いびつな形と無骨なたたずまいに
ポップで明るい色合いがいかにもアンバランスな器だが、
なぜこんなにも魅力的なのだろう。
素人目にもわかる、「良い器」。
一番不思議なのは、質の良い器にありがちな、
触れることを拒むような威圧感がないところ。
むしろ、心を100%ゆるしきっているような驚くほどの気安さがあり、
つい、自然と手に取り
その感触を、
常識にとらわれない形状や質感を、
様々な角度から観察し、
両の手でじっくり味わってしまう。
いや、そうすることをきっと器も求めている。
そして、ぴったりと手に収まる親密さが、
追い打ちをかけるように私たちを魅了する。
この屈託の無さは何なのだろう?
一体どんな人物が、こんな器の存在を可能にしているのだろう?
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キム・ホノ氏について語る多くの人が、
「誠実」
という言葉で彼を形容する。
同氏と懇意である「陶・よかりよ」のオーナー・八谷(やたがい)さんは、
様々なエピソードでその人となりを伝えてくれる。
二人で呑んだ帰り道、
側溝に落ちた子猫の声が、助けを求めていた。
二人とも気分よく酔っぱらっていたが、
「面倒くさいし、助けるとなると汚れちゃうし・・・」
などという躊躇は、キム氏には微塵もなかった。
「そっち持って。開けるよ。」
側溝の鉄板に手をかけながら、八谷さんをうながした。
無事に子猫を救出した頃には、二人ともすっかり汚れていた。
こんなこともあった。
八谷さんが何の気なしに
「あじさいが好きなんだ」
という話をしてしばらくの後、
愛知県のキム氏自庭で咲いた、美しい山あじさいが宅急便で送られて来た。
「こういうことをさらりとできる人なんです、彼は。」
きっと、キム氏にとっては特別なことではない。
ごく普通のこと、当たり前にやっていること。
そんな日常に、「陶芸」も含まれている。
「キムさんは、息をしたり食べたりするのと同じように
創作活動を行っている人。
24時間、常にものを創るために彼は生きてるんです。
創作活動をやっている陶芸家というよりは、
キム・ホノという人間である、という言い方が近い気がします。
陶器をやるというのは、彼の生き方そのものなんです。」
「キムさんは色々な切り口を持った作家、
でも、どこを切り取ってもきちんとキム・ホノなんです。
新しい方向性の器でも、ちゃんとキムさんの作品だとわかる。
ぶれないんですね。」
全国で個展を開催しているが、
キム氏は毎回同じ作品を持って行くのを嫌がるという。
「今回は『色』を見たいな、とお願いしました。
いわゆるカラフルな綺麗な色だけじゃなくて、
キムさん自身にとっての色、
黒や白、くすんだ色も汚れて見える色も。
彼はとても鋭い視点を持った人で、
普通の人が見ても美しいと思わないものにも美しさを見出せる。
一見すると『なんだろう、この器の色は?』というようなものでも、
しばらく眺めていると
『綺麗だな〜・・・』
と思えて来る。本当に不思議な人です。」
文字の入った作品も多いが、
キム氏にとっては文字も「絵」の一部であり、
文章としてではなく、
絵として味わうと面白い。
「この絵はどういう意味だろう」
「この文章はどういうことを言いたいのだろう」
そんな作家の意図の汲み取りは一旦意識の外へぽんっと手放して
目の前の器を是非手に取ってほしい。
一瞬の留保や躊躇も感じられない、
破天荒で常識から少し逸脱した作風と、
そんな作風からは想像がつかないほどに誠実で穏やかなその雰囲気を、
じっくり味わって欲しい。
ただ一つ、キム氏が全力で伝えようとしていることは
「感じて欲しい」
ただそれだけではないだろうか。
そこに答えは無いのだ、と。
写真・文 中井 雅代
陶・よかりよ
那覇市壺屋1-4-4/1F
TEL.098-867-6576 FAX.098-867-6575
「KIM HONO 色 MONO 語り」
〜5/22(日)
open 10:00〜19:00
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