それがイヤで。ケンカすると全く絵、描けなくなるんですよ。ケンカのことが気になっちゃうし、空気がそうなると、描いててもなんにも面白くない。だからそういう時は、自分外に出て、散歩に行くんです。夕焼け見たり」
ベビチンさんは、楽しくて、ピースな気分の時にしか描かない。その気分は、そのまま作品に投影されて、見る者へ伝染する。それは、古いブリキ板のような一見無機質なものをキャンバスにした作品でも、言えること。
ベビチンさんは、ブリキなどの古材が大好きだ。
「古いものに命を吹き込んで、また新しいものにするのが好きで。これは、古い木の板に、古いブリキを打ち付けて、それに絵を描いてる。サビとかついてるブリキをじっと見てると、サビが模様に見えてきて、ぶわ〜っと絵が浮かんでくる。それをそのまま描いてるんです。前に住んでた京都行ったら、あちこち探して空き家とかを見つけてもらってくるんです。こんなん見つけたら『もうダメだ〜』って、わさわさ〜して『こんな宝物、捨てる人、いんの?』って思いながら『捨てるんだったら下さい』って譲ってもらう(笑)」
木彫のバッジ。購入すると、ベビチンさんがその場で作品のタイトルをつけてくれる。
ベビチンさんは、お笑いや漫才など笑えるものも大好物。
「作品も、ちょっとクスッと笑えるものが好きで。笑いって大事でしょ。『このバッチ、フクロウやけど、なんか小森のおばちゃまみたいやな』とか(笑)」
直径6センチほどの小さな世界に彫られたキャラクターは、それぞれに性格付けがされているよう。自信満々な猫、お調子者のモンキー…。今にも喋り出しそうな表情豊かな人間や動物たち。こんなことを思っていそう、言いそう、と想像力を掻き立てられる。
「このバッジは、僕のツイッター。出てくる妄想で、自分の中のつぶやきなんです。SNSのツイッターできないから、これで(笑)」
キャンバス地に手描きされたものをバックに。2つとして同じものがないのも魅力
ベビチンさんは、毎日ものすごい量を描く。朝から晩まで机に向かい、ご飯を食べるのを忘れてしまうほどに没頭する。インスピレーションは、泉のように次々と湧いてくる。
「その時に描きたいことを描いてる感じ。夢の中のこととか、旅でのこと、景色とか色とか、ぶわーって出てくる。旅に出て帰ってきたら、1ヶ月くらい色んな妄想して、そっからあんまり考えずにわーって描くのが楽しいんです」
特に旅は、ベビチンさんの作品の大切な源泉。20歳の頃からバックパックを背負って、世界中を旅してきた。インドやネパール、南米、モンゴル、ベトナムにバリ…。
「初めて海外に行ったのがインドで、カルチャーショック受けて。体重を測るだけの体重屋さんとか、なんでも職業にしてるし、子供達の目はキラキラしててかわいいし。モンゴルは、1ヶ月間くらい、草原にテント張って、向こうで馬を借りて生活してた。バリではインドネシア人の現地ガイドに間違われたり、ベトナムもすごい馴染めた。強い印象の土地は何度も絵に出てくる。南米に行ったのは、もう10年くらい前になるけど、やっぱりなんか残ってて、よく出てきます。旅行中、写真とかはあんまり撮らないから、写真を見返すこともないんだけど、なんかイメージが残ってて」
旅のイメージに、ベビチンさんの楽しい空想が加わって、心地よいメロディが流れるような世界を広げていく。ベビチンさんが空想を絵にするのは、幼い頃からの日常だった。
「小学生の頃から、教科書に載ってる人の写真は、全部いたずら描きしてた。ヒゲ描いたりね。木彫のバッジみたいに、ちゃちゃっと描くのが大好きで。今もそれの延長で、全く同じことしてる感じ(笑)」
絵を描くことが大好きだったが、アートを職業にしたのは、学校を出てすぐというわけではない。
「美術系の大学を出てないし、アートで食べていけるなんて思ってなかった。全然教育を受けてないし、厳しい世界だろうから無理だろうって、自分の中で思ってた。若い頃は、インドの山奥でロン毛の仙人になるつもりやって、自給自足の生活しようと。結婚するなんて絶対思ってなかった。それが25歳で結婚して、子供が生まれて。だから不思議ですね。人生わからない(笑)」
1枚1枚手描きされたペーパーバック。選ぶのに時間をかける人が多いのもうなずける。
そんなBEBICHINさんだが、アーティストになったのは自然の流れだったように思う。奥様で彼の一番のサポーターである園子さんが、話してくれる。
「小さい頃から主人は“ベビチン”って呼ばれてて、私も娘の伯翠(はくすい)も、“ベビ”とか“ベビさん”って呼んでるんです。ベビは、高校出て、飲食のバイトしたり、学童の保育士してたんですよ。私は学生の頃から京都でお寺の管理人してて、結婚してから一緒にそのお寺に住んでいました。娘が生まれて、彼女が1歳になる前に沖縄へ移住してきたんです。彼女のアトピーがひどくて、寒暖の差が激しい京都より、暖かい沖縄に住もうと。お互いにいつか住みたい場所だったし『今だね』って。ベビは『じゃ、自分、介護の資格取るね』って資格とって、沖縄で介護士をしていたんです」
介護士として職についたベビチンさんだったが、筆を持って描いてるのが一番リラックスすると、絵はずっと描き続けていた。
「そのうち手描きのTシャツなどを、きとね市とかのイベントで販売するようになったんです。子供をそこで遊ばせられるから(笑)。同じ手作り族の友達が欲しいなというのもあって。私たち、こっちに来たとき、知り合いとか誰もいない状況だったから」
気軽な気持ちでイベント出店を重ねていくうち、次々と絵の注文が入るように。
「最初の4年くらいは、絵と介護士の2足のわらじ状態だったんですけど、絵がどんどん忙しくなって。寝る時間を削って描いててだいぶ無理してたから、介護の方は辞めて絵一本に絞ったんです。それが今から7年前ですね」
出店をきっかけに沢山の友人ができ、その縁でRoguiiやピパーチキッチンなどの県内のカフェで、または県外で、作品展を開催するようになる。今でも、北部に住む友人に会えるからと、月に1回の本部手作り市での出店を続けている。照れ屋のベビチンさんは、自身のアートについてお客に直接話そうとはしないそう。接客はもっぱら、園子さんと伯翠ちゃんの役割だ。
以下、娘の伯翠(Örton)ちゃんの作品。「動物が好きだから、動物しか描かない」
その伯翠ちゃんも、絵を描くことが大好き。すでにÖrton(オルトン)という名で活動をしている。その腕前は、ベビチンさんとの親子展や、個展までをも開催するほど。ベビチンさんは、伯翠ちゃんとの関係を、親子というより刺激をし合えるきょうだいみたいと、嬉しそう。
「きょうだいでも、向こうの方が上でお姉ちゃんかな(笑)、ハクはしっかりしてるから。ハクからも刺激もらいますよ。絵だけじゃなく、彼女が粘土で立体のものを作ったときは、『これ、ちょっとヤバイぞ』と思いましたね(笑)。自分はいつも平面で絵を描いてたから。それで作ったのが、ダンボールを重ねてちょっと飛び出す感じの看板。ハクは、『ベビさんがバッジやってるから、絶対やんない』とか(笑)、あえて同じことはしない。しょうもないことでケンカもしますよ。ハクは、ボサノバとかかけて鼻歌歌いながら絵を描くのが好きで。自分がノリのいいパンクとかかけると、『イヤだイヤだ』とか言ってめっちゃ怒る。だから作業する場所は別々(笑)」
Örtonちゃんの看板である“天使グマ”を持って
そうはいっても、とても仲のよい家族。家族が増えてからは、家族3人で、3人が行きたいところへ旅に出る。そしてまたインスピレーションをもらい、空想を重ね、作品の糧にする毎日。
ベビチンさんは、人生の流れに乗って、伯翠ちゃん始め、出会うべきものに出会ってきたように思う。世界中を旅して出会った風景や人、結婚して出会った街、そして家族…。ベビチンさんの人生は豊かな色で彩られている。その人生の旅になくてはならないアートは、人生同様ハッピーに溢れていて、手にする人を幸せな気分にし続けていく。
文/和氣えり(編集部)
写真/金城夕奈(編集部)
BEBICHIN*ART
那覇市首里赤平町1-4-1赤平マンション3E
080-3980-4689
http://bebichinart.ti-da.net
親子展 Vol.3
BEBICHIN*ART × Örton
@アトリエてらた
2016.8.20(Sat) – 8.28(Sun)