「LONDON meets OKINAWA.」 4月25日からロンドンで行なわれるLOOCHOO(ルーチュー)展。ロンドンとオキナワ、過去・現在・未来。 琉球クリエイションが時空を超えて交差する。

文:幸喜 朝子 写真:大湾 朝太郎(※津波博美画像を除く)

 
 
あと数日に迫ったロンドンでの展示会LOOCHOO。
参加する作家さんを、実行委員会メンバーであるブエコこと幸喜朝子が紹介します。
今回は、現代美術家でロンドンを拠点に活動する津波博美さん、同じく現代美術家で沖縄で活動する平良亜弥さんです。
 
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 LOOCHOO展
 日時:2012年4月25日〜30日
 場所:ロンドン クリプトギャラリー
 HP:http://loochoo.ti-da.net/
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LONDON meets 津波博美
 
シンプルな空間にぶらーんと吊されたいろんな服たち。
2009年の博美さんの作品「Silver lining」を見て、
私はひとつの場所に住んではそれぞれの場所へと発っていった
たくさんの家族たちをイメージした。
 

 
作品は好きに解釈したらいいんだよ、と言う博美さん。
「Silver lining」は曇り空のうしろには太陽がある、という意味で
博美さんがロンドンで他人の家で転々と暮らした経験から生まれたのだそう。
 
「2009年にロンドンで3ヶ月、
人の家を転々とするプロジェクトをやったんですね。
要はいろんな家に居候してたってことなんだけど(笑)」
 
沖縄からロンドンに戻ったばかりで住むところがなかった博美さんは
「いかにお金を使わずに暮らせるか」考えて
友人宅を転々と居候することをプロジェクトにしてしまった。
その時に感じたのは、自分の居場所のなさ。
だからそのうちの一軒で友人がタンスの一部を使わせてくれた時、
わずか10cmでもスペースがある、つまり服があるという当たり前のことで
自分という存在の確認ができたようですごく嬉しかったという。
この経験が作品「Silver lining」につながった。
 
「これ、写真では見えないんですが下から見ると
袖がいっぱいぶら下がってるんですね。
私、展示の時に眠かったからそこに寝てて(笑)
それを見た友だちが『家を転々としてる私を
袖が救い上げようとしてる!』って解釈したり
作品と私を照らし合わせて
いろんな人がいろんなこと言ってましたね。ふふふ」
 
LOOCHOO
 
アートは作家個人の経験や思い出、
生きてきた軌跡をたどってアウトプットされる。
もちろん見る側だって自分の感覚や価値観をその作品に重ねる。
だから同じ感想なんて出るはずがない、自分なりの感じたままでいいんだ。
博美さんの話を聞きながら難しそうだからと敬遠してたアートが
ぐっと身近になるのを感じた。
 
私同様、2008年に沖縄で展示した「Speakers and Pink wall」への
沖縄の人々の反応もやっぱり、
作品をどう捉えていいか分からずとまどう人が多かったそう。
沖縄本島南部の空き家に展示した作品は
建設現場で使うショッキングピンクの紐を柱に巻き付けて壁を作り、
12個のスピーカーから様々な沖縄の会話を流すというもの。
 
LOOCHOO
 
「みんな作品見てもどうしていいか分からない感じ。
うちの叔父さんも見に来てずっと『意味分からん』って(笑)。
2回来て、3回来ても分からんって言うから
叔父さん、分からないってことも答えだよ〜って話してたんですね。
そうしたら最後、4回目に来た時に
『分かった、アートってなんでもいいんだな?』って(笑)。
そう、この紙をくしゃって丸めただけでも
作る側に想いがあればアートなんだよ」
 
LOOCHOO
※2010年南城市の佐敷で行われた「Perfect place」
 
そうやって見に来てくれた人の気持ちが
作品を通して変わるのを感じられたのもおもしろかったという博美さん。
今でこそ作品を制作する側も見る側も
自由で自然体でいいんだというスタンスですが
作風を見つけるまでに試行錯誤する日々が続いたそう。
ロンドンで芸術学校のプリントメイキングコースに受かったものの
やりたいのはこれじゃないという想いから最初の2ヶ月は登校拒否気味に。
そんな時、たまたま道路工事の作業員と
会話したことがきっかけで大工道具に目覚めた。
 
LOOCHOO
※作品にカンナも使う事も。
 
「宝石屋に行くより大工道屋行く方がどきどきしちゃう!
なにこれ、なにこれ!って大工道具にときめいて。
セメント買って学校に行ったりしてましたね(笑)」
 
そして1学期最後の作品展で
展示のために作った作品に納得がいかず、
それを包んでいたニュースペーパーを壁に貼り
木枠とラインを引く道具を置いてみた。
「自分のやりたいのはこれだ」、ピンときた。
自分らしい表現に出会った瞬間だった。
 
「そこからはプリントメイキングコースにいるけど
好きなの作ればいいや、気にしな〜いって。あはは」
 
おおらかに笑う博美さんはとても朗らかで
制作も日常も、楽しいことも苦しいことも過去も未来も、
ぜんぶ含めて楽しんでいるよう。
「心がけてるわけじゃないけど、どこか
ユーモアが入ってる作品を作れたらいいな」
そう言いながらLOOCHOOの作品コンセプトも
笑いと共に教えてくれました。
 
「私は40才すぎてて若くないので、時を止めたいって思うから
その想いを「中年女のあがき」っていうコンセプトで表現したいな(笑)。
時を止めたいと慌ててる自分に、時には勝てないから楽しもう、
あきらめていいさ、って落ち着かせてるみたいな。
モチーフは沖縄の冬の風物詩、電照菊」
 
LOOCHOO
 
タイトルは「Here comes the sun」。
ビートルズの曲名で「太陽が照ったよ」というニュアンス。
LOOCHOOも不安だよ〜と言いながら
ふふふ、と頬笑む博美さん。
電照菊が博美さんというフィルターを通してどう昇華されるのか、
そしてロンドンの人たちがどう自由に解釈するのか、
あと数日後に迫った本番が本当に楽しみだ。
 
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LONDON meets 平良亜弥
 
「アートって、派手なものはインパクトが強いじゃないですか。
でも自分の作品は地味なんですよ(笑)
だからこそ、あとからじんわりじんわり好きになってくれたり
生活してる時に思い出してくれるのかな、って」
 
LOOCHOO
 
そばに「いる」とか「ある」という感覚や
日常に置いてあるような雰囲気の展示が好きだという
現代美術家の平良亜弥さん。
取材は「夕ご飯を食べながらどうですか」という嬉しい申し出により
亜弥さんの暮らすアトリエで手作りカレーを食べながら。
おじゃましてすぐに亜弥さんの日常に包まれた。
 
LOOCHOO
 
その日常にもう一つ溶け込んでいたのが
2009年の「ほんぽんひらら展」で作った切絵の付箋。
安部公房の小説「壁」に小さな小さなフェンスや国旗が並んでいる。
小さな付箋の世界がとっても可愛くて思わず購入!
 
LOOCHOO
 
「『壁』を読み終えたらフェンスの向こうにいる、
というのが面白いかなって。
付箋で作品ができないかなって4年ぐらい前から考えてて、
言事堂(古書店)で展示をすることになったので
本を使って作品を作りたいなぁと思ったんです。
その点と点がつながって作品になりました」
 
そう話すように、亜弥さんの作品は
インスタレーションという場所も含めた空間芸術。
だから展示する場所がどんなところか、
どういう空間なのかが大事だと言う。
選ぶ基準は基本的に亜弥さん自身がゆっくりできる、
気持ちいいと感じる場所。
カフェ、雑貨屋さん、古書店、アパートの空き室。ジャンルはいろいろだけれど
亜弥さんの作品を置いたとたんに亜弥さんの空気が漂う。
 
時には光や影が作品の一部になることも。
2008年にcafeティーダでおこなった「日々是好日」展では、
時間によって移り変わる陽の光や陰を意識する作品「灯」を発表した。
 
「光とか影は好きですね。
時間によってかわっていく感じが好きで。
あと、触れないのに「いる」、そういう感覚が好きなんです。
昔おばあちゃんが、ご先祖様は光としてみんなを
照らしてくれてるんだよ、って話してくれたことがあって。
夕方の陽射しとか優しいじゃないですか。
一人でいても一人じゃないみたいな。
そのおばあちゃんの話の影響もあって光が好きなのかも」
 
LOOCHOO
 
亜弥さんから生み出される心地よい日常の中で、
見る人もまた心地よい日常へ包まれていく。
作品を見ながらぼーっとしてほしいと亜弥さん。
 
「展示にくるお客さんのことはこっそり見るようにしてます。
そしたら作品じゃないものとか何もないところを見てる人がいたり(笑)。
一番嬉しいのはそこでぼーっとしてる人。
空間の中でぼーっとしてもらうのが自分のコンセプトなので
そういう人がいると『よっしゃ!』と思います(笑)」
 
LOOCHOO
 
ぼーっとしてもらうというコンセプトは
のんびり自然体の亜弥さん自身を反映してるのかもしれない。
LOOCHOOに出す作品も、自分自身が空っぽになった時に生まれたという。
 
「LOOCHOOでは刺繍を黄色い糸でつないで
星座みたいにして、無限をあらわすスペースを作りたいです。
星空って見えるけどさわれないし
ここに届く光はすごく昔のもので実体がないっていうか…。
無限だけど空っぽ、みたいなイメージなんです。
それで刺繍の形を初めはブラックホールをイメージして
作り込んでたんですが、なんか違うなと思って。
しばらくぼーっとして空っぽになったら面白い形ができました」
 
空っぽにすることで現れてきた亜弥さんらしさ。
その表現はそのままの自分、自然体でいいんだよ、
そう言ってくれてるよう。
 
LOOCHOO
 
もう一つ、LOOCHOOで使うのはセミの抜け殻。
セミ自身がふ化して飛び立ったあとも
同じ形で同じ場所にある抜け殻。そこに星空と同じ
空っぽの無限というコンセプトを重ねあわせる。
そして亜弥さん、なんとセミを使うアイデアは4年前から持っていたそう。
ロンドンに亜弥さんが作る日常はどう溶け込むか。
きっとじわじわとあたたかい心地よさがクリプトギャラリーにも広がるはず。
 
 
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 LOOCHOO展
 日時:2012年4月25日〜30日
 場所:ロンドン クリプトギャラリー
 HP:http://loochoo.ti-da.net/
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■プロフィール
【平良亜弥】:現代美術家
琉球大学教育学部美術教育専修卒業。身近に当たり前にある、普段気に留めることなく流れて行く景色や現象を観察、レイヤーのように分離させることで新しい定点を加え、現代社会の抱える滑稽さと「ここ」「どこか」といった場面を起ち上がらせる作品を制作。06年に初の個展「みつける展」から11年の「on the Earth宇宙のひとかけら展」までコンスタントに作品を発表。グループ展やイヴェント・ワークショップにも多数参加。県内で最も注目される現代美術家のひとりである。那覇市出身
 
http://tairaraya.blogspot.com 平良亜弥ブログ
https://picasaweb.google.com/tairaaya 平良亜弥作品サイト
 
【津波博美】:現代美術家
96年渡英。 UALロンドン芸術大学院修士号修得後、04年から本格的な作家活動を開始。08年のワナキオ2008を皮切りに沖縄とロンドンでコンスタントに個展を開催。10年に県立美術館や他県内ギャラリーで開催された「HOME展」では平良亜弥と共同で企画とキュレイト。同年サロンアートプライズロンドン入選。11年6月「O*Levitate」で県服飾ブランドピクチャーズと現代美術家の野田結子氏とグループ展を開催。同年7月ダブリンで開催されたフォトフェスティバルアイルランド入選。また11月にはケンブリッジアングリアラスキン大学でレジデンシー作家としてグループ展「Really」参加。今回のLOOCHOOロンドン展ではアドバイザーを務める。 1970年 南城市佐敷出身 沖縄県キリスト教短期大学保育科卒。
 
http://www.hiromitsuha.com 津波博美HP
http://hiromitsuha.blogspot.com 津波博美ブログ