「おばあちゃんのサーターてんぷらはみんな大好き。
親戚や友達がみんな送って〜って言うもんだから、
北海道や、アメリカにも。」
と、娘さん。
「そうよ、どこまででも行くよ、これ。」
と、誇らしげな清子さん。
宜野湾で沖縄料理の食堂「ちゃんぷる亭」を営む清子さんの
サーターてんぷら(=サーターアンダーギー)の美味しさは評判で、
小学校の父兄から作り方を教えて欲しいと頼まれ、
学校で教えた事も何度もあるという。
「おばあちゃんのが一番美味しい、
私の息子も大好き。」
と、ちゃんぷる亭を手伝うお孫さん。
「あんたも今日、覚えてから帰りなさい。
まず、卵ね。
メリケン粉1kgに対して卵は10個。
数が決まっているわけさ。
そしてバニラエッセンスを入れる。
隠し味よ~。
メリケン粉は、ふるいにかけながら入れると良いよ。」
「混ぜるのは泡立て器を使って、ちゃんと手で混ぜるんだよ。
ほら、今は混ぜる機械があるさ?
なんていったかね。
ミキサー?そうそう。
あれを使って混ぜたらダメよ。
この混ぜ方が、美味しく作るための一番大事なコツかもしれないね。
ミキサーで混ぜたら、フーなる。
固くなるわけ。もう切れないくらいによ。
して、砂糖を入れる、580g ね。
この間、誰かが580gは多いと言って少なくしてから作っていたけど、
美味しくなかったよ。
580gといっても決して多くはないから、
ちゃんと分量を守っていれた方がいいよ。
メリケン粉も、安いの使って作ったら味が全然違う、おいしくない。
だから、安売りしてるときに上等を沢山買っておくわけ。」
「塩は本当に少々。小さじ4分の1くらいね、隠し味だから。
そして、ホットケーキミックスを大さじ3杯。
ベーキングパウダーを小さじ1杯。
そこに、溶かしたバターも。
一本の半分だから100gくらいかね。
バターは入れない人が多いかもしれないけど、
バター入れたら、てんぷらが油飲まないわけ。
油には油を、ということ。
よく油っぽいさーたーてんぷらがあるでしょう?
生地にまで油入れたら、余計油っぽくなるんじゃない?と思うけど、
ならないね。
そして、バターが入る分、メリケン粉も大さじ3杯余計に入れるのを
忘れないようにね。」
木べらで生地を混ぜる。
「この時、切るようにさっくり混ぜるんだよ。
じゃないと、ぎゅっと詰まった固いさーたーてんぷらになるからね。」
油を熱する。
火はごく弱火。
ミシゲー(しゃもじ)を使って一個分を手に取り、
くるくるっと丸めて手早く油の中に入れる。
作り慣れているのがわかる、滑らかな一連の動作。
「この業務用のコンロは難しいわけ、火が強いから。
家庭用のコンロが良いよ。
弱火でじっくり揚げるんだよ。」
「さーたーてんぷらは、わじわじーしてたら作れないよ。
なんでかって?
時間かかるからさ。
弱火でゆっくり揚げないといけないのに、
なかなか揚がらんからとわじわじーして火を強くしたらすぐ焦がしてしまうよ。」
「あい、一個焦がしているさ。
家のコンロだったら焦がさないけどね。
できるだけ触らないように、放っておくのも大事よ。
あんまり触ると、てんぷらの花が咲かない。
ぱかっと割れない、ただの丸いてんぷらになってしまう。」
「ほら、割れてきたでしょ。
ミキサーで混ぜたらこんなふうに割れないからね。」
香ばしい、甘い香りが漂い始める。
「良い匂いでしょ。
これ、バニラエッセンスの匂いだはずよ。」
次第にきつね色に。
「割れたところにもこんがり色がついたら、出来上がり。」
「孫がハンドボールしてたから、大会の時とか、
エイサーの練習とかにもよく作って持って行きよったよ。
そういう時は食べやすいように最初は小さく作るんだけど、
途中から難儀なって、マギー(=大きく)なってくるわけさ(笑)
今日の材料の分量だと、
普通の大きさで大体43個作れるよ。」
「はい、出来上がり。あちこーこー食べなさい。」
適度に空気を含んだ生地で、ふんわり膨らんだサーターアンダーギー。
手で割ると、バニラエッセンスとバターの香りが鼻腔をくすぐる。
「いただきま〜す!」
一口食べると、そのやわらかさにまず驚く。
こんなにしっとりふかふかなサーターアンダーギーは初めて!
そして、
味わいのなんと上品なこと!
サーターアンダーギーと言えば、沖縄家庭のおやつの代表格だけれど、
ここまで品のある味に仕上がるなんて。
小麦粉、砂糖、卵にバターと、
珍しい材料は一切使っていないのに、
不思議、なんで?
「さ〜、なんでかね?
学校なんかで教えても、
みんなうちに帰ってから作ってみたら
こんなに美味しくは作れなかったと言うわけさ。
火加減と混ぜ方さえ気をつけていれば
大丈夫だと思うけどね。
もう、おばあは味見もしないよ。
だって、美味しいとわかっているんだのに。」
「ちゃんぷる亭」の常連さんたちは、
清子さんのサーターアンダーギーの美味しさを知っている。
最近店を移転したのだが、移転記念にと作って配ったからだ。
「よく、
『さーたーてんぷらもメニューにのせて!』
と言われるけど、出していない。
注文が来た時だけ作る。
週2回くらいは注文が来るからね、
それだけ作っているさ。」
大人気の清子さんのサーターアンダーギーのレシピは、
家族がしっかり受け継いでくれそうだ。
「子どもや孫たちがいるからね、今、わが家では助手がいっぱいよ。
みんな作り方も覚えている。
幼稚園生のひ孫も、私が何か忘れてたら
『おばあちゃん、塩いれた~?』
と、教えてくれるよ。」
揚げ物お菓子ということで、
手づくりハードルの高そうなサーターアンダーギーも、
清子さんの手にかかると、いとも簡単に作れるように見える。
「子どもには、自分で作って食べさせるのが一番良いよ。
みんな嬉しいでしょう、お母さんが作ってくれたら。」
はい。
わじわじーせず、
よーんなよーんな揚げてみます。
写真・文 中井 雅代