イアン・マキューアン著 新潮社 ¥2,300(税別)/OMAR BOOKS
すぐそこに冬の気配がようやく訪れた。暖かいものにくるまって小説を読みふけりたい。そんな深秋の夜にぴったりの一冊を、というわけで手にしたのが本書『甘美なる作戦』。
学生時代に年上の大学教授と恋仲になり、それがきっかけでMI5の女性スパイとなったセリーナ。彼女を取り巻く小説家を始めとする男性たち。イギリスが舞台の、この出て間もない恋愛小説を、今回はご紹介します。
ある突然の別れから、淡々と仕事をこなしながら内側に閉じこもって小説ばかりを読みふけるセリーナ。そんな日々を送る彼女に、ある日訪れた任務。その名もSweet Tooth(スウィート・トゥース)作戦。文化工作のために才能があると思われる作家を支援する、という仕事。自分の正体を偽って、小説家に接近するけれど・・・。
彼女にとっては魅力的な任務のはずが、次第に彼女個人の人生を左右することになるというストーリー。
唯一の楽しみは小説を読むこと。それも大衆小説から難解なものまで小説ならなんでも読むのが好き、という女性主人公。彼女がとても魅力的に描かれている。傍からみると恵まれているように見える彼女は自己評価が低い。ひっそりと自分の大切なものを胸に抱き、黙々と勤務先で仕事をし、慎ましい生活を送っている。
この小説の始まりにはスパイというと華やかさはどこにもなく、私たちが持っているスパイのイメージが覆される。しかし、作戦の対象、ヘイリーと出会い、その関係が深まっていくに連れ、彼女の世界も少しずつ色を取り戻して行く。後半にかけての、海辺の町での束の間の穏やかな生活もまるで風景画のようだ。
著者のイアン・マキューアンは実力、人気ともに備えたブッカー賞・エルサレム賞作家。本作は日本で読める彼の最新作。読んでいると、登場人物たちの口を借りて、彼の小説論を語っているようにもとれて面白い。
また謎が解き明かされる物語のラストには、きっと女性陣はハートを鷲掴みにされる。ひと昔前の国をあげてのスパイ戦やイギリスの出版界の裏事情も物語の本筋にしっかりと織り込まれていて、読み応え十分。ミステリーやイギリスの文化が好き、という人にもおすすめです。ちなみに「sweet tooth」 とは「甘党」のこと。
夜更かしのおともにぜひ。
OMAR BOOKS 川端明美
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