スパイスカレーコフタ/強すぎないスパイス使いが、地元のオバアにも好評。混ぜて優しい南インドカレーは「母ちゃんの味」

カレーコフタ スペシャルカレー

 

一口カレーをすすると、染み出た素材の味に目を見張る。メカジキのカレーには魚の凝縮した旨味が、ごぼうのカレーには力強い大地の香りが満ちている。カレーやおかず、そのどれにも、スパイスの華やかな香りや清々しい味わいがある。けれどそれらは主張しすぎず、素材の味を引き立てる。この店のスパイスは、出しゃばらず素材を支えてまとめあげる。

 

さっぱりとしていながら滋味深い味わいの南インドカレーの店、コフタ。その店主 佐野大さんは、味のこだわりをインドカレーとは結びつきにくい言葉で伝えてくれた。

 

「母ちゃんの味じゃないですけど、それくらい優しく作っていきたいと思っています」

 

スパイスや油の量は控えめに。そのせいか、人生初のインドカレーをここで食したオバアは、「想像していたより辛くないし、こんなに美味しいならもっと早く来たらよかった」と言ってくれたそう。他にも、「満腹だけど、罪悪感がない」などの声が集まる。

 

コフタ

この日のスペシャルプレート。左から、モーウイといんげんのサンバル小松菜のトッピング、メカジキのトマトフィッシュカレー、やんばる若鶏のココナッツカレー、アーサ入りダル(マイルドな豆のスープ)。

 

コフタ

左から、ナスのスパイスオイル漬け、新ジャが入りヨーグルトサラダ、ズッキーニとピーマンのスパイス炒め、エッグマサラ、豆のコロッケココナッツソース。他には、ラッサム(トマトベースのスパイシーな豆のスープ)、ミントとパクチーのペースト、ビーツとココナッツのペースト。

 

沖縄ではまだ珍しい南インドカレー。初めて口にするお客も多いことから佐野さんは必ず、おすすめの食べ方を口添える。

 

「ターメリックライスの上でいろいろ混ぜながら食べてくださいね。もちろん全部混ぜても大丈夫ですよ。それぞれが喧嘩しないので」

 

その言葉通り、カレーやスープ、スパイス炒め、ヨーグルトサラダ、ハーブや野菜のペースト、パパドという豆せんべいなど、各々辛味や酸味、甘味、旨味、塩味と様々な味わいなのに、いくつ混ぜても調和して、一体となって丸くなる。混ぜても味が濃くならないかわりに、深みが出るのが不思議なところ。それに自分好みの味を作っていけるのが楽しい。ヨーグルトサラダを混ぜてマイルドにしてみたり、テーブルに置かれている自家製ピクルスを加えてもっと辛味をきかせたり。様々に試しているうち、あっという間に皿が空に。

 

その混ざった際の立体的な味わいを出すため、佐野さんには工夫していることがある。

 

「カレーやその他のおかず全てにスパイスを使っていますが、2つとして同じ味にならないよう、その組み合わせは被らないようにしています。もちろん同じスパイスも使いますけど、これにはこのスパイスを際立たせようとか、テーマを決めて作っていますね。カジキのカレーだったら、フェンネルとフェネグリークをきかせようとか、今日のサンバルはクミンをきかせてみようとか。マスタードシードも、最初に投入するのか最後に加えるのかなど調理法を変えたりもします。食材も絶対被らないようにしていますね」

 

様々に混ぜてほしいとの思いから、1日限定5食のスペシャルプレートには12種ものおかずが。南インドの幾種もの料理を1度に味わえるのはもちろん、旬の食材を豊富に食べられるのも魅力のひとつ。

 

「スペシャルプレートに使われる食材は全部で15から20種類くらいでしょうか。野菜だけでも10種類は使っていますね。島らっきょうや春菊、モーウイやアーサなど、普通インド料理に入っていないものも使います。ここ読谷の旬のものを使いたいんです。修業していた宮古島で、地元でとれた人参とスーパーに置いてある人参の、味の違いに驚いた経験があるんで」

 

 

佐野さんがこの店をオープンさせたのは、混ぜるカレーの美味しさを伝えたかったから。

 

「創作カレーが合掛けになっているような、今流行りのスパイスカレーの店にしようか悩みました。でもやっぱりいろんな食材といろんなスパイスの味が混ざったカレーを知ってもらいたいなと思って。僕自身、混ぜるカレーを初めて食べた時、衝撃だったんです」

 

山梨県出身の佐野さんが混ぜるカレーを口にしたのは、カレー好きの友人に連れられて訪れた宮古島。惜しまれつつ閉店したインドカレーの大人気店、茶音間(チャノマ)でだった。

 

「『混ぜたら、なんでこんなに美味しくなるの?!』って。1種類だけより、混ぜたほうが相乗効果みたいに美味しくって。ヨーグルトってデザートの感覚なのに、カレーと混ぜてもこんなに美味しいんだって。カレーとヨーグルトが合うってことも知らなかったんで、それも驚きでした。それまでも茶音間を教えてくれた友人と一緒に本見ながらスパイスカレーを作ったりしていたんです。けどなかなか上手く作れなくて、茶音間で食べた時に『ここまでコクを出せるんだ』ってびっくりして。野菜の味の引き出し方というか、美味しさの種類が全然違いました」

 

山梨に帰った後も、茶音間のカレーがずっと心にひっかかっていたという。

 

「茶音間で食べた時、これを山梨に持ち帰りたいと思ったんです。それまでは、あんまり食に興味なかったです。好き嫌いが沢山あって、食べられないものばっかだったし。山梨には友達がいっぱいいるし、今でも地元は大好きです。でもこのまま地元、しかも実家にいたら、ふと気づいた時に、自分には何も残っていないんじゃないかって。自立したいし、手に職をつけたいというのもあって、山梨を離れた方がいいと思ったんですよね。で決心してオーナーに電話しました。『修業させてほしいです、宮古島に行きたいです』って」

 

季節のフルーツ(苺)のラッシー

 

自家製スパイスコーラ

 

濃厚チャイ

 

当時23歳だった佐野さん。茶音間では当初、何もできなかったという。

 

「ご飯は炊けないし、接客の仕方も全然わからなくて。オーナーに常にダメ出しされながら、サービス業の基本を教えてもらいました。最初の頃はずっと顔がこわばってましたね。2、3年目くらいですかね、のびのびやり出せたのは」

 

3年目になると、冬場は1人で店を任され、4年目にもなると、夏の繁忙期もリーダーとして厨房を取り仕切るまでに。丸5年宮古島で過ごし、茶音間が閉店するタイミングで山梨へ戻った。けれどいざ山梨で開店準備に取り掛かろうとするも、うまくいかなかったそう。

 

「知り合いが多い分、いろんな人のいろんな意見に惑わされちゃって。物件一つとっても、誰かに『ここはないでしょう』とか言われると、決めきれなかったんです。人の目、周りの目をすごく気にしちゃってましたね。自信がなかったのもあるんでしょうけど。僕、宮古島へ行く前は、みんなの中心にいたいって思ってたんですよ。宮古島からこんなカレーを持って帰ってお店をやったら、友人たちが集まってくれて、また自分が中心になれるって(笑)。甘かったです」

 

 

結局山梨ではなく、知っている人のいない沖縄本島で店を出すことに。宮古島と雰囲気の似た、のんびりとして自然豊かな読谷村を選んだ。

 

「来てみたらすごいいいところ。近くの農家さんが玄関先に黙って野菜を置いていってくれたり、別のときには食べにきてくれたり」

 

2018年5月にオープンしたコフタだが、最近になってその料理に佐野さんらしい色がついてきた。

 

「オープン当初は『これが自分の強みです』っていうのが良くわからなかったんです。でも今は、地元の農家さんの野菜を使って、近所のオジイオバアも食べられるような優しい味、毎日食べても飽きないような母ちゃんの味っていうのが、自分の持ち味だと思うようになりました」

 

新たなメニューを試作する際にはいつも、近所のオジイオバアを思い浮かべ、「普通に美味しく食べてもらえるかな」と考えるという。佐野さんにはもう、自分が中心にいたいという気持ちはない。佐野さんにとって“地元”になりつつある読谷の、この地の人に喜んでもらえることを一番に考えている。

 

写真・文/和氣えり(編集部)

 

 

スパイスカレーコフタ
読谷村大木375番地A-23
080-9990-4479
open 8:00~16:00
close 水
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