梨木香歩・著 新潮社 ¥590(税別)/OMAR BOOKS
夏の気配が色濃くなる今日この頃。最近知人と会う機会があった。
話題は自身の学生の頃の話になり、以前の仕事柄10代の子たちと日常的に接していたのに、そういえば最近は全然高校生や中学生と話したことないなあ、なんて思っていた。
そんなとき目に入ったのがこの「裏庭」という、梨木香歩さんの長編小説。
実はちゃんと読んだのはごく最近のこと。でも読む前からこの本はなんとなく私に、「夏休み」「図書館」を連想させる作品だった。
実際の話は、幼い頃弟を失った少女が、謎めいた洋館の秘密の裏庭に迷いこんで冒険の旅に出るというもの。
夏休みと言えば課題図書。
宿題の読書感想文を書くために読まないといけない本、といった課題図書にあまりいいイメージを持っている人は少ないんじゃないだろうか。
ある年、梨木さんの他著がその課題図書に選ばれたこともあって、この「裏庭」や他作品もよく学校の図書館の棚に並んでいた。
司書として勤めていた頃、夏休みに入ってひっそりとした館内で、それらの本を静かに借りていく生徒たちの顔が目に浮かぶ。
明るい日差しの降り注ぐ大きな窓の外には、大きな木が葉を茂らせて影を作っていた。
グラウンドから風に乗って聞こえてくる部活生のかけ声をBGMに、静かな館内で、受験生が勉強するのを横目に見ながら長い夏の時間を過ごした。
そのときのなんとも言い表せない、強いて言えば甘い豊かな気持ちを、この小説は思い出させてくれた。
まだ見えない未来に、不安と希望を合わせ持ち、ゆれていた彼女たち。今はどうしてるんだろう。
この本の最後に解説を寄せた心理療法家の河合隼雄はこの中で、すべての少女は心の中に「庭」を持っている、と言っている。
大人になってもこの「庭」をそのままで持ち続けることは難しい。
だからときどきこういう物語を読む。まだ、大丈夫、と思いながら。
合わせてバーネットの児童文学の名作「秘密の花園」を読むのをおすすめ。
この夏、これらの小説を読んであの頃の気持ちを思い出してみてはどうでしょう。
OMAR BOOKS 川端明美
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