カフェ こくう 今帰仁の自然の恵みをふんだんに。ヤンバルの森と東シナ海を見下ろすカフェ。

カフェ こくう

 

「マクロビオテックにガチガチにはしばられず、野菜をたくさんおいしく召し上がっていただけるような料理を心がけています」

 

大きなプレートに盛られたのは、
焼きピーマンと焼き厚揚げのナッツ味噌和え
紅芋とツルムラサキのごま味噌クリーム和え
モロヘイヤと油揚げの煮びたし
お漬け物、そしてサラダ。

 

マクロビ料理と言うと、「物足りない」「メインはどれ?」などと感じるひともいるかもしれない。
しかし、こくうで食事をして、心もお腹も満たされずに帰る人はいないだろう。
そして、並んだ料理すべてがメインディッシュだと気づくはずだ。

 

ピーマンのなんと分厚いこと! 「肉厚」という言葉がぴったり、ジューシーで味わいがある。
厚揚げを焼くと、こんなにも香ばしさが増すんだなぁ。

 

本当においしい料理はかならず、からだにもおいしい。
よく味わって…と頭では考えているのに箸が止まらず、目の前の雄弁な野菜たちが次から次へとお腹の中におさまっていく。
からだが求めているからだろうか。

 

店名の「こくう」は二十四節気の一つ「穀雨」に由来する。
百穀を潤す雨。

 

料理を食べながら、思わず店名が浮かぶ。
自然の恩恵を存分に受けた野菜や穀物の力強さを知る。

 

カフェこくう
ゴーヤーとキヌアをあえた前菜。シャキシャキのゴーヤの苦みが驚くほどまろやか。キヌアのプチプチとした歯応えも楽しい。前菜と言えど気前のいいその量と野菜の新鮮な味わいにむしゃむしゃと無心で箸を進める

 

カフェ こくう

 

カフェこくうに初めて訪れた人は、すぐには椅子に座らない。
眼前に広がる絶景に唖然として立ち尽くし、感心し、しばらく見とれる時間が必要だからだ。
その湾曲まで見通せるほど長くのびる水平線の途中に浮かぶのは伊是名島だ。

 

次は店内散策。奥につづく座敷の部屋もチェックしないわけにはいかない。

 

カフェ こくう

 

見事な木造住宅は、その建築を宮大工に依頼した。

 

「釘を使わず、木材を組み合わせてつくられているのですが、台風など強い風雨にさらされる度に木がぎゅっと締まって強度があがるそうですよ」

 

熊谷祐介さんと友紀子さんが沖縄に移住したのは4年前。
特に大きなきっかけがあったわけではなかった。

 

「昔は両親に連れられて家族旅行で沖縄を訪れていました。それで『いつか住みたいなぁ、老後かなぁ』と漠然と考えていたのですが、急に思い立って…」

 

と祐介さん。

 

「そう。だから『沖縄に行こうか』と言われたときも、あまりに突然すぎて呆気にとられちゃって(笑)。でも、私は山が好きだし、自然豊かな土地に暮らせることは嬉しかったですね」

 

と友紀子さん。

 

最初のすまいは那覇市新都心のアパートだった。
飲食店で働きながら、土地を探した。

 

「沖縄全域で探していました。南部も気になるし読谷も捨てがたい。
でも、景色が決め手となってここに住むことにしたんです」

 

カフェ こくう

 

カフェ こくう

 

結婚を機に日々の食事にいっそう気をつかうようになった友紀子さんは、マクロビオテックの通信講座を受講していた。

 

「体質がとても悪かったというわけではないのですが、それでも気になる症状はありました。それが、食事を変えたことでだいぶ改善したんです。でも、治りきらない症状もあったので、ローフードも取り入れるようになりました」

 

2011年10月に引っ越し、12月末にプレオープン、2012年4月から本オープンしたこくうの料理は、マクロビオテックをベースにアレンジしたもの。
和食の料理人である祐介さんとマクロビを学んだ友紀子さん、二人の知識と経験を融合してできたのがこくうのメニューだ。

 

野菜は三軒の農家から仕入れているものを中心に使用している。

 

「沖縄県産の野菜の中でも、特に地元今帰仁で育てられた無農薬、減農薬、有機栽培された野菜が多く、中には農薬だけでなく肥料も使わない『自然農』で育てられた野菜もあります。
すぐ近くでその日に収穫された野菜を直接届けていただいたりしているので、鮮度が違います。たとえば、穫れたてのうりずん豆は調理するとジャガイモみたいにホクホクになるし、ハンダマも味が濃い。
無農薬や自然農で育てられているので作っている人によって大きさも味も違うのですが、どれも旨味がぎゅっと濃縮されているんです」

 

最初のうちは初めて見る野菜も多く、調理法を色々と試す日が続いた。

 

「瓜系の野菜やパパイヤなど、これまで使ったことがない野菜は本土の似た野菜の調理法を試したり、色々なスパイスを入れてみたりと試行錯誤しました。
どの野菜にも言えることですが、その野菜が持つ本来の味を邪魔しないよう、シンプルな料理を心がけています」

 

カフェ こくう
アフリカンブルーバジル、うりずん豆、ししピー、もずくと三つ葉と紅生姜の天ぷら。野菜の素朴ながら力強い味わいが引き立つ一皿。初めて食べたアフリカンブルーバジルは、濃厚な風味がクセになる野菜。「独特な香りがするので『この野菜は何?』ときかれることが多いんです。庭で育てているんですよ」

 

カフェ こくう
パパイヤ、島ごぼう、にんじんの豆乳味噌和え。野菜の甘みとこっくりとした豆乳味噌がよく合う。以上がランチタイムの「こくうプレート」1200円

 

野菜のおいしさに圧倒されて無心に食べ進めていると、いつの間にか心地よい満腹感に包まれている。

 

「男性のお客様でもご満足いただけるように工夫しています。物足りないと感じさせてしまっては申し訳ありませんから。
また、毎日のようにメニューが変わるため、『来るたびにメニューが違う』と喜んでいただいています。毎週お越しいただいても飽きないと思います」

 

観光客にも喜ばれそうな立地だが、沖縄に住む常連客も多い。
高速に乗って遠くから足繁く通うファンもいるほど。

 

「20代の方からご年配の方まで、色々な年齢層のお客様が来て下さいます。
僕らの娘も店内をうろうろしていますし、おもちゃも置いてありますから、お子様連れのお客様も気兼ねせず入っていただけているようです」

 

カフェこくう
ケーキ、酵素ジュースともに500円。飲み物とデザートの注文で100円引き。

 

アボカドと生パインのケーキは、加熱調理をしないローケーキだ。

 

見た目にはアボカドの緑が鮮やかだが、生き生きとした酸味と甘みでパインが主張している。まるでパインそのものを味わっているかのようなケーキだが、正直に言うとパインそのものよりもおいしい。

 

「卵や乳製品を使わず、アボカドとパインにココナッツオイル、アガベシロップ、レモン汁だけを加えて作ったアイスケーキです。土台はクッキーではなく生のナッツで作りました。
沖縄って1年中果物が穫れるフルーツ天国でしょう。時期によって色々な果物を使ってケーキを作ろうと思っています。
お子様にもおすすめですよ。うちの娘はこのケーキを作っていると食べたくて大泣きするほど(笑)」

 

アボカドで濃厚さが加わり、天然のシロップで自然な甘みが増す。
パインを超えるパインケーキだ。

 

カフェ こくう

 

カフェこくう

 

カフェこくう

 

こくうは、その立地も特筆すべき特長を備えている。

 

「店に到着して、『着いた!』と抱き合って喜ぶ方もいました」

 

と熊谷さんは言うが、その気持ちはとてもよくわかる。

 

一般道を進んでいると、ふと、ナビゲーションシステムに脇道に入るよう指示される。その脇道の入り口からこくうまで、約2kmの山道が続く。
本当にこの道でいいのだろうかという不安に何度か襲われながら、「サンシティ希望ヶ丘はこちら」というのぼりに励まされて車を走らせると、いきなり目の前に広がる不思議な光景に目を奪われる。

 

山道をのぼりきったそこには、広大な新興住宅地が広がる。
住宅の建築を待つ土地には、購入者の名前が書かれた札が並んでいるが、家はまだ数えるほどしか建てられておらず、眼下に広がる海は何の妨げも受けずにどこからでも見晴るかせる。
敷地内の道路を海の見える方向に向かって進むと、一番奥にこくうの姿が見える。

 

その特徴的な赤瓦を見つけたときの喜びはひとしお。
まるで、自分のためだけにある秘密の店を見つけたような気持ちになる。 

 

カフェ こくう

 

カフェ こくう

 

縁側からひやりとした風が入ってくる。
この季節、南部ではまだ体感できない温度の風だ。

 

「最近、南風から北風に変わったんですよ。もう秋なんですね。
ほら、とんぼが飛んでいるでしょう。
近所のおじいが『とんぼが低く飛んでいるから台風が来るよ』と教えてくれました」

 

大自然の中にすっぽりと包まれた場所にあるこくう。
壮大なヤンバルの森からは、「キーン、キーン….」という金属音にも似た、北部特有のオオシマゼミの鳴き声が響く。
蝉の声と客のおだやかな話し声だけをBGMに、東シナ海をぼんやりと眺める。
まるで固まったゼリーのように凪いだ海、山のように連なる島、島の上にぽっかりと浮かぶ雲…。

 

私が普段の生活で大事にしているものは、一体なんだったんだろう?
何をそんなに必死になってこだわっていたのだろう?
ふと、そんな考えが頭をよぎる。

 

確かにここは別世界のような場所だが、それは私たちをただうっとりさせるだけではない。
本当に大切なもの、価値のあるものとは何かを静かに教えてくれる場所でもる。

 

カフェこくう

 

こくうではライブイベントも行われている。
ここで演奏したいというアーティストの気持ちは、一度訪れればよく理解できる。
遠く離れた場所から、高速に乗ってでも通う常連客の気持ちも。

 

今帰仁の自然の恵みを、今度は家族とともに味わいに来よう。
大切なひとを、きっとあなたも連れてきたくなるはずだ。

 

写真・文 中井 雅代

 

カフェ こくう
カフェこくう
今帰仁村字諸志2031-138
(今帰仁サンシティ希望ヶ丘敷地内)
0980-56-1321
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