うつわに鼻を近づけると、ふわり香るのはかつおだし。一口含むと、その軽やかな風味が一気に広がる。しかし、後味として残るのは味わい深い豚骨スープ。あっさりしていながらコクがあるとは、まさにこのスープのこと。
麺はちぢれの少ない細麺。つるりとした上品な光沢を放ち、スープの旨味をあますところなく絡めとる。
「ソーキやてびちは骨が抜けるほど柔らかくなるまでじっくり煮込みます。特にてびちは、『てびちといえば玉家』と言ってくださるお客様もいるほど、ツウな方にも納得いただけるお味です」
店主の真由美さんは当初、そば屋を経営するつもりはなかった。
「たまたま、大里にある玉家本店のオーナー・玉城さんと主人が学生時代からの友人で。玉家のおそばがおいしくて大好きなのでよく行ってたんです。自宅を建てたときに一回に店舗スペースを設けたので、募集をかけてテナントを入れる予定だったのですが、友人が『玉家さんっておいしいよね、あなたが自分で玉家さんをやったら?』って」
そこでご主人が玉城さんに相談すると、二つ返事で承諾されたという。
「今の玉家の味を出すまでには、スープにしてもなんにしても大将が試行錯誤を重ねて苦労して生み出したもの。なのに、こんなに快くのれんわけをオッケーしていただけるとは驚きました」
飲食店の経営経験がない真由美さんたちのために、設計段階から玉城さんがサポートした。
「ガスが何台必要で厨房の広さはどれくらいで内装はこんな感じで…と、すべて大将に手伝っていただきました。オープン前には私が大里の本店に修業に伺い、肉の味付けなどをしっかり教えていただいて」
オープン後の一週間は玉城さんが来て味付けをチェックしていたが、今はその必要がなくなり、すべてを真由美さんたちにまかせている。
「玉家の名前をもらっている以上、名を汚してはいけないという気持ちは強いです。当店の味が落ちたら玉家全体に迷惑がかかりますから」
「玉家のそばの特長はやはりスープです。豚骨だしとかつおだしをブレンドしているので、さっぱりしているけれどコクもあって、細麺とすごく相性が良い。麺は亀浜製麺所にお願いし、玉家オリジナルを作っていただいています」
注文を受けてそばを運ぶまでの手際のよさに、思わず目を見張る。3名のスタッフが一連の作業を流れるようにスムーズにこなす。あっという間にすべてが配されたお盆は、間を置かず、すぐにテーブルへと運ばれる。
「お出しするタイミングにはすごく気を遣います。沖縄そばは麺がのびやすいので、注文されたらうつわに麺を入れ、スープをはったらすぐに出す。でも、注文の後にお客様が席を立たれたりお電話に出られていたりしたらスープははりません。実際に口にするときに麺がのびてしまわないように」
目配り、心配りも本店仕込みだ。
「自分でそば屋をやることになるとは」と、真由美さんは笑う。人生、何が起こるかわからない。流れに逆らわずに身を任せていたら、思わぬところへたどりついた。しかし、一旦やり始めたら手は抜かない。誠意を持ち、丁寧に仕事をする。
「お客様が帰り際に『おいしかったよ』って声をかけてくれるとほっとします。それを励みにやっています」
数えきれないほどのそば屋がある中、多くの観光客が玉家 豊見城店をたずねる。
「でも、お客様は沖縄の方が多いですね」
沖縄そばに関しては特に味にうるさいうちなんちゅは、どんなビッグネームだろうが美味しくなければ通わない。看板や歴史、店構えに左右されず、純粋に味だけをみる。
近くで工事を行っている作業員、フーチバーを山盛りのせてから食す中年男性。一見してうちなんちゅとわかる彼らの姿が、この店の味を保証している。
そば処 玉家
豊見城市豊崎1-1069
098-850-0616
open 11:00〜18:00
close 火(祝祭日は営業)