マット・キッシュ 著 柴田元幸 訳 スイッチ・パブリシング ¥2,100(税別)
青と白を基調としたカバーをまとった分厚いイラスト集。まずページをめくっていくととにかく圧倒される。イマジネーションの洪水のごとく、絵の一枚一枚が飛沫(しぶき)をあげて目に飛び込んで来るようだ。
今回ご紹介するのは、アメリカ文学不朽の名作、ハーマン・メルヴィルの『白鯨』(モービー・ディック)を作者マット・キッシュがイラストで新しい形に生まれ変わらせた『 MOBY-DICK IN PICTURES One Drawing for Every Page モービー・ディック・イン・ピクチャーズ 全ページ イラスト集』。
図書館員であるマット・キッシュが、自らのバイブルのように読み続けてきた『白鯨』の全ページに一日に一枚、絵を描くことをある日思い立ち、約一年半かけて描いた552点の絵を一冊にまとめたヴォリュームのある作品集だ。
白い巨大なマッコウクジラを追うエイハブ船長をはじめとした鯨捕りや船乗りたちの姿を描くこの小説は、象徴的で難解な物語だがこのイラスト集の帯にあるように、まさに「絵で読む」小説といったスタイルがうまく成立している。柴田元幸さんの翻訳もまた読むことを助けてくれ、この本を一読して、「活字で読む」という以外に「絵で読む」という選択肢があってもいいと思えたのは個人的に収穫だった。
作者のあとがきを読むとよく分かるのだが、それを実現させたのは、作者自身も湧いて来るのを押えられなかった、常軌を逸した情熱だろう。それが周りの人を動かし、多くのバックアップを得て、こうして今私たちの手元にこの本がある。
またこの本の成り立ちが今の時代ならでは。作者は絵を一枚描いていくたびに自身のブログに公開し、それが次第に反響を呼んでいき、一冊の本を作るプロジェクトに発展していった。まるでうまく出来たサクセスストーリーのようだが、作品群から伝わってくる熱量が読者を納得させてくれるはず。
ちなみに小説『白鯨』の中には一等航海士「スターバック」が登場するが、某コーヒーチェーンの名前の由来はここからというのは有名な話。熱いコーヒーを飲みながら、鯨たちに会いに、広大なイメージの海へ漕ぎ出してみてはどうだろう。
OMAR BOOKS 川端明美
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