『 雪 』初版から70年経っても色あせない、雪の魅力が詰まったロングセラー。


中谷宇吉郎・著  岩波書店  ¥525/OMAR BOOKS
 
― これ一冊で雪博士に ―
  
初めて雪を見たときのことは忘れられない。
働いていた映画館のロビーが一面ガラス張りで、
仕事の休憩中、突然雪が降り出した。
後から後から降りしきる細かな白い雪が空全体を覆っていた。
 
その初めて見る美しさに呆けたように見入っていると、
同じように見ていた同僚が、
突然赤いカーペットの敷かれた床に寝転んだ。
上映中だったため人気はなく私も真似して寝転んでみた。
今考えるとよくやったな、と思うけれど
しばらくそうやっていると自分の体に雪が降り積もっていく錯覚を覚えた。
 
あのときの光景は今でも目に焼き付いている。
それ以来「雪」は憧れの対象。
 
そんな『雪』に魅入られた人と言えば、中谷宇吉郎。
日本の雪博士として知られている彼の雪に関するロングセラー本『雪』を今回ご紹介。
 
雪とはそもそも何?
簡単に言えば水が氷の結晶になったもの、というごく初歩的なことから、
結晶の分類法から人工雪の作り方まで
分かりやすい文章でコンパクトに綴られている。
 
世界最初の雪華図だったり、雪の結晶の図版なども収められていて
「雪」の奥深い世界に触れることが出来るのも読んでいて楽しい。
私たちが普段よく見慣れている結晶のモチーフ(ダイヤグラム)には
きれいなものばかりではなく様々なバリエーションがあることが分かる。
 
この本の解説にも書いてあるけれど、
寒さにふるえながら一心に顕微鏡を覗く著者と一緒に
仕事(研究)をしている気になるのもまたこの本の魅力。。
 
「雪は天から送られた手紙」
というのを耳にしたことがあるはず。
こう表現したのはこの中谷さん。
 
最初は楽しみから、研究室の廊下の片すみで吹き込んでくる雪を観察することから始まった雪の研究。
彼は言う。別に専門的な知識などなくてもいい。
ただ雪の降る一日、虫眼鏡を持って自分の目でみることは無意味なことじゃない、と。
 
それでいうと、中谷さんも影響を受けたという、雪の結晶の美しさを世界に広めたアメリカの雪の写真家ベントレーも忘れてはいけない。
一生を雪の観察に捧げた人。
彼をモデルにした絵本を合わせて読むのもおすすめ。
 
沖縄に住んでいるとなかなか見る機会のない「雪」。
暖かな部屋の中で、本の中だけでも雪の世界を楽しんではどうでしょう?
これ一冊であなたも雪博士に。

OMAR BOOKS 川端明美




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