「スパイスは0.1グラムの単位で調整しているんです。私たちも作ってみてわかったんですけど、ほんの0.1グラムの差で印象がガラッと変わるんですよね」
1枚のその一口に絶妙なバランスを求め作られているクッキーがある。最近、美味しいもの好きの間でちらほらと話題にのぼる“Charka*チャルカ”のクッキーだ。明城啓行(ひろゆき)さんとパートナーの好美さんは、絶妙な加減を見つけるまで決して妥協はしない。好美さんは続けて、そのバランスを見つけた時の喜びを話してくれる。
「濃厚スパイスチャイクッキーの“鬼チャイ”は、シナモンやクローブなどの6種類のスパイスを入れているんですけど、もう何度も作り直しました。丁度いいところを見つけるのが大変で。けど何回もやってると、『ここだ』っていうのが意外と決まるんです。その時は嬉しいですね。2人で同時に『来たね、これだね』ってなるんですよ」
0.1グラムの調整をするのは、塩などの調味料もしかり。ただ試作を繰り返すのは、もちろん量の調整のためだけではない。クッキーの歯ごたえ、スパイスや調味料の口当たりなど、微に入り細に入りだ。啓行さんが、その苦労を打ち明ける。
「スパイスは、最初大きめで入れてたんですけど、試作してるうち『やっぱり細かい方が美味しいね』ってなって。カルダモンの皮はうまく粉砕できないので、ハサミでチョキチョキしてます(笑)。一番時間をとられてますかね。オールスパイスは、以前は手挽きでやってました。さすがに埒が明かないと今は、ミルを使っていますけど。ホールのスパイスを使った方が、パウダーを使うより、味に良さが出ることが多いんですよね」
口当たりを良くしようと、塩はすりこぎで擦って更に細かい粒にしたり、黒糖は1度ふるいにかけるようにしたり。1つのクッキーを生み出すのに、試作は40回を超えることもあるという。「今開発中のクッキー、もう40回以上試作してるのに、まだ思うような食感にならなくて。とりあえず置いといてます(笑)」と啓行さんは苦笑いを浮かべた。
手間ひまの甲斐あって、チャルカのクッキーは、バランスがとてもいい。例えば“鬼チャイ”は、6種ものスパイスの加減が絶妙だ。チャイ独特のオリエンタルな香りがふわりと鼻に届くが、嫌味はなくかすかに香る程度。噛むとその粒が歯にあたることもなく、強い刺激がやってくることもない。けれど、しっかりと味のポイントになっていて、有機紅茶に豆乳、有機ジンジャーと相まって、チャイであることをきっちりと主張する。また、塩モリンガクラッカーである“モリモリの木”は、塩とブラックペッパーのきかせ方が丁度よい。味の際立ちに乏しいモリンガを、塩とブラックペッパーで引き締めながら、アクセントも付ける。どれも、シンプルで素朴、飾らないけれど、後を引く美味しさだ。
これだけ手間をかける理由を好美さんは、自分たちにはこれくらいしかできないから、と謙遜する。
「私、これまでお菓子をあまり作ってこなかったんです。2人ともクッキーなんて、ゼロからのスタートで。巷ではこれだけおいしいお菓子が溢れていて、プロだって山ほどいるじゃないですか。だから自分たちのできることって、無いに等しいくらいなんです。それでも何ができるかといったら、目の前のことに全力を尽くすというか、丁寧に作ることくらいで」
2人は、丁寧に作ることをとても大事にしている。根底には、丁寧に暮らしたいという思いがある。好美さんがその思いを話してくれる。
「チャルカの原点って、暮らしを丁寧に紡いでいきたいということなんです。お金を稼ぐために外に勤めに行くのもいいんですけど、私たちは、仕事と暮らしの垣根を外したいというのがあって。好きなことをして暮らしていきたいし、その中で生み出されたもので生活していけたらいいなって」
2人で暮らしているからこそ、2人で一緒にできることをしていきたい。およそ1年前、啓行さんがモリンガを使った製品の営業の仕事を辞めるタイミングで、好美さんもカフェの勤務を辞め、以前から行きたかったインドへと旅立った。2人で何ができるかを見つける旅でもあった。
「一緒に行って、よかったと思いますね。これからの2人の暮らしを作っていくことが大事だって、再確認したというか、同じ方向を向けました。インドの人って、その場を真剣に、今を大事に生きているんです。貧しくても自分たちの暮らしをとにかく楽しんでいて。考えすぎないし、気にしないし、今思ったことを大事にしてる。みんな目がキラキラしてたんですよ。インドの人たちを見て、その時を大事に楽しく生きていけたらいいなと思いました」
インドでは、何をしていくかよりも先に、”チャルカ”という屋号を決めた。インドで見た国旗がきっかけと、啓行さんが教えてくれる。
「チャルカって、手回しの糸車なんです。インドでたまたま見た国旗が、真中に丸い法輪じゃなくて、チャルカの絵が描いてあるのがあって。それを見た時に、『何だ、これ?』って。国旗のパロディでも作ったのかなと思ったんですけど、よくよく調べてみたら、歴史的に意味があって。インドが独立する際、どんな国旗がいいかってなった時に、ガンジーの案がチャルカの描かれた国旗だったんです。当時、インドはイギリスに支配されていて、産業革命で便利なものがいっぱい入ってきて。洋服やら食べ物やらも入ってきて、買えるもんだから、インドの人は自分たちで塩も洋服も作れなくなっていったんです。お金を出して買うのは便利だけど、そうではなくて自分達で作ろうってなって。それで独立運動の象徴が、塩作りともう1つがチャルカなんです。その話を知った時に、なんですかね、今の日本と重なって見えたんですよね。日本も利便性を追求して、お金を出せば何でも買える時代になった。けどお金を出せば出すほど、自分たちでできることがどんどん減っている気がして。日本で今必要なのは、まさに手作りをすることなんじゃないかと思ったんです」
インドで強く感じたのは、手を使って作ることの大切さ。啓行さんは、言葉を続ける。
「たかがクッキーかもしれませんが、手作りであることを大事にしたくて。クッキー以外にも手作りのものを散りばめました。例えばお店のマークは、インドの職人さんに木彫りで手作りしてもらいましたし、消しゴムはんこは、本部町営市場の雑貨屋さん“島しまかいしゃ”さんに作ってもらいました。それに、パッケージに貼ったクッキーの名前は、あえて印刷せずに手書きで1つ1つ僕たちで書いているんです」
2人とも食に興味があったこと、啓行さんがインドのスパイスが大好きだったことから、スパイスを使って作れるものを、と考えを絞っていった。
「でもそれがどうしてクッキーになったのかは、思い出せない(笑)」と、好美さん。帰国して2人でクッキーの開発にあたったが、その際に影響を受けた人がいる。自然療法家の東城百合子さんだ。
「東城百合子さんは、かつて沖縄に来て、健康運動として黒パンを広めた人なんですよね。彼女の本を読んで、もう2人で感動しちゃって。色々な自然療法を広めてるんですけど、一番根底にあるのは、心のあり方なんです。心を込める、真心を込めるっていうことを、すごく伝えている人で、料理も手間ひまをかけることが大事って。自分たちが思ってきたことと重なって、とても共感しました。“煎りいり日和”は、東城百合子さんの黒パンがヒントになってできたんです」
“煎りいり日和”とは、煎り玄米と煎り全粒粉の黒クッキー。玄米は硬すぎずカリカリとした食感で、噛めば噛むほど甘みと香ばしさが滲み出て、味わい深い。地味ながらも、一番落ち着く味かもしれない。
「“煎りいり日和”は、子どもやお年寄りに食べてもらうのをすごく意識して作りました。スパイスの入った“鬼チャイ”や、有機コーヒー豆を使った“極モカ”は、大人向けですけど。最初はもっと硬い食感だったんです。でもおばあちゃんとか食べづらいかなと、ちょっと改良したりもしましたね」
色んな年代へ向け、心を込めて手作りをするチャルカのクッキー。好美さんは「試作を繰り返しても、ほんとに出来なさすぎて、自分にがっかりすることもある」と言うが、決してやめようとは思わないそう。
「イベントで販売するのって、お客様の声が聞けるじゃないですか。喜んでいる顔を見られるし、自分たちの思いも伝わる。お店を持ってなくても、色んな場所でお客さんに会えるんですよね。繋がった方がまた誰かを繋げてくれて、さらに広がっていくっていうのが楽しいんです。励みにもなりますね。うちで扱わせてもらってる材料の生産者さんのことも知ってもらうきっかけにもなったらいいですね。うちだけでなく、みんなで盛り上がっていけたらいいなと思います」
好美さんは、満面の笑顔を見せた。屋号であるインドの糸車、チャルカは、コットンボールから細く長い糸を、ゆっくりと手回しして紡いでいくもの。好美さんと啓行さんは、チャルカという名のクッキーを丁寧に手作りすることで、自分たちの思いを細く長く紡いでいく。紡いだ糸は、多くの人の笑顔を繋げていくに違いない。
写真・文 和氣えり(編集部)
Charka*チャルカ
080-2047-5982
https://www.facebook.com/charkalove/
(イベント出店情報 随時更新)
【チャルカのクッキーを買えるお店】
cotan
https://www.cotan-candle.com/
mano
http://mano.moon.bindcloud.jp/index.html
ハッピーモア市場(出張販売)
http://happymore.jp/