写真・我喜屋 若子(D’spec)/文・沢岻 久子(D’spec)
さすがにこれには困ってしまいました。物件のメリットを聞いても、デメリットを聞いても、良い返答しかないのです。つまり、デメリットが「ない」と言い切られてしまったのです・・・
今回の取材させて頂いたのは、那覇市首里赤平町にある「黒猫食堂」の越名さん、クリスさんご夫婦。まさに隠れ家的と言うにふさわしいその場所は、ゆいレール「儀保駅」のある道路、通称環状2号線(県道82号糸満線)を首里中学校向けに左側に入った小高い土地の住宅街。一見普通の2階建て住宅で、その2階部分を住居と飲食店で利用しています。
ドアを開けてくれたのは、ご主人のクリスさん。「こんにちは。どうぞ、どうぞ」と流暢な日本語でにこやかに招き入れてくれました。
特に目立った改装はしていない室内には、厨房と食事スペースを緩やかに区切るカウンターがあり、センターには大きなテーブル、その周りに2人掛けの席が3ヶ所あるのみ。白壁のレンガタイルや焙煎機が置かれているステップフロアの個室は、大家さんが施したもので賃貸に出す前からあったもの。そのままと言えば、そのままですが、あえてそういう雰囲気に仕上げたと言えば、そのようにも見える空間。
なるほど、住宅のリビングとしては確かに広く、外観からの予想出来ない飲食店に使うというのも頷けるのですが、それ以上に惹きつけるのが、リビングの窓からの景色。天気の良さも手伝って空の青、海の青、緑、首里城、新都心のビル群、モノレールから旅客機までもがパノラマ状に広がります。
一応、高台と称される宜野湾市新城のディ・スペックの事務所から見える、軍用地と北谷の街や海の光景とは対照的に、活気溢れる街とそれを見守るように鎮座する世界遺産のある光景。しばし立ち尽くしてしまったのは、単純に私の行動範囲の狭さゆえ。これまでこの付近に来た事がなかったので、こんなにも高台だとは思っていなかったのです。
やはりいつもの通り腰掛ける前に室内をざっと見渡し、「はじめまして」の緊張より空間に対しての興味が上回り、アレコレと質問をしながら雑談が始まります。
まず初めに「黒猫食堂」の「食堂」って文字が気になった事を質問しました。
「一言でいうと食堂です。メルボルン(オーストラリア)のカフェと、日本のカフェは全然違うんです。日本では食事に力が入っていても、珈琲を自家焙煎をしていることは少ないですよね。食事とセットでついてくるみたいな感じがおおい。スペシャリティにしているのはコーヒーだけだったり。メルボルンのカフェは、シェフが料理を作って、焙煎士がいてバリスタと一緒にコーヒーをやっているんですよね。だから、カフェと言えばプロが作った完全な食事と、美味しい珈琲を飲める場なんです。私達は日本のカフェをイメージされると嫌って言うのもあります。メルボルンのカフェの様に完成されているけれども高級過ぎないっていう位置づけなんです」
なるほど、確かにカフェと言えば、コーヒーや飲み物を中心にカフェ飯と呼ばれる軽食を食する店というイメージが強いのは否めない。ましてや焙煎士という言葉は聞きなれない。
食事を担当する越名さんはれっきとしたシェフで、これまでの経歴や経験も面白い。
「メルボルンにいた丸7年間、料理をしていました。通っていた地元の学校はメルボルン一厳しくて、資格をとるには料理の勉強をしながら現地のレストランで働かないといけなくて。アジア人だからアジアンレストランで働いちゃだめってことで、フレンチ、イタリアンと働き、いろいろな国の影響を受けたヒュージョン料理をして、高級フレンチに戻ってという感じです。技術を学ぶために最初の5年間はファインダイニングで修行して、あとの2年は有名なカフェで働いてました」
聞いているとワクワクしてくる。
続けて「カフェやレストランを掛け持ちしながら働いて、学んだと思ったら次!そこでも学んだと思ったら次!みたいな感じで。いつも履歴書持ってレストランを回って、7年の間に13の店で働きました」と目をキラキラさせて昨日の事のように話す。厳しい業界ではあるけれども、経験と実力をアピールしながらチャンスを生かして貪欲に料理を学んでいた様子が伝わってきます。
越名さんが話す傍らで、補助的に言葉を添えるクリスさんは黒猫食堂のコーヒーを担当している。
「私は、メルボルンの大学の博士課程で日本語と心理学の勉強していました。メルボルンで育ったから昔からカフェやコーヒーは身近でした。友達にも焙煎士がいたし、話を聞いたり、焙煎の指導のクラスを受けたりしてコーヒーを理解出来るようになっていました。メルボルンでは焙煎屋さんが大きなカフェを経営しているので、いきなり抽出の無料レクチャーが始まったり、カッピングやテイスティングも無料でやっていたりするんです。コーヒーについては自然と学べる環境でした」
慎重に言葉を選びながらも、ほとんど外国訛りのない流暢な日本語。身振り手振りを交えながらていねいに話す姿は、本当に日本が好きな様子が伝わって来ます。言葉選びや表現の仕方は、私より日本を知っているのだろうと感心する程です。
外国生活が長かったからか、もともとフランクな性格なのか、その両方とも言えるのか気さくなご夫婦は、料理やコーヒーについての話になると、次から次へと言葉が溢れてきて、それはそれはもう嬉しそうに語ります。好きなことをしている人の発するキラキラ感や、想いの強い人の引き込む力ときたらものすごく強いのです。
ディ・スペックと物件との出会いから入居までもいろいろなドラマがありました。
クリスさんはご夫婦は、かれこれ1年もメルボルンからインターネットで物件探しをしていました。早い段階でこの物件を気になっていたのですが、住居専用の表記があったので、様々な不動産サイトで他の物件を探し続けました。毎日更新される物件を隅々までチェックしながらも、ずっとこの物件の事を忘れる事が出来ずに、私たちディ・スペックへお問い合わせを下さったのです。しかしながら、当時の大家さんの要望もあり店舗利用ではご紹介出来ず、一度はお断りすることに。
その後もクリスさんご夫妻は物件を探し続け、ようやく別の物件で契約直前までやってきました。それでも諦めきれず、再度問合せが。私たちは、お二人の熱い想いを大家さんにお伝えし、いろいろな調整をしながら今に繋がったのです。
「沖縄の不動産情報は、毎日端から端まで見て、まだこれあるねとかね。当時は、多分不動産屋さんより物件を知っていたと思います(笑)。他の物件で契約直前に、どうしてもここを諦めきれなくて、もう一回ディ・スペックさんにトライしたら大家さんに店舗利用を承諾いただけて。申し訳ないんですが決まりかけていた物件を断って、ここに決めました」
彼らの情熱の凄さはそれだけではない。安いとは言えないこの物件に決断をしたのも、契約の手続きも全てがメルボルンからの遠隔であったことも。沖縄へ引っ越してくる当日まで、ご本人たちが物件を見学することも、空間を体感する事もなかったのである。こんな契約はディ・スペックでも異例の事。情報と感覚の食い違いからくるクレームも考えられるので、本来ならば見学せずにお申込みというのはお断りしているのです。それでもその熱意に押され、メールでのこまめなやりとりを経て、契約に至ったのです。
もう何度か聞いた事ではあるけれど、改めて物件の決め手を聞いてみる。
「街中だけど後ろに公園があるし、景色は良いし、メインストリートじゃないし。隠れ家的とか見つけた感など、ぐっと掴むような要素がここにはある。シティにありながら緑もあって、この景色。沖縄の友達が代理で見学してくれて、その子が写真を撮って、ビデオを撮って、車で周辺を走ってこうだった、ああだったとレポートをまとめてくれたものを見て。やっぱり思っていたとおりだ!間違いないここだ!と思った」とものすごく嬉しそうに話します。
いやしかし、さすがに何かしらイメージと違ってたという事もあるでしょう?と質問するも「まずネットで見つけた物件の写真を見て、グーグルマップやストリートビューで環境や近くの駐車場とかも調べて、その駐車場も借りるかもしれないとかも考えたりして。環境も空間の雰囲気もイメージ出来ていたし、本当にイメージどおり!」とおっしゃるのです。
次に、メリットとデメリットを聞いたらば。
「デメリットはない。しいて言うなら、湿気かな(笑)メリットは、全部良いよね。キッチン側のベランダはゴミも置けるし、洗濯物も常に干せるし、蛇口や照明の位置もベランダを楽しめるように考えられているし。必要な位置に必要な物があるんです。ガレージもあるし、風通りも良いし、収納もあってスペースも使いやすい。お陰で、あまり何もしなくていい。ここに住むだけで癒される。海を見渡せるこの感じは、本当に好きな人であればどれだけでもお金を出せると思う。緑もあって、首里城も見えるし、上階がないので空が近い!」
どこを切り取ってもいい事だらけなのです。絞り出したデメリットが「湿気」なんて、亜熱帯気候の特徴を言われては解決のしようがないってものです。奥行きが先細りの三角の不思議なカップボードすら上手く活用し、チャームポイントに。やはりデメリットが見当たらないと言うのです。
かれこれ2時間近く居たでしょうか。物件に絡んだ会話はほどほどに、料理やコーヒーやメルボルンのカフェについて語るご夫妻は、時々日本語変換に戸惑いながらも、お互いにさり気なくサポートする姿が印象的です。
私たちの質問の答えに何度も出てきた「はじめからイメージしていたけれど」「写真で見たイメージどおり」の言葉どおり、インターネットで見て、友人からのレポートを見て、グーグルの技術を駆使したシュミレーションをして、今の状態をそのまんまイメージ出来ていたと言うから驚きです。
前に誰かが言っていた言葉を思い出しました。
「料理は最もクリエイティブである。デザイナーや絵描きよりも、料理をすることはイメージ力が問われる」
越名さんとクリスさんにピッタリの言葉だと思いました。
この取材を通して、イメージは必ず形になり、強い想いは必ず現実になると言う事を目の当たりにした気がします。経験や実力の高さもさることながら、前向きな気持と情熱が大家さんや私達の心をも動かしたのだと思うのです。今回は定休日でお食事をすることが出来なかったけれども、この次は焙煎したてのコーヒーと本気の料理をゆっくり味わう事にしよう・・・
ディ・スペックのサイト「沖縄不動産文庫」では入居者のその後を取材ノートで掲載しています。
file:18「息づく家」
黒猫食堂さんの場合
賃貸戸建 住居兼飲食店舗
http://www.dspec.jp/cn59/pg817.html
食堂黒猫 Black Cat Cafe
〒903-0811
沖縄県那覇市首里赤平町2丁目40-1 3階
Tel 050 1070 6774
営業時間 9:00~17:00 (定休日:月 & 木)
https://www.facebook.com/ShokudouKuroNeko
http://shokudoukuroneko.ti-da.net/
沖縄不動産文庫 Okinwa Real Estate Library
ディ・スペック株式会社
http://www.dspec.jp
〒901-2201沖縄県宜野湾市新城2-39-8 MIX life-style2F
tel:098 893 5015 Fax:098 894 2285
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沖縄県本部町備瀬のフクギ並木の集落。まるでタイムスリップしたような古き良きのどかな暮らし
売土地「フクギ並木」のススメ
土地面積:358.7平米(108.51坪)
価格:2,080万円
http://www.dspec.jp/date/pg814.html
天井が高いから思わず見上げたくなるんだよね。ゆとりの空間はココロのゆとりなのかも・・・
賃貸アパート 見上げたくなる
沖縄県宜野湾市大山
間取り:2LDK(洋8・8・LDK19)メゾネット
賃料:85,000円
http://www.dspec.jp/date/pg377.html
おなじみのあのビルは・・・ひろーい空間を独り占めするも良し。シェアするも良し!
たとえば時代を超えてみた場合
賃貸オフィス NEW
沖縄県那覇市牧志
広さ:22.3平米~78.56平米
価格:32,000円~75,000円
http://www.dspec.jp/date/pg809.html