ピーター・キャメロン著 山際淳司・訳 筑摩書房 ¥1,900/OMAR BOOKS
夏が日に日に色濃くなっていく。
ぼんやりしているとあっという間に過ぎ去ってしまうこの季節にぴったりの小説『ウィークエンド』を今回はご紹介します。
舞台はニューヨーク郊外。そこへ暮らす友人夫婦の家へ避暑にやってくる主人公たち。
それぞれ複雑な心情を抱えながら、暑さから逃れて気持ちよく過ごそうと集まった、ある週末の出来事を描いた物語。
太陽の光とそれを和らげる森の木々に囲まれ、家の前には芝生が広がっている。
迎える側のマリアンとジョンと生まれて間もないローランド。
喧騒にまみれた街からやってきた付き合い始めたばかりのライルとロバート。
それぞれ個人的な事情を抱えながらも、庭に続く芝生にサンベッドを出して本を読んだり、冷たい物を飲んでは特に目的もなくただのんびりと過ごす。
また登場人物たちは日に何度も、夏でもひんやりとした川の水に入って泳ぎを楽しむ。
例えばこんな一場面。
ー遠くでまだ泳いでいる友人に、手を振りながら先に上がった二人は濡れた身体を岩場に横たえ、日差しで乾かしながら深刻な言葉を静かに交わす。ー
この小説の魅力は「会話」。
表面的にはただ穏やかに過ぎていく夏の午後。
この世にはもういない一人の不在が、彼らに微妙な緊張感をもたらす。
相手への優しさゆえに、ボタンの掛け違いのように次第にすれ違っていく。
過ぎていく夏の風景と移ろいゆく心。
それが見事に彼らの会話によって浮き彫りにされている。
そんなつもりじゃなかったのに、ということは私たちの身の周りにもよくあること。
ちょっとした言葉のあやが間違って受け止められてしまったり、本心とは違うことをつい言ってしまったり。
人ってなんて面倒くさい、繊細な生きものなんだろうと思う。
でもそういうことと不器用に付き合っていくことが生きることの側面の一つでもあるんだな、と思いながら読み終えた。
翻訳は今は亡き、山際淳司さん。スポーツライターとしても知られた山際さんが、NY滞在中にこの作家を見つけなければ(別のエッセイでその経緯についてふれています)、もし彼がたまたま入った本屋で一冊のペーパーバックに出会わなければ、こうしてピーターキャメロンの作品を読むこともなかったかもしれない。
そう思うとさらに作品との出会いが愛おしくなる。
山本容子さんによる装画もこの小説の雰囲気そのもの。
夏が終わる前にぜひ読んでほしい大人の良質な物語です。
OMAR BOOKS 川端明美
OMAR BOOKS(オマーブックス)
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