「古民家リノベーションします」こころが知っている

写真・文/D’spec沢岻 久子

 

ディ・スペック

 

さてさて、以前にこの連載でご紹介したリノベーション中の東村の古民家のこと。みなさま覚えていますでしょうか。

 

春が終わり、夏がやってくる前の、この曖昧なうちに。それこそ梅雨に突入してからではややこしい事になってしまうので、時間をみつけて東村高江の古民家へ向かいました。

 

前回の訪問からかれこれ4ヶ月。そろそろ進化が見られる頃と思い、カメラとウキウキを持って目的地を目指します。
前にもお伝えしたように、この古民家は車道からは全く見えない森の中にポツンと佇んでいます。県道から入った山道を地道に歩くか、四輪駆動車で川をバシャバシャと進むかの方法に委ねられます。

 

今回は四輪駆動車で川からアプローチすることにしたのですが、ようやく見えてきた古民家とその様子に嬉しくなりました。

 

いつもならば、木の葉が揺れる音と川のせせらぎ、鳥のさえずりしか聞こえない場所に活気ある声が聞こえます。ドアや窓が開放され、建物周辺には工事に必要な材料や道具が雑然と置かれ、人影が見えます。

 

やっぱり、人が居るのはいいものです。建物は人が居てはじめて用を成し、人が出入りするだけで建物寿命は延びるのです。

 

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実はこの古民家、これまでに何度か修繕・改装を施された形跡があり、内装、外観共にそこまで荒れ果ててはいません。1年ほど前まで居住者が居た事もあり、ライフラインもしっかり設備されています。
こんな山奥なのに、お庭の電柱まで電気や電話の回線も引き込まれているし、水は天然水ですが、プロパンガスのボンベを置けば火だって使えます。さすがに湿気は多めなので、畳は入れ替えるとしても、大掃除をして、生活必需品を持ち込めば住めそうな具合。

 

ただ、あれこれとリフォームされた室内は、現代生活に合うように改善されてはいても、どこか味気ないのです。
天井を取っ払って屋根組が見えるのはいい感じなのだけど、屋根裏に杉板をぐるっと張り巡らしてニス塗装したり。壁はプリントベニヤ合板で仕上げ、柱や梁などの木材はニスでツヤツヤに塗装。洋室風に改装されたお部屋の床は、プリント集成材のフローリング仕上げになっちゃっています。

 

長い間放置されていた古民家と違って、一見よく見えます。今にも崩れ落ちそうな不安も無ければ、床板が抜け落ちるようなドキドキも、トイレが離れで怖いといった古民家の不便さも見当たりません。

 

ただ、なにかしっくり来ない。どうも残念。むしろ、よく見る内装なのです。

 

「最近のアパートみたいな材で仕上げているから、良さがなくなっている。逆にやりすぎている」せっかくのこの環境、この建物がもったいないと思った現在のオーナーが、この古民家の魅力を引き出すべく、今回リノベーションが行われることになりました。

 

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先ずは、古民家の正面。外観からは、特に変化は見られません。
進捗状況や改装内容も知らないままに訪問したので、さっそく玄関ドアから入ろうとすると、すぐに呼び止められました。

 

言われないと気づきませんが、もともと土間だった玄関フロアに、新たにコンクリートを打ち直し、きれいな土間に仕上げていたのです。それでもまだ良くわからず、踏み込もうとして「まだ乾いていないから!」とさっきより大きな声が飛んできました。

 

しゃがんで間近に見て納得。床板を剥がしただけのデコボコな土間と、土間用に仕上げた土間とでは、表情や表面の艶が全然違います。こんなささやかな事が気になるなんて、オーナーのこだわりに関心しきりです。

 

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同じく土間フロアの台所は、キッチンシンクと水栓が新品に入れ替えられ、シンク正面の壁には白いモザイクタイルが貼られています。生活便利な大きなシステムキッチンなどはあえて採用せず、古民家の雰囲気を壊さないように、ささやかな遊び心がプラスされました。

 

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伝統的な古民家で言うところの表の畳間である、いわゆる一番座と二番座は特に間取り変更などはせず、塗装や材を変えるだけでとどめています。もともとある柱や梁、天井材をつや消しの黒に塗装し、室内壁は漆喰で左官仕上げになっています。
表に向かって造り付けられていた仏壇はなくして、裏座のお部屋の収納棚へ変更。大きな変更をせずに雰囲気が柔らかくなり、より心地よい空間に仕上がっています。

 

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まだまだ工事中のごった返している最中、ちょっと照明を取り付けてみたりして。様子を見てみます。

 

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洋室に変更されていた、裏座のふた部屋と増築部分のお部屋の床は、集成材のフローリングから杉板へ変更。梁や柱や巾木はツヤ消しの黒に塗装し、天井材もプリント合板から、シナ合板へ貼り替えられています。
少し材料を変えただけで、むしろ控えめになったようにも思えるのですが、こっちのほうがしっくりきます。洋服と一緒で、色や素材を変えるだけで、それを身にまとう主人公の魅力を引き出すことが出来るのです。

 

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最初に正面玄関から入り、ぐるぐると移動して室内にばかり気を取られていましたが、今回のいちばんの進化は建物外にありました。

 

建物を正面から見て右側の、高く積み上げられているコンクリートブロック壁を回りこんでみると、ちょうど水道の引き込み工事作業中でした。天井がないコの字型のブースは、ブロックで3つに仕切り、左から倉庫、野外洗面台、シャワーブースになる予定。

 

そっか、そうだった!
この古民家の最大の特徴は、手付かずの緑と、プライベートリバーと言っても過言ではない川が目の前にあること。この自然豊かな環境を思い切り楽しむための設備が新たに作られていたのです。

 

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思い起こせば、初めてここへ来た時に思わず川へ入ってしまったし、思わずはしゃいでしまったのだった。そうしたかったからではなく、思わず・・はしゃいでしまったのです。
そうかなるほど、ここには川がある。思わず遊ぶ。ずぶ濡れになる。シャワーに入りたくなるから、シャワーが必要。
川やお庭で使ったおもちゃやアウトドア用品の収納も必要になるだろうを見越して収納倉庫。
広い庭を活かしてバーベキューをする事もあれば、手洗いも必要だろうし。

 

住まいのことばかり、室内のことばかりがリノベーションではないのです。この物件を好む人であれば、アウトドア好きに違いないし、それを含めた生活スタイルと空間を考えたと言うことなのです。

 

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遊び心で取り付けた、外国製のアウトドア用シャワータンク

 

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ディ・スペックの事務所がある宜野湾市から、東村高江のこの古民家までの道のり車で約2時間。

 

正直、車の運転は楽しいを通り越しています。環境が環境なので虫も多いし、蚊にも刺されるので、虫除けや蚊取り線香は必須です。場合によってはイノシシなどの野生動物に遭遇する事もあります。

 

それでも帰る頃には、出発前の重い気持ちはなくなり、どこか満たされた感じになります。

 

広大な自然に包まれるだけで、目に見えないマイナスイオンや匂いが知らず知らずの内に癒やしてくれているのでしょう。人間だって動物です。理屈じゃない感覚的なものが、こころが欲しているから、ここを選ぶのです。

 

川遊びが好きな人、古民家が好きな人、アウトドアがライフワークな人。出来上がり次第、情報を公開しますので、古民家リノベーションもうしばらくお待ち下さい。

 

 

なぜ川へ入るのかって?
「そこに川があるから」

 

お後がよろしいようで・・・

 

 

 

ディ・スペック株式会社
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