『 サラバ!(上・下)』「体験」というしか言いようがない小説。同時代に生きているという幸せ。


西加奈子・著 小学館 各¥1,600(税別)/OMAR BOOKS  

 

今会う人、会う人に勧めているのがこの小説。先日直木賞をとったことでも話題の『サラバ!』。
「僕はこの世界に、左足から登場した。」という書出しから始まる、1977年イラン生まれの僕がその後辿る半生を描いた壮大な物語。
上、下合わせると800ページ近くにもなリボリュームながら、一日かけて読み通した知人はすごい読書体験だったと言っていた。まさに「体験」としか言いようがないそんな小説。

 

ストーリーの内容は、家族揃って父親の赴任先であるイランから、大阪、エジプトへと舞台を変えながら、天真爛漫な母、奇想天外な姉との家族の物語が展開していく。家族それぞれのその場所、その時のいくつもの出会いと別れ。
「信じるものは自分で選べる」ということを書きたかったと言う著者が、全力で書ききったその迫力が読む人を圧倒する。

 

またこの本は、著者自身がこれまでに出会ってきた本や音楽、映画などへのオマージュのような作品でもある。作中にはアーヴィング、太宰、ニーナ・シモン、石井聴互などなど時代が匂ってきそうな作品も数多く出てくるが、これらに支えられてきたというリスペクトが伝わってきてあの頃を思い出すような幸せな気持ちになる。

 

ついこの前、終わったばかりのイベントでお会いした編集者の方は、「この物語を生み出した著者と同時代に生きていることが幸せだ」と何度も繰り返し仰っていた。

 

「生きること」「愛すること」に真正面から向き合った現代の物語。
今がつらい、という人、最高にハッピー、という人、何もかもがつまらないという人、岐路に立たされている人、出会いにわくわくしている人、難問にぶつかっている人、この時代を生きているあらゆる人に読んでもらいたい、と心から思える一冊。
『サラバ!』というタイトルの意味するものが最後に明らかになるとき、きっと少し目の前の世界が違って見えてくる。ぜひどうぞ一読を。



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