熱々のパンケーキの上には、ひんやり冷たいクリームチーズと爽やかなパッションフルーツのソース、そして、シロップ漬けしたフレッシュパイナップルをたっぷりと。
「パッションパイン “ オノ” パンケーキ」は、クリームチーズのコクと、南国フルーツのすっきりとした甘さがパンケーキの味わいを引き立てる贅沢な一皿だ。
トッピングがこれだけ特徴的なのに、一番印象に残るのはパンケーキそのもののおいしさ。
ふんわりと柔らかい。
でも、ほどよい弾力性があり、食感はもっちりとしている。
生地の味付けは控えめで、素朴な甘さがたまらない。
一口食べて、反省した。
ごめんなさい。私、これまでパンケーキのことを軽く見ていました。
「家でも食べられるお手軽おやつ」「初心者でも作れる簡単メニュー」だと思っていたけれど、ララミーのものはそうじゃない。
パンケーキの格を上げるパンケーキ。
とは言え気取ったところはない。逆に、家庭の温かさすら感じる。
ツンとすました店の味ではなく、お母さんが作るまあるい味。
その美味しさの秘密を丁寧に探求したいなら、シンプルな「オリジナルパンケーキ」をオーダーするといい。
シロップを吸い込んだやわらかな生地の味わいは、素朴でありながら上品だ。
隙のないおいしさを実現するため、ララミーではシロップも手作りしている。
「市販のシロップは味が濃くて、どんなパンケーキも同じ味になっちゃう。
甘みを抑え、生地をしっかり味わっていただけるシロップを手作りしています」
と、店主の安里あすかさん。
ふんわりとした生地に思い切ってナイフを入れ、少し大きめに切り分ける。
ちょびちょびではなく、大口開けて頬張りたい。
そうすれば口の中も心も、一瞬で幸せに満ちるから。
安里さんのこだわりは、コーヒーにも表れている。
厳しく品質管理され、豆の特性に合わせて丁寧に焙煎された「スペシャルティコーヒー」を使用し、紙ではなく布製のフィルターで抽出する「ネルドリップ」方式を採用しているのだ。
「紙製のフィルターで淹れると、コーヒー豆に含まれる油分を紙が吸収するため、すっきりとした味わいに抽出されます。
一方、布製のフィルターは紙よりも目が粗く、油分を通すため、とろみのあるこっくりとしたコーヒーになるんです。
布製フィルターは使い捨てできませんし、色々と手間もかかりますが、深煎り豆の魅力を最大限に引き出す抽出方法だと思っています」
コーヒーを口に含んですぐに感じるキリッとした苦味は、ゆっくりとまろやかになっていく。苦味の奥に感じるのは、カカオのようなほのかな甘み。
深煎り豆なのに口当たりはまるく、トゲがない。
沖縄では特に需要の高いアイスコーヒーは、多めに淹れて置いておくのが一般的だ。
しかし安里さんは必ず、オーダーが入ってから一杯ずつ淹れ、急冷している。
「淹れたての香りの豊かさは、時間が経つとどうしても失われてしまいます。
グラスに口を近づけたときの香りと、飲んだあとのしっかりとしたコクを味わっていただきたいので、作り置きはしないんです」
「パンケーキスペシャルランチ」。バターを使わず全粒粉と豆乳で作った甘さ控えめのパンケーキに、あぐーソーセージ、ベイクドポテト、季節の一品、サラダ、スープが付いて1,100円。
2013年6月、ララミーは安里さんの手によってリニューアルオープンを果たした。
店そのものの歴史は、すでに50年を超えている。
「夫の両親が始めた店で、最初はビアホールとして運営していたそうです。
その後、レストランやスナックなど業態を変えたり、営業場所を変えたりしつつ店を続けていました」
高齢の両親は店をたたむ方向で準備を進めていたが、現在の場所でリニューアルオープンさせることを安里さんの夫が提案した。
「私は夫と一緒に東京に住んでいましたが、コーヒー屋を営むのは長年の夢だったし、両親の店を継ぎたいという思いもありました。
そこで、思い切って沖縄に移住することにしたんです」
ざくざくとした歯ざわりが特徴的なスコーンは、安里さん一推しの一品。「コーヒーに合うように改良を重ねました。日替わりでさまざまなお味をご用意しています」
安里さんは高校時代、喫茶店で初めてアルバイトを経験し、その楽しさに夢中になったと言う。
「それからは、『夢はマスター!』って言い続けてましたね(笑)」
専門学校を卒業後、東京の様々なカフェで経験を積む中で、安里さんはあるコーヒー専門店の豆と出会った。
「堀口珈琲という店の豆を使っていたのですが、それがとてもおいしいんです。
社長の堀口俊英さんは、日本におけるスペシャルティコーヒーのパイオニアと言われている人なので、この店で学ぶことができたら…と思っていました。
するとタイミングよくスタッフの募集が出て、運良く採用されたんです」
入社後間もなく、安里さんは先輩たちに「今までやってきたようにコーヒーを淹れてみて」と言われたと言う。
「コーヒーのスペシャリストである先輩たちの前で淹れるのはとても緊張したのを覚えています。
一生懸命淹れましたが先輩方の反応は芳しくなく、『…うーん』という感じ。『味が出てなくて薄いね』と。
せっかく良い豆を使っていても、淹れ方が上手にできていなければ美味しいコーヒーはできないということを知りました」
それから安里さんのコーヒー修業が始まった。
堀口珈琲にやってくる人は、休日には150人以上にのぼる。安里さんは正しい淹れ方を習い、ひたすらコーヒーを淹れる日々が続いた。
「お客様にお出しする前にかならず試飲するのですが、おいしく入っているとやはり私も嬉しくて。勉強になることばかりで、すごく充実していました」
安里さんが堀口珈琲で習得した知識と技術は、ララミーでもいかんなく発揮されている。
それは、安里さんが淹れたコーヒーを飲んだ人なら、誰しもわかるはずだ。
「だー、アイスコーヒーもらおうかねー」 先代である夫の父親が来店。「若い人に任せて正解だったよ。私たちでは思いつかないことをどんどんやってくれるからね」と先代。「でもね、お父さんファンのお客さんも多いんだよ。みんな会いたがってるから遊びに来て!」と安里さん。
店内は、レトロな雰囲気とこだわりカフェの風情が絶妙にミックスされている。
古くて新しい、懐かしいけどワクワクする、独特なムード。
「改装前の店内に昔ながらのジュークボックスが置いてあり、どうしたらいいか迷ったんです。本来イメージしていた『日本の純喫茶』という雰囲気と合わない気がして。
そこで、まずは店のコンセプトを定めようと思い、『ハワイにある日系人が経営しているコーヒーショップ』というイメージに決めました(笑)」
なるほど、そう言われてみれば確かにしっくりくる。
店内にはウクレレが置かれ、壁にはハワイの王の絵が飾られ、スピーカーからは穏やかなハワイアンミュージックが流れている。
そんな店内でパンケーキを頬張り、スペシャルティコーヒーに舌鼓を打つ。
ここには、特別な時間が流れている。
店内のムードと、想像を超えておいしいメニューの数々が、私達にそう思わせる。
写真・文 中井 雅代
COFFEE SHOP LARAMIE
那覇市寄宮153-3 安里ビル1階
070-5813-5634
open 12:00〜20:00(木:18時まで 金:22時まで)
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