『 The Helga Pictures / Andrew Wyeth 』時間を描くワイエスの絵。表情に浮かび上がるものは。


John Wilmerding・著 ¥5,500(参考価格) ABRAMS /OMAR BOOKS 

 

これからまた新しい一年が始まる、ということで今回ご紹介するのに選んだのはハードカバーのアンドリュー・ワイエス画集『The Helga Pictures 』。表紙の、きつく髪を編み込んだ横顔の女性・ヘルガの表情が見る人の想像を掻き立てる。

ワイエスはアメリカの国民的画家として広く知られ、日本でも幾度か展覧会が開催されているので耳にしたことのある人は多いように思う。数年前に機会を得て彼の作品を見た時に、作品はもちろん素晴らしかったけれど、続けて並んでいた「習作」と呼ばれる作品たちに心を奪われた。

 

習作とは、ある作品のデッサンから次第に完成に近づいていく過程で描かれたものを指していて、時系列に順に見て行くにつれ、静かな興奮が胸に湧いた。
まだ色もついていない、ぼんやりとしか形を成さない絵なのに、何にそんなに惹かれたのか。あとで思い返してみてみると、そのワイエスが実際に描いている最中の「時間」みたいなものが、そこに透けて見えるような気がしたからだろうか。ヘルガシリーズを中心にまとめられたこの画集の中にも、彼の代表作と合わせてその習作群も収められている。

 

額に深く刻み込まれた皺(「ガニング・ロックス」)、溶け残った泥まじりの雪、地面に横たわった巨大な岩や朽ちかけた木の葉や枝、散らばった羽毛か何か分からない細々としたもの(「火打ち石」)。籠がぶら下がる民家の軒先から望める平原の空に浮かぶ細い月(「三日月」)。写実的な画風のワイエスの絵を見ていると、その「時間」の中に自身も立っているような感覚を抱く。

 

過酷な自然と対峙してきた人間の美しさ。「CAPE COAT」という作品では、厳しい寒さを思わせる重たそうなコートを着たヘルガが黒く太い幹に寄りかかって遠くを見ている。その表情に、彼女は何を考えていて、どんな人生を送ったのだろうと思わずにはいられない。

 

画集をめくりながらワイエスの描く人物たちを見ていてずっと頭にあったのは、過ごしてきた年月は人の表情に現れるということ。それはごまかせないなあと。
例えば。この一年をどう過ごすかで、また来年の自分がどんな表情をしているかが変わってくる。それはきっと正直に顔に出る。そう思うとまた新しく始まったばかりのこの年を心して過ごそうと思うのでした。皆さまもよい一年を。

OMAR BOOKS 川端明美




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