『 ねこたち 猪熊弦一郎 猫画集 』愛くるしい猫たちが縦横無尽に紙の上を闊歩する。 猫好きにはたまらない画集。


企画・編集 i love cat リトルモア ¥1,800(税別)/OMAR BOOKS

 

寒くなると猫が恋しい。正確には、猫のいる生活が。自宅で飼わなくなってもう10年以上経った。先日たまたまテレビを見ていたら、作家・内田百閒の愛猫ぶりを描いていた。可愛がっていた猫がふいにいなくなり意気消沈して探す姿が、数年前の出来事を私に思い出させた。

 

あるところから貰い受けたばかりの子猫を、ちょっとした喧嘩のせいで、家人が他所へやってしまった。行く先を聞くのも癪なので、こっそり「迷い猫」のチラシを作って近所の思いつくところへ貼ってまわった。
これで本当に効果はあるんだろうか、と落胆する数日が過ぎ、突然見知らぬ人から「似たような子猫が父親のところにいる」という電話があった。

 

すぐさま飛んで行くとそこは見覚えのある場所。家人の友人Kさんの家で、電話の主はその息子さんだった。その家の野性的な庭で子猫は他の数匹の猫とすっかり馴染んでいる。Kさんのいない場で事情を話すと、息子さんの話では現在一人暮らしのKさんも可愛がっているという。
相談した結果、子猫もここでの生活が気に入っているようだし、このままKさんのところで飼ってもらうことになった。それ以来、そこへは一度足を運んだきり。

 

今回ご紹介するのは『ねこたち 猪熊弦一郎 猫画集』。そのタイトル通り、猫のオンパレード。猪熊弦一郎は、戦前パリに遊学しマティスに学んで国内外で活躍した画家。妻とともに大の猫好きとして知られている。
この画集『ねこたち』はそんな彼が残した猫の絵を集めて一冊にまとめたもの。愛くるしい猫たちが紙の上を縦横無尽に闊歩する、猫好きにはたまらない画集だ。

 

ページをめくる手が止まらない。つい笑みがこぼれてしまう。えんぴつや赤や青のインクで描かれた数多くの猫たちがこちらを見つめる。大きな猫。
小さな猫。愛嬌があるもの、無表情なもの。一匹は長く伸び、別の一匹はあられもない姿をしている。そこに紙があれば描く、といった風で、画家・猪熊の猫たちはなんとも自由だ。
「私の心はまだ猫を愛する心で一杯である」は猪熊の言葉。

 

ときどきKさん宅に残して来たあの猫はどうしているだろうと思い出す。
この画集の中の猫たちのように、人間なんて我関せず、といったようにあの木の生い茂った庭でのびのびと暮らしているといいな、と思う。

 

OMAR BOOKS 川端明美

 


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