「この店の香りを持ち帰るには、どうしたらいいのかね?」
来店した初老の男性が店主に話しかけていた。
「あまりにも良い香りだから、家でもかぎたいと思うさ」
パンやスコーンは出したそばからどんどん売れていくため、
店の奥ではいつも何かしらが焼かれ、
香ばしいにおいが立ちこめている。
オープン当時から、販売するパンは食パンのみ。
手でちぎろうとすると、想像以上に強い弾力性に驚く。
そして食感はふんわり、歯応えはもっちり。
ソフトで滑らかな手触りに魅了され、
思わず顔に近づけ、その香りをかぐ。
海。
大地。
草原。
風景がたちのぼってくるような不思議な香り。
北海道産の高級小麦「はるゆたかブレンド」を使用しているが、
硬水である一般的な沖縄の水はそれに合わないため、
試行錯誤の上、大宜味村喜如嘉の地下天然水「七滝の水」にたどりついた。
「日本では珍しい中硬水で、粉の甘みが引き立つんです」
また、久米島産天然塩「白銀の塩」を使用しているのは、
「沖縄に沢山の塩がありますが、
海水を採取する場所や作り方によって味が変わります。
白銀の塩はミネラルも多く含まれ、
塩の甘さの中に辛さもしっかり感じます。
とてもバランスのとれた塩です。
粉自体が甘さを感じる特質をもっているので、
味を引き締めるために少し辛めの塩を使っています」
小麦、塩、水、天然酵母という4つの素材だけで作られた食パンは、
シンプルでありながら滋味深い味わい。
乳製品、油類、糖類、卵、添加物は一切使用していないというのに、このリッチ感。
シフォンケーキは、繊細なことこの上ない。
吹けば飛んでいく泡のように軽く、きめ細やかな生地。
北海道産薄力粉「ドルチェ」、三重県産「あいのう卵」
種子島産「洗双糖」、熊本産「無農薬菜種油」
という選りすぐりの4つの素材が、繊細さの立役者だ。
店主の西村さんは琉球大学農学部を卒業後、
環境アセスメント関係の仕事についていた。
「騒音を測定したり、ヤンバルクイナやノグチゲラの調査をしたりしていました」
しかし、ものづくりに携わりたいという気持ちは昔からあった。
結婚を機に、その想いと再び向かい合うことになった。
「結婚したときの二人の夢が
『自分たちの手でものを作り、店をやること』。
最初はお互い漠然とその夢を抱いていましたが、
実際に口に出して、夢が共通していることがわかってからの行動は早かったですね(笑)
できることをお互いやっていこうと決め、
僕はパン、妻は料理を勉強することにしました」
包丁すら使えなかったという西村さんは、
サラリーマンとして生活しながら、
辻調理師専門学校の通信教育を受けたり、パン教室に通ったりした。
やがて二人で上京し、剛さんはパン屋で、
奥様は横浜・鎌倉で料理と製菓の修業を始めることにしたが、
「当時僕はすでに30歳。
そんな年齢で受けいれてくれる店自体あまりないんですよ、
使い物にならないからって。
みんな大体17歳くらいから入ってきますから」
知り合いのパティシエに紹介してもらい、横浜の店で働き始めた。
「その時の同期は18歳(笑)。
年功序列ではなく、店に入った順の世界ですから、
10代や20代の先輩にももちろん敬語で話していました」
6年間の修業を経て、5年前に沖縄で店をオープンさせた。
他の仕事も経験してから門を叩いたパン作りの世界だが
すぐに違和感なく溶け込み、直感が「これだ」と告げ、
迷いは一切なかったという。
「考えてみれば、僕が小学生のころの夢の第三希望がパン屋さんだったんです(笑)」
そんな西村さんに寄り添う妻の美奈子さんは、
「このひとについていけば大丈夫っていう信頼感があるから、
不安もないし、後悔もありません」
美奈子さんが担当しているのはお菓子。
中でもスコーンに力を入れている。
「実は、スコーンってずっと苦手なお菓子だったんです。
自分が好きなスコーンに出逢えてなかったんですね。
だからなかなか手が伸びない。
そうなると逆にどうしても食べたくなって(笑)」
美奈子さんのスコーンは、パサパサ感とはほど遠いしっとり食感。
外側はカリッと香ばしく、
なかはぽろりとほどよくまとまった歯触り。
小麦や卵など厳選された素材たちを、
北海道産の「よつ葉バター」がまとめあげている。
いちじく、オレンジ、レモンといった季節を感じさせる素材も取り入れ、
一般的なスコーンの倍はあろうかというボリュームながら、
次々現れるフレッシュな素材の味わいに、
最後まで飽きることなくぺろりと平らげてしまう。
その味わいは「リッチ」の一言に尽きる。
美奈子さんは、毎回とても緊張しながらスコーンを作ると言う。
「買う人のことや喜ぶ笑顔を想像しながら作っているからです。
私たちが確認できるのはお買い上げいただくところまで。
家に帰って実際に召し上がる様子まではなかなか拝見できませんから、
ちゃんと笑顔で食べていただけるように焼けるだろうかと考えると、
やっぱりどうしても緊張します」
西村さんが食の安全性を重視する背景には、
大学時代や前職で培った知識と経験がある。
「農学部卒業なので、農薬の安全性と危険性、からだへの影響など、
色々勉強しました。
大切なお客様に食べて頂くものだから、
自分たちが作るものは無添加で安全なものをと思っています」
修業時代、食パン以外のパンを作って販売していた頃もあった。
「でも、毎日食べていたら飽きてくるというか、
色々な食材と合わせようとしても合わないことがあったりして。
特別ではない、毎日の食卓に合うパンは何だろうと考えたら、
それはやはり食パンかなって」
シンプルな素材で作るシンプルな食パンは、
ippe coppe の看板メニューとなり、
店のドアはひっきりなしに開閉され、
次々と売れていくほどの人気だが、
「今の ippe coppe はまだ途中経過に過ぎません。
何年後かにはまた違うかたちのお店になっているかも。
人との繋がりからさまざまなことが始まっているので、
沖縄産の無農薬のベイビーリーフやいちごといった他の素材とコラボして、
サンドイッチやスコーン作ったりしているんです。
これからもこうした繋がりを大事にしていきたいですね。
北窯の作家さんのうつわにコーヒーをいれたり、食べ物を盛ったりというコラボも考えているんですよ」
「ippe coppe」の語源は、
西村さんの故郷である鹿児島の方言「いっぺこっぺ」で、
「あっちこっち」または「一生懸命」という意味。
西村さん夫婦の、誠実でまさに「一生懸命」な姿勢に惹かれた多くのひとびとが、
「ippe coppe」の変化に寄り添っている。
店の香りを持ち帰りたいと願うチャーミングな常連さんも、その一人なのだ。
写真・文 中井 雅代
ippe coppe(イッペコッペ)
浦添市港川2-16-1
098-877-6189
通販:http://www.ippe-coppe.com/通信販売
HP:http://www.ippe-coppe.com
ブログ:http://ippecoppe.ti-da.net
面包虽然只有一种,可是十分注重材料,味道非常好。
司康饼,雪纺蛋糕也很受欢迎。
The feature of this bakery is the special bread which contains well selected ingredients, such as high-grade flour, wild yeast, sea salt and natural water.