長田弘・著 日本放送出版協会 ¥830(税別)/OMAR BOOKS
―あいだに本があれば橋がかかる―
意識してもしなくても人の気分は多かれ少なかれ天候に左右される。季節もまた同じ。暑くもなく寒くもないちょうどこの時期は読書にうってつけ。久しぶりに本でも読んでみようかな、という人も多いかもしれない。そこで今回は読書の効用がよく分かる本を一冊ご紹介します。
著者は現代を代表する詩人の一人、長田弘さん。世界を一冊の本に見立てた「世界は一冊の本」という詩を聞いたことのある人もいるはず。詩の創作と並行して「本」についてまたは「読書」についての著書も多い。
本て何だろう、という素朴な問いに「本ははじまり、もとという意味をもっている」というところから彼が考えた「読書」というものの姿が明らかにされていく。
ただ活字を読むことだけが読書じゃないと著者は言う。私たちが無造作に「本」と呼んでいるのは、本という考え方なのです、と。
一冊一冊はそれを書いた人の、その時の考え方が本という形をとって読む人の手に渡っていくのであり、そこにはもうひとつの時間が流れている。
「いい本とはいい時間があるような本」という言葉に深く共感するところがあった。確かにすごくいい本に出会ったときの記憶は今でもありありと思い出せる。その時、自分がどういう気持ちで、どんな部屋にいて、窓からは何が見えて、何時ごろで、どんな格好でページをめくっていたかということまで。とても濃密な、いい時間の感覚がはっきりと残っている。それが多ければ多いほど豊かな時間を過ごせたいえるんじゃないだろうか。
長田さんが言うように、現実を離れてもうひとつの場所、もうひとつの時間を行き来することはとても必要なことだと思う。写真家で文章家の故・星野道夫さんも同じようなことを言っていた。
他にもこの本の読みどころはいろいろあるけれど、子どもの本のちから、という章は、今育児の真っただ中といった方にもおすすめしたい。
また表紙はジョージ・ナカシマという世界的に知られた椅子つくりによる「本を読むための椅子」。何とも坐り心地が良さそう。
読書について個人的なことを言わせてもらえるならば、間(あいだ)に本があれば橋がかかる、それは私が実感として自信を持って言える数少ないことのひとつ。
年齢、職業、国籍、時代にかかわらず、本を介せば必ず繋がることができる。まずは読書の効用、試してみてはいかがでしょう?
OMAR BOOKS 川端明美
OMAR BOOKS(オマーブックス)
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