宮沢賢治・作 清川あさみ・絵 リトルモア ¥1,890/OMAR BOOKS
―色と石のはなし。―
先日、絵を描いている人から面白い話を聞いた。
自分の興味、関心が「人」から「植物」へ、「植物」から「鉱物(石)」へと変わってきたら人として完成に近づいている、のだそうだ。
はあ、なるほど~とため息をついたのは、確かに周りを見渡してみると思い当たる人が何人かいる。中にはまだ若いのに、無類の石好きの女性はとても落ち着いて穏やかな佇まい。素敵な大人、という感じなのだ。
それで話は飛びますが、今回お薦めする新刊『グスコーブドリの伝記』。
あの宮沢賢治の代表作の一つが、布・糸・ビーズを使った美しい作風で知られる清川あさみさんの手で生まれ変わった本作。
今店内に並んでいるこの本を手にしたあるお客さまの感想が、またはっとさせられるものだった。この本の表紙を見てすぐに
「何だか石みたいだね。この色合いに似た石を見たことがあるよ。不思議だけど何も手を入れてないのに自然にこういうのはあるんだね。」
という話をされた。
様々な色々のグラデーション。素材の異なる布のコラージュ。キラキラと反射する沢山のビーズ。それらが繊細かつ絶妙なバランスで繋がり重なり合ったイーハトーブ。
偶然なのか意図してなのか分からないけれど、清川さんが紡ぎあげた世界は、自然に(もしかしたら私たちのすぐ近くに)転がっている石に似ていた。
そして植物や鉱物採集に熱中していた宮沢賢治。これを聞いて深く納得するものがあった。
ストーリーを紹介しておくと、ブドリと妹ネリの住むイーハトーブの地を飢饉や火山噴火などが起こります。
たくさんの家族が楽しく暮らせるように、自然の猛威に知と覚悟をもって立ち向かうブドリ。その一生涯が描かれたお話。
宮沢賢治の作品では『銀河鉄道の夜』があまりにも有名だけれど、こちらも隠れた名作。
今私たちが手にしている幸せは何かの犠牲の元にあること。
彼の主要テーマの一つ、「自己犠牲」が悲しくも美しいラストを結ぶ。
今こそ読まれる、また長く読み継がれるべき作品です。
OMAR BOOKS 川端明美
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