『 アムステルダム 』化かし合いのような心理戦。マキューアンの極上の小説。


イアン・マキューアン著  新潮社 ¥476(税別)/OMAR BOOKS    

 

読み終えてまず、友情って、、とつい考えてしまった。今回ご紹介するのは、以前『甘美なる作戦』という作品でも紹介した、イギリスの作家イアン・マキューアンの出世作『アムステルダム』。

 

舞台はロンドン。社交界の花だった女性が亡くなり、その彼女を取り巻く作曲家、新聞社の編集長、外務大臣を中心に、一枚の写真をきっかけにして互いの思惑がからまり合い、化かし合いのような心理戦が繰り広げられる。

 

全編通して、男同士の虚栄心、打算、策略やらがシニカルに描かれていく。
ぜひこの小説を読んだ女性陣の感想を聞いてみたい。けっこう引いて冷静に読んだ人などからすると、なんだか大変ね、という声が聞こえてきそう。
イギリスの階級社会で上流に位置する大人たちが揚げ足を取り合うところがなんとも滑稽だ。

 

核は作曲家クライヴと編集長ヴァーノンの友情。互いの弱さをいたわるかと思えば、掌を返したかのように辛辣に攻撃する。人生も晩年にさしかかった二人の友情はどうなるのか。新聞社、マスコミ、政界を巻き込みながら展開される探り合いや駆け引きが読者を飽きさせない。

 

途中から話はぐっと加速して、意外な展開を見せ始めるところから、小説の色合いが急に変わる。まるでクライヴが作る曲がクライマックスに向かっていくように、物語は意外なエンディングに近づいて行く。

 

またタイトルがミソ。これが意味するところは?訳者があとがきで断っているように本文より先にあとがきを読まないように。読者を上手いなあと唸らせてしまう、策士・マキューアンの極上の小説。ちょっとした驚きの結末を楽しんでほしい。おすすめの一冊です。

OMAR BOOKS 川端明美




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