冲方丁・著 角川書店 ¥1,575/OMAR BOOKS
11月も終わりに近付き、これから本格的な冬がやってくる。衣類や暖房器具の用意も始めた頃。またあの寒さに耐えないといけないのか、と思うと少し憂鬱になりもするけれど、捉え方次第でその気分も変わるかもしれない。
「冬はつとめて。雪の降りたるはいふべきにもあらず。霜のいと白きも、またさらでも、いと寒きに、火などいそぎおこして、炭もてわたるもいとつきづきし。
昼になりて、ぬるくゆるびもて行けば、火桶の火も白き灰がちになりてわろし。」
とは、枕草子の有名な冒頭。国語の授業で暗唱させられたことのある人も多いだろう。
身に沁みる冬の寒さの厳しさも、清少納言のようにちょっと違う角度から見てみれば、その良さがいくつも見えてくることを教えてくれる。そうすれば、逆にその状況を楽しむことさえ出来る。じゃあ誰でも彼女のような物の見方が出来るかといえばそうはいかない。ただ、真似することは出来るなあ、とこの本を読んでいて本筋とは少し外れてしまうかもしれないけれど、そう思った。
今回紹介するのは、刊行されたばかりの小説『はなとゆめ』。映画化などでも話題となった『天地明察』と同じ著者、冲方丁による、清少納言を物語の主人公にした新しい歴史小説。現代のストーリーテラーが清少納言の生涯を描いたら、と考えるだけで期待は募る。読み始まれたら一気に雅な宮廷生活の世界へ引き込まれていった。
簡単なあらすじは、こういったもの。
28歳にして帝の后・中宮定子に仕えることになる清少納言。内裏の雰囲気に馴染めずにいたが、定子に才能を認められる。やがて藤原道長と定子一族との政争に巻き込まれながらも、自らの「はな」を開かせていく。
この小説における彼女の人生の基盤にあったものは「楽天さ」。もともと自分に、全くといっていいほど自信がなかった彼女が、憧れの上司に導かれるようにして「書く」ことに目覚める。そうなったのは、楽天的な性格だったから、というのがきっと大きい。どんな窮地に陥っても、機転を利かすには楽観がないと。楽天さというものはどんな場面においても必要なものだと思う。
そしてその明るさが周りをも照らす。そんなことを考えながらこの本を読んでいた。
古典好きや歴史好きはもちろんのこと、恋愛小説など物語としても素直に楽しめるこの小説。どうぞ現実を離れて風雅な世界を堪能して下さい。
OMAR BOOKS 川端明美
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