『 フェルメール 光の王国 』光の画家を追う、美しい「証明」のような紀行ミステリー

光の王国
福岡伸一・著 木楽舎 ¥2,310
 
春めいてきたここ数日、巷では隕石の話題がメディアを賑わしている。
あの巨大な光の球なんてのを見てしまうとこの世界は何でもありなんだな、と思う。
世界は不思議や謎に満ちていて、あるときそれはどういうことなんだろう?と疑問が芽生えたとき、それはその人にとってのミステリーとなる。
  
今回はちょっと変わった美術ミステリー『フェルメール 光の王国』をご紹介。
『生物と無生物のあいだ』で生物学者でありながらその静謐な文章の美しさでも定評のある福岡伸一さんによる本書。
 
この本が出た当初、一晩で読み切ってしまうほどのこの本の面白さをどうやって伝えたらいいんだろう、と悩んでいるうちに紹介までに時間が空いてしまった。
その間も評判を呼び、根強く売れ続けているようなので目にしたことのある人もきっと多いはず。
 
内容はANAの機内誌「翼の王国」に連載されたものをまとめた、日本でも愛好家の多いヨハネス・フェルメールの作品をめぐる美術紀行といった趣き。でも単なる美術紀行と片付けてしまうのは惜しい。
 
「真珠の首飾りの少女」であまりにも有名なフェルメール作品を今までにない角度からとらえていて、生物学者である福岡さんの視点、分析、表現が遺憾なく発揮されている。
 
世界中に散っているフェルメールの作品の足跡を丹念に辿り、自ら設定した謎を澄んだ眼差しで対話するように推理していく。美しい贅沢な写真とともにその謎が解き明かされいく過程を、読者も一緒になって堪能できるような構成になっている。
章ごとにフェルメールごとにまつわる印象的な人物たち(スピノザ、アインシュタイン、ガロアなど)もまた等しく魅力的に描かれる。
 
一枚、一枚の絵に浮かび上がる光の粒をそっと掬って顕微鏡のレンズを覗くように観察し、その秘密の奥へ奥へと私たちをも誘う。
 
光の画家と言われるフェルメールをめぐる長い旅の中で、著者が導き出す結論へ至るその様はまるで数式の美しい「証明」のよう。
 
こういうのが読みたかった、と思わせてくれる本にはそうそう出会わない。間違いなくこの本もそのひとつ。
久しぶりに読み返して再確認した一冊。お薦めです。

OMAR BOOKS 川端明美




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